こんにちは、TABIPPO編集部です。2020年10月12日に締め切った、「#私たちは旅をやめられない」コンテスト。たくさんのご応募ありがとうございました!

募集時にクリエイターの方々の作品例を掲載しておりました特集にて、受賞作を順次掲載する形で発表させていただきます。

それぞれの旅への思いが詰まった素晴らしい作品をご紹介していきたいと思います。ぜひご覧ください。

今回はTHAILAND賞に輝いた、だいふくだるまさんの作品『ほんのちょっぴり懐かしくて切なくて。』をご紹介します。

だいふくだるまさんには、タイ国政府観光庁より「ダイアモンドクリフリゾート&スパ プーケット スーパーデラックスルーム2泊分:ペア1組」と、副賞として「株式会社アライドコーポレーションのタイカレーレトルト3箱セット」が贈られます。それでは、作品をお楽しみください。

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最近自分でも驚くくらい士気が下がってきている。思えば、毎年のようにわたしは海外へ旅に出掛けていて、それが仕事にしろプライベートにしろモチベーションになっていたのだということに気づく。

そしてこれまで海外へ行った中でも一番味わい深かったのがタイだった。過去を遡ってみると、大体10回くらい入っている。飽き性のわたしは、一度行った場所にはあまり行きたいと思わない性格だから、これは自分の中では「お気に入り」となった証拠である。

そういえば、俄かに巷でコロナが流行り始めた時に、最後に行ったのがタイだった。今年の2月の三連休。その時は一緒に行った友人たちとの間で、コロナにかかったらちょっとやばそうだよね、と話をしていたのだが、いやもう十分対策をとって出掛けよう!という結論にたどり着いて半ば強行に飛行機に乗った。今思えばあの時はこんな状況に見舞われるとは全く予想していなかった。

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今では行き慣れてしまった微笑みの国・タイ。今も昔も変わらず、騒々しい国でそして蒸し暑かったのだけど、なぜだか親しみとほっと休まる瞬間が訪れる。あのじわりと湿気の高い空気は何となく落ち着く気持ちさえする。

そして、東南アジアの国々に行くことにはまったきっかけも、タイだった。最初に訪れたときのあの何ともいえないエキゾティックな匂い。わたしはあの匂いが好きだった。どの国も、自分の国にいるとわからない生活臭がふわふわしている。日本に来た人が、日本人からは醤油の香りがする、というように。

日本にいると、毎日がとんでもない速さで進んでいく気がする。何かに急き立てられるように生き急いで、夜は酒をたくさん摂取して昨日のことも明日のこともさらにいうと今現在のことも、はるか忘却の彼方へと押しやってしまおうとしている。そうでもしないと、いつか先の見えない何かに押しつぶされてしまうような気がしてしまうから。

タイは、そんな切羽詰まった自分の心を解放してくれる場所だった。タイに流れるチャオプラヤー川は恐ろしく川幅が広くて、現地の人々たちは色とりどりの旗を立てたボートに乗って目的地へと進んでいく。

そして、ボートを降りた先には至るところに見上げるほどの仏塔が至るところに建てられていて、自分は一体どこに立っているのかわからなくなってくる。薄い目をした神様が、何やら親しげに語りかけてくる。

「お主は、何をそんなにも焦っておるのだ?」

中には首のなくなってしまった仏像もたくさんある。昔タイは他の周辺国からやたらと攻撃を受ける国だった。おかげで、仏殿にあった神様たちの首は根こそぎ切り取られた。侵略者たちも仏様が持つ神通力の存在を恐れていて、だからこそ真っ先にその首を切り落として何とかその得体の知れない力から逃れようとしたのだ。

至るところに仏様がいて、日常的に人々は信心深く祈りを捧げる。仏殿の中ではゆらゆらと炎が揺れる。彼らには信ずるべきものがあって、その存在によって毎日を辛抱強く生きることができるのだ。女の子たちが、占いに自分の人生を委ねようとする気持ちとちょっぴりにているかも知れない。

日本だとLGBTに対してまだまだ理解が進んでいるとは言い難い環境だが、わたしが好きになったこの国では、日本よりもずっと彼女たちの存在を確りと認識している。

わたしが現地で出会った彼女たちは、とても気高かった。生まれた時の性と自分たちが真に秘めている性の違いなんて些末なものであるかのように、堂々としている。彼女たちは何者にも縛られず自由だった。それはもちろん生きている中で辛いこともあっただろうけれど、彼女たちにはそんなものも吹き飛ばしてしまう力強さがあった。

彼女たちの、その力強い瞳の力はどこからやってくるのだろう。

バンコク市内からゴトゴトと電車に揺られて向かった先は、かつて栄華を誇ったとされるアユタヤ朝があった場所。そこにある「ワット・マハート」というアユタヤ朝の初期に建てられたとされる寺院。かつてこの場所も侵略の憂き目に遭い、時代の変遷の中で仏様は木と一体化してしまったらしい。

不思議な空間だった。仏様が木に埋もれているそばで、中国語を話していると思われる集団が、何やら神妙にガイドの言葉を聞いている。時々その中で勉強熱心なおばあちゃんが何やら中国語で捲し立てる。そんな彼らの姿を横目にして、わたしは横から仏様とそれを取り巻く木を撮った。なぜだか胸の奥がキュッとした。

タイの人たちが長らく喪に服した時。今のタイの王様は何かにつけて世間から批判されてばかりだけれど、その前の王様はみんなからとても愛されていた。その王様が亡くなった時、町中から喧騒が消え異様な空気に包み込まれた。みんながみんな黒い衣装に身を包み、歩いていたのが印象に覚えている。

特に意識していたわけではないけれど、タイで起きた何らかの節目節目に何となく気づいたらその場にいた気がする。今ではその出来事さえ、遥か昔のように感じる。もう一度、あのモワッとして憂いを帯びた空気感に触れられたらいいのに。

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今年の2月、コロナ大流行直前にタイを旅した時、出会ったおばあちゃん。

彼女が手に持っているのは何と、コーラだった。おばあちゃんとコーラ!?めちゃくちゃ意外な組み合わせだったけれど、彼女にコーラが好きなのかと尋ねると、彼女は茶目っ気たっぷりにこればっかりはやめられないんだよねえ、と嬉しそうに笑うのだった。意外にも彼女の口の中の歯はきれいに生え揃っていた。

わたしにとって、タイは自分を取り戻せる場所だった。カメラのファインダーを通して広がる世界に、心の奥底から深く息をして、たゆたう空気の音に耳を澄ませ、そして次に進む場所を指し示してくれる瞬間。

いつの間にか、俗世間で揉みくちゃにされて疲れた心身が回復していたことに気づくのだ。

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編集部

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