ライター
土庄 雄平 山岳自転車旅ライター|フォトグラファー

1993年生まれ、愛知県豊田市出身、同志社大学文学部卒。第二新卒を経験後、メーカー営業職とトラベルライターを両立。現在は、IT企業に勤めながら、自然や暮らしに一歩踏み込む、情報発信に精を出す。 山岳雑誌『山と渓谷』へ寄稿、「夏のYAMAPフォトコンテスト2020」入賞、「Yahoo!ニュース ベストエキスパート2024」地域クリエイター部門グランプリなど。山での活動をライフワークとし、学生来、日本全国への自転車旅を継続している。

外海キリシタンの再興に欠かせない「ド・ロ神父」の存在


禁教が解かれた明治前半、この外海は大きな転換期を迎えます。その立役者となったのは、外海の隠れキリシタンの人々を導いたフランス人宣教師「マルク・マリー・ド・ロ神父」の存在です。


明治12(1879)年、彼は外海地方に赴任してくると同時に、地域住民の福祉と生活向上のため、さまざまな福祉活動・慈善事業に尽力し、その功績が後に世界遺産となる教会と集落景観を作り上げました。

今にも伝わっている、ド・ロ神父の「殖産興業」の軌跡


断崖地形が発達しているため田畑に乏しく、漁業でも海難事故が相次いでいた外海。そのため外海の隠れキリシタンは貧困という問題を抱えていました。

そこで「ド・ロ神父」は、パスタや素麺などの食品、絹織物などの産業を伝え、農地開墾を行って立て直しを図ったのです。


たとえば、農地開墾の拠点として建設されたのが「大平作業場跡」。ド・ロ壁と呼ばれる西洋レンガ積みの工法が特徴で、愛馬を繋いだといわれる留金具の痕跡も残っています。

■詳細情報
・名称:大平作業場跡
・住所:長崎県長崎市西出津町
・地図:
・アクセス:長崎市街から車で約1時間
・公式サイトURL:https://www.city.nagasaki.lg.jp/shimin/190001/192001/p000611.html


また道の駅・夕日が丘そとめ内のレストラン「ラ・メール」では、外海の食材を使った豪華バイキングランチを楽しめますが、その中には「ド・ロ様素麺」も。ちょっと太めでコシの強い素麺は食べ応え抜群!実は日本初のパスタとも言われています。

■詳細情報
・名称:道の駅・夕日が丘そとめ/レストラン「ラ・メール」
・住所:長崎県長崎市東出津町
・地図:
・アクセス:長崎市街から車で約1時間
・営業時間
ランチ11:00~15:00 ◆ L.O14:00
ディナー/夏(4~9月):15:00~20:30 ◆ L.O19:30
ディナー/冬(10~3月):15:00~19:30 ◆ L.O18:30
・定休日:年中無休
・電話番号:0959-25-1430
・予算:1000円〜2000円
・公式サイトURL:http://www.yuhigaoka-sotome.com/restaurant/

外海の文化景観の顔!ド・ロ神父が築いた「教会」がすばらしい


一方で、外海の隠れキリシタンにとって大きな鍵となったのが、祈りの場である「教会」。ド・ロ神父は外海にある教会の設計・建築を指導しており、そのほとんどが世界遺産に登録されています。

まさに、これらの教会の建設をもって、外海の文化景観が完成したと言っても過言ではなく、現地のアイデンティティーと言える施設です。


まず外海の中心となる教会が「出津教会」。五島灘に面し、風の強いこの地の気象に対応するため、堅牢なレンガ造瓦葺き平屋建てとなっており、白亜の外観が美しい教会堂となっています。

教会建築らしい細かなキリスト教の意匠はなく、シンプルながら集落景観とよく調和しているのもポイントです。

■詳細情報
・名称:出津教会
・住所:長崎県長崎市西出津町2633
・地図:
・電話番号:0959-25-0012
・アクセス:長崎市街から車で約1時間
・公式サイトURL:https://kyoukaigun.jp/reserve/list.php
※世界遺産のため、見学の際には「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産インフォメーションセンター」への事前連絡が必要。


一方で、もう一つの「大野教会堂」は大きく外観が異なっています。
石積みに使われているのは、この地方でとれる結晶片岩という石材。そして、所々木材や西洋レンガも使われているのが特徴です。


