こんにちは、TABIPPO編集部です。2020年10月12日に締め切った、「#私たちは旅をやめられない」コンテスト。たくさんのご応募ありがとうございました!

募集時にクリエイターの方々の作品例を掲載しておりました特集にて、受賞作を順次掲載する形で発表させていただきます。

それぞれの旅への思いが詰まった素晴らしい作品をご紹介していきたいと思います。ぜひご覧ください。

今回はWORLD賞に輝いた、みなみつきひさんの作品『心から楽しめなかった旅のほうが、心に深く残っているー悲しみの街マテーラー』をご紹介します。

みなみつきひさんには、イタリア政府観光局より「特別アペリティーボセット」が贈られます。それでは、作品をお楽しみください。

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2011年の夏、私はイタリア南部で浮かれていた。ローマやナポリ、シチリアを旅しながら、まぶしすぎる太陽に酔い、美味しい料理に胃も心も満たされて、いつ着るとも分からないハードルの高すぎるデザインのワンピースを手に入れたりした。

『イタリアは最高です』と書いた絵手紙を、自分宛に送ったりして。きらびやかな大聖堂を見上げて驚愕し、コロッセウムやギリシャ時代の劇場の地に足を踏み入れてタイムスリップした気分に浸り、青すぎる地中海を潤んだ目で眺め、エトナ火山をハイキングして壮大な自然を満喫していた。

楽しい。いやあ、楽しすぎる。明日はどんな楽しみと出会えるんだろう。そんな浮ついた気持ちで、旅を続けていた。

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次に向かったのは、イタリアのくるぶしに位置するマテーラという街だった。サッシと呼ばれる石窟住居群は、石灰岩を掘り抜いて築かれた洞窟の街。

暗い。街に降り立って最初に吸った空気は、ひどく重苦しかった。街に色がなかったせいだろうか。青い空と、黒ずんだ土の色。それだけだった。

歴史を感じさせながらも、時間が止まっているかのような空虚さ。想像していたリゾート感とは、真逆の風景だった。

それでも私は洞窟ホテルに泊まれるぞと、珍しい体験に少しうきうきしていた。

ホテル内には、洞窟のプールもあった。

神秘的だけど、なんか落ち着かない。楽しいけど、それだけじゃない。この街の暗さは、私の心にずっと引っ掛かって取れなかった。

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そして翌日訪れた『グロッタの家』で、私は大きなショックを受けた。そこは、18世紀当時のマテーラの農民の暮らしを再現した、資料館のような家。家具の配置や家畜の様子なども忠実に再現してあった。

もう、ぎゅうぎゅうだ。ベッドの下にニワトリが寝て、そのすぐ横でロバがエサを食べている。そのそばにキッチン。想像を絶する暮らしぶりだった。

マテーラにいったいどんなことが起こったのか。

8世紀頃、イスラム勢力に追われたギリシャ正教の修道士たちが逃げてきた。修道士たちは洞窟でひっそりと禁欲的に暮らしていたが、その後農民たちも住み始め、16世紀には人口が急増した。

街は繁栄したかのように見えたが、実際は貧富の差が広がり、富んだ者は高台の近代的な住居へ、貧しい者は洞窟で暮らし始めた。

そしてその洞窟で、人と家畜が同じ部屋で暮らすようになる。家畜の盗難を防ぐためだったり、寒い時に動物やその糞で暖をとるためだったりと、理由はあったようだが、やはり洞窟なので光が入らず、水はけも悪い。衛生状態が悪く、伝染病も流行りやすかった。

その後、マテーラは貧困を象徴する街となり、「イタリアの恥」とまで言われるようになった。そこでイタリア政府は1950年頃、マテーラの住民を強制的に近代的な街へと移住させた。国の見栄のために、強制的に皆を退去させたのだ。そして、マテーラは無人化し、サッシは廃墟と化した。

マテーラは一度死んだ街だった。

その後は皮肉にも、洞窟住居や石窟教会のユニークさが再評価され、1993年にユネスコの文化遺産に登録された。それを機に、観光地としての再開発が始まり、街の保全のために住民の誘致も積極的におこなうようになったのだという。翻弄され続けた人々のことを思い、いたたまれない気持ちになった。

自分がこの地に、観光客として足を踏み入れているのは、果たしていいことなのだろうか。以前住んでいた人々は、どんな気持ちでこの地を後にしたのだろうか。今の観光客を見てどんな気持ちを抱くのだろうか。ざわつく心を抑えきれなかった。不吉ささえ感じた。
 
私の心もマテーラの街のように、どんよりと沈んだ。どうしてここに来てしまったのだろうと思った。

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暗い顔でとぼとぼと歩いていると、目の前に小さな売店があった。その店の棚に並んだ2枚の絵ハガキを見て、私はハッと息をのんだ。

そこには、強く生き抜いた当時の人々の姿があった。かっこいいくらい、凛として見える。

人々は決して、卑屈になどなっていなかったんじゃないだろうか。自分たちの暮らしを大切にしていたんじゃないか。胸を張って生きていたように見える。私の勝手な想像でしかないけど、そう感じたことでほんの少し救われたような気がした。

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旅には、実際に行かないと吸えない空気がある。グーグルマップでどこへでも行ける今だからこそ、特にそう思う。知らなかった事実、人々の暮らし、そこでの温度、空気の感触。旅を通して、そういったことを新しく知る自分がいて、衝撃をもらう自分がいる。

またマテーラの空気を吸いたい。よくそんなことを考える。次に訪れた時は、もっと歴史を探りたいし、旧石器時代の遺跡のほうにも行ってみたい。そこでどんなことが起きたのか想像したいという気持ちが、むくむくと沸き上がる。

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楽しい、だけが旅じゃない。

後から振り返ると、楽しめなかった記憶の方が、強く心に残っている。それはきっと、その時の自分では受け止められなかった何かがそこにあったからなのだろう。当たり前のことかもしれないが、マテーラは私にそのことを教えてくれた旅だった。

そして、そんな出合いがあるからこそ、やっぱり旅はやめられない。心に深く刺さり続けるマテーラの景色を思い浮かべながら、そんなことを思ったりする。

※余談ですが、メル・ギブソン監督の映画『パッション』でイエスが十字架を背負って歩くシーンも、マテーラで撮影されたそうです。

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