「旅×酒」をテーマに、おいしいお酒を求めて40ヶ国200都市を巡った吉川大智です。今回わたしがおすすめするのは、スペイン巡礼「カミーノ・デ・サンティアゴ」です。
フランスのサンジャンピエドポーからピレネー山脈を越えて、世界三大聖地のひとつである「サンチャゴ・デ・コンポステーラ」まで、約800キロメートルを歩いていく巡礼。
もともとは敬虔なキリスト教徒が行う聖地巡礼で、古くからある伝統的なイベントですが、今日では世界中からレジャー感覚で多くの人が世界中から集まり、巡礼路を歩いて旅しています。
つらい、やめたい、かえりたい……。そんな思いを抱きながらも最後まであきらめずにゴールできたのは、そこに「うまいお酒」があったから。今回は飲みながらのんびりと800キロメートル歩いたエピソードをお話します。
「カミーノ(巡礼)」とは?
スペイン北西部にあるガリシア州の州都、サンティアゴ・デ・コンポステーラは、エルサレム、ローマに並ぶキリスト教の三大聖地です。
巡礼のゴールはサンティアゴ・デ・コンポステーラですが、その聖地までに行く道はひとつではありません。出発地点はフランスやポルトガルなど、いくつかの道があります。
一番の王道はフランスのサンジャンピエドポーが出発地点とするコース、私もそこからスタートしました。
なんでも敬虔なキリスト教徒は「実家の玄関」がスタート地点だとか。実際わたしも「オランダのアムステルダムにある実家から3ヶ月かけて2,300キロメートル歩いてきた」という強者に出会いました。とうてい真似できません。
それぞれの巡礼路には500メートル間隔で道順を示す黄色い矢印や巡礼マークがあるので、迷うことはありません。そして巡礼路沿いには「アルベルゲ」という巡礼者専用の宿があります。
1泊5~15ユーロと比較的リーズナブルで、場所によってはドネーション制で運営している宿もあります。
わたしの巡礼×酒ルーティン
野を越え山を越え川を渡り……と多種多様の景色が楽しめる巡礼路ですが、基本的には街や村を通っていきます。そこで注目したいのは、地元ならではの小皿料理が並び、地元民に愛されているお店「バル」。
さすがにすべてのバルに行ったわけではないですが、当時は一日平均すると5、6軒は回っていました。
朝4時、まだ日が昇らない時間帯は星を見ながらのんびりと歩き、朝日が昇って明るくなってきた頃、バルに寄って生ハムをはさんだバゲットとエスプレッソをいただきます。
すでにこのときからビールを飲んでいる陽気な巡礼者もいましたが、さすがの私も朝の7時段階ではエスプレッソと決めていました。
朝ごはんを済ませたら、のんびりと歩きはじめ、そこで粋なバルを見つけるたびにふらっと立ち寄ります。
12時にはパスタやリゾットとスパークリング
14時にはサングリアとドーナッツ
16時には赤ワインとオムレツ
17時半頃に白ワインとピンチョスをくいっと飲んで、19時前には宿に到着。
そして宿に居合わせた人たちとワインを楽しんで泥酔して眠る……という一日中酔っぱらいフルコースを実践していました。
巡礼と人生は似ている
また、巡礼路の地図を見て「次の村まで結構距離があるな」と思ったときには、近くのスーパーでワインを一本買って、バックパックに入れて歩きました。
それは自分で飲むためでなく、道中で出会う人達におすそ分けをするため。
毎日いろんな人と出会って一緒になるので、ひとやすみしている巡礼者に声をかけ、ワインをあげて一緒に身体を休めます。しばらくそんなことを続けているうちに、パンやチーズ、チョコレートを譲ってもらうようになりました。
巡礼は皆ペースは違えど同じ方向に向かって歩いているので、一期一会の繰り返しですが、同じ人と何度もすれ違うことも。「この前ワインくれたの覚えているよ。これよかったら、どうぞ」
これぞ本当のギブアンドテイク。すべてを持っている必要はなく、おのおのが持ち合わせているものをシェアし合うことで、お互いに笑顔になれる。
両手に荷物いっぱい抱えていると、新しいものはつかめない。奪い合えば足らぬ、分け合えば余る。巡礼と人生は似ている……とやけに感傷的になりつつ、酔っ払らいは歩を進めます。
地ビール、ワイン、サングリアを飲みつくす
地域やバルによって、特有のピンチョスやタパスがあるので、それに合わせていろんなお酒を楽しみました。
サングリアひとつとっても、赤ワインベースでオレンジやイチゴがたっぷりはいっているのもあれば、白ワインベースで炭酸で割るタイプのあっさりしたサングリアもありました。
また、地域によっておいてある生樽のビールや瓶ビールのラインナップも違うので、スペイン国内のさまざまなビールが楽しめます。
スタンディング形式のバーカウンターで飲んでいると、世界中の人たちと交流できるのも嬉しいポイント。疲れが溜まって足がフラフラしているときも、バルによると不思議とエナジーがチャージされます。
カミーノに参加して気づいたこと
毎日30キロメートル近く歩き続け、26日後にゴール地点に着きました。身体中が筋肉痛で、重いバックパックを持って移動の毎日。巡礼は正直、楽しいばかりではなく、辛いことのほうが多かったように思います。
それでも飲み歩きが好きな生粋ののんべいにとって巡礼は、運動も兼ねてたくさんのバルに行ける最高のイベントとも言えます。歩きながらこれからの人生をゆっくりと考えられるし、巡礼中に行ったバルや宿での出会いが、人生を一変させるかもしれません。
「歩く、飲む、食べる、眠る」という人間の根源的かつシンプルなことを、これでもかと体感させてくれます。
人生歩き続けるのは大変ですが、立ち止まって休憩して、ゆっくりと自分を見つめ直す時期があってもいいのです。人生はこれからも続いていくのだから。
素敵な出会いと体験があることを願って、ブエン・カミーノ(良い巡礼を)!
All photos by daichi yoshikawa