まさに昔から外海で使われていた伝統的な工法と、ド・ロ神父がもたらした西洋の工法が融合した和洋折衷の教会建築となっています。

ここに外海の文化景観の独自性が垣間見ることができるでしょう。これこそ、大野教会堂が世界遺産に登録されているゆえんです。

■詳細情報
・名称:大野教会堂
・住所:長崎県長崎市下大野町2619
・地図:
・アクセス:長崎市街から車で約1時間
・公式サイトURL:https://kyoukaigun.jp/reserve/list.php
※現在は建物の老朽化・保存上の関係で堂内へ入ることはできません。
※世界遺産のため、見学の際には「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産インフォメーションセンター」への事前連絡が必要。

世界観を引き立てる!心洗われる外海の風景


最後に紹介したいのが、外海ならでは美しい自然景観。変化に富んだ地形は、思わず息を呑んでしまうドラマチックな絶景の宝庫です。

キリシタンを題材とした遠藤周作の「沈黙」という小説にも、外海の風景の感動的な描写が綴られています。

宝石のようにきらめく「黒崎海岸」


まず黒崎集落の海沿いにあたる「黒崎海岸」はぜひ立ち寄ってほしい場所。平たく言えば、何もない場所なのですが、それがいいのです。晴れた日には、太陽の光が水面にこぼれ、宝石のように輝きます。

きっと当時のキリシタンたちも眺めていたであろう景色。綺麗な海は今でも守りぬかれています。

■詳細情報
・名称:黒崎海岸
・住所:長崎県長崎市下黒崎町
・地図:
・アクセス:長崎市街から車で約1時間
・オススメの時期:午後

道の駅・夕日が丘そとめから眺める「五島灘の夕日」


外海で一番有名といっても過言ではないのが、道の駅・夕日が丘そとめから眺める「五島灘の夕日」。

遮るもののない大海原をオレンジ色に染め上げながら夕日が刻々と沈んでいく光景は、温かみに満ちて神々しく、そしてひたすらに心洗われる時間です。

■詳細情報
・名称:道の駅 夕日が丘そとめ
・住所:長崎県長崎市東出津町
・地図:
・アクセス:長崎市街から車で約1時間
・電話番号:0959-25-1430
・オススメの時期:日没時刻30分前からスタンバイするのがおすすめです。
・公式サイトURL:http://www.yuhigaoka-sotome.com/

外海の人々の結束力の象徴「大中尾棚田」


最後に紹介したいのが、外海の中でも一番北部、神浦(こうのうら)にある「大中尾棚田」。日本棚田百選にも選ばれているこの棚田の存在は、地域の結束力の象徴です。

例年10月下旬には「大中尾棚田火祭り」が行われ、地元の人々の思いが温かな光で表現されます。

■詳細情報
・名称:大中尾棚田
・住所:長崎県長崎市神浦下大中尾町
・地図:
・アクセス:長崎市街から車で約1時間10分
・オススメの時期:田植えの6月と、10月下旬の大中尾棚田火祭りがおすすめ
・公式サイトURL:https://www.at-nagasaki.jp/event/64908/

歴史ロマンと癒やしが溢れる場所・世界遺産の外海を巡ろう!


今回は「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」の構成資産となっている、長崎市旧外海町への旅をご紹介してきました。少しディープな視点も盛り込みましたが、それこそがこの地の醍醐味です。

過去の歴史が今に生きており、それを読み解くことで、新たな見方が広がる。わからなかったことが見えてくる。ここまで歴史の中にある原風景と現代の姿が結びついている地域は珍しいでしょう。


日本の他のエリアとは一味も二味も違う、隠れキリシタンの聖地「外海」。ぜひ一度訪れてみてはいかがでしょうか?

※世界遺産の教会を見学する場合は、以下のURLから必ず事前連絡を入れるようにお願いします。

長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産インフォメーションセンター

All photos by Yuhei Tonosyou

ライター
土庄 雄平 山岳自転車旅ライター|フォトグラファー

1993年生まれ、愛知県豊田市出身、同志社大学文学部卒。第二新卒を経験後、メーカー営業職とトラベルライターを両立。現在は、IT企業に勤めながら、自然や暮らしに一歩踏み込む、情報発信に精を出す。 山岳雑誌『山と渓谷』へ寄稿、「夏のYAMAPフォトコンテスト2020」入賞、「Yahoo!ニュース ベストエキスパート2024」地域クリエイター部門グランプリなど。山での活動をライフワークとし、学生来、日本全国への自転車旅を継続している。

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