ライター

1995年秋田県生まれ・千葉県育ち。日本47都道府県、世界40ヵ国を訪問。新卒で不動産会社に就職し、新卒採用と営業を経験。退職後はワーキングホリデービザでデンマークに1年2ヶ月、ベルリンに6ヶ月滞在し、現在はヘルシンキ在住。"旅するスパイスカレー屋"を世界中で不定期開催しています。

デンマークでの暮らしは、穏やかで心地よく、この空気に溶け込みたいと思うほど、私にしっくりと馴染むものだった。

なぜ、こんなにも居心地が良いと感じたのだろう?

春の訪れを感じる4月下旬の今日、デンマークの首都コペンハーゲンでお気に入りのカフェに腰を下ろし、言葉を綴ってみようと思う。

好きがあふれるデンマークでの暮らし


心地よさを大切にする「ヒュッゲ(Hygge)」の精神が好き。

家族や友人と一緒に小さな幸せを感じて「今ここ」を楽しむ時間は何よりも豊かだ。

インテリアデザインも好き。

機能性が高く洗練されたデンマークの家具に囲まれると、自然と背筋も伸びる。食器やポスターなどのインテリアグッズは、ポップでカラフルなものが多く、目に入るだけでテンションが上がる。

“自分で自分を幸せにする”のが上手なところも好き。

街中ではどこを見ても、思い思いにリラックスする人々の姿。

いつもと同じ道を通って同じ景色を見ているはずなのに、そこに違う人がいるだけで新しい景色のように見えるから、人間観察をしながら飽きることなく散歩を楽しんだ。

「好き」という感情が湧き上がる場面が多く、心が満たされる日々だった。だから私にとって居心地の良い暮らしだったのだろう。

そのなかでも私の生活をより豊かにしてくれたのは、「編み物」との出会いだった。

北欧の人々がきっかけではじめた編み物

デンマークの毛糸ショップにて
私が編み物に初めて興味を持ったのは、2019年の冬に北欧4カ国を巡る旅をしたときのこと。

電車での移動中に1人でもくもくと編む人、カフェで友達とおしゃべりをしながら編む人。旅の途中で、さまざまなシチュエーションで編み物をする人を見かけた。

とくに印象に残っているのはノルウェーのオスロからベルゲンへ向かう長距離列車の中で出会ったマダムたち。コーヒーやおやつをつまみながら、おしゃべりに花を咲かせる手元には、編み物。手元をほぼ見ずに器用に編み進めている姿に、思わず見入ってしまう。

俊敏に動く指先と、ゆったりとした会話の対比がなんともおもしろく、その平和で可愛らしい光景に心がほっこりとした。

またデンマーク領のバルト海に浮かぶボーンホルム島を訪れたときのこと。「フォルケホイスコーレ」という北欧独自の教育機関で宿泊体験をさせてもらった。

陶芸をはじめとするモノづくりが盛んなボーンホルム島。工芸アーティストも数多くいるこの島で、陶芸体験もさせてもらった。

そこでは授業中にも編み物をしている子が多いことに驚いた。手を動かしている方が集中力が高まるというのだ。

なんと森でのハイキング中に編み続ける子も。そこまで夢中になれるなんて、どんな魔力があるのだろう?と、ますます興味が湧いた。

とくに心が動かされたのは、実際に自分で作ったセーターやカーディガンを着ている子が多かったこと。色や形がひとりひとりにとってもよく似合っていた。みんな自分に似合う色や形をよく分かっているのだろう。

「このセーターが初めての編み物作品だけど、周りの上手な子達が教えてくれたの」という子も。

彼女たちが身に纏う手編みのセーターと、その飾らない雰囲気があまりにも素敵で、「私も自分で編んだものを身につけてみたい」と強く感じた瞬間だった。

自分の好きなものを形にして身につける幸せ


「編み物をはじめたい」という気持ちはありつつも、道具の揃え方も何ひとつ知らなかった私は、Youtubeで情報収集をはじめた。

わかりやすく説明している動画がたくさん見つかり、また可愛い作品をたくさん目にして「あれもこれも編んでみたい!」という気持ちが高まっていった。

さっそく動画を見ながら編みはじめてみると、最初は何が何だかわからなくて本当に合っているのか不安になった。けれど、いくつか段を進めていると、動画と同じような編み目が現れ、「ちゃんと編めている!」とホッとしたことを覚えている。

少し慣れると、するすると針を動かす作業が気持ちよく、リラックス効果があることも感じた。

一度編み始めると止まらなくなり、時間を忘れて気づけば深夜2時!なんてことも。

ハイキング中にも編み物をしていたボーンホルム島でのあの子の気持ちも、今ならよく分かる。とはいえ、さすがに歩きながら編むのはレベルが高すぎる……。

私にとっては、編む作業そのものがとても楽しく、さらに編み進めて行った先に作品が出来上がるという達成感もまた嬉しかった。

編み物を初めて9ヶ月の私が最近作ったものたち
編み物をはじめてから、カラフルなものへのアンテナが敏感になった。身の回りにカラフルなものが増えると、自然と気分も上がる。

手袋、スカーフ、帽子なども、自分で編めるようになり、好きなものを形にして身につけると愛着が湧く。

はじめはYoutubeの動画をそのまま模倣するだけだったのが、今ではアレンジを加えて、オリジナリティのある作品を作れるようになったのも嬉しい。

オレンジと白のボーダーがキュートなお気に入りのミトンの手袋
Photo by Kana Okuyama

デンマークのヒュッゲな編み物文化


デンマークにはヒュッゲ(Hygge)という言葉がある。ヒュッゲというのは、「居心地の良い時間を過ごすこと」を表す言葉で、大切な家族や友人と好きなことをして過ごすという、デンマーク人のライフスタイルをよく表していると感じる。

特に冬は日照時間が短いため、家で過ごす時間を充実させることが幸福度を高めるためにも大切だと考えられている。

そんなヒュッゲな過ごし方のひとつが編み物。おしゃべりをしながら、テレビを見ながらなど気軽に楽しめるのも編み物の魅力。

作りたいものを考え、毛糸屋さんで毛糸を選んで、Youtubeの動画を見ながら編む。

そのひとつひとつの作業が私にとって楽しい時間だった。

デンマーク第二の都市オーフスにて。冬はどんよりとした天気が続くが、光が灯った街並みはあたたかい印象に。
毛糸屋さんに行くと、たくさんの素敵な毛糸を目の前に選びきれず、作るものも決めずに購入してしまうことも。そうして私の部屋には出番を待っている新品の毛糸たちがたくさん眠っているのだ。

お気に入りの毛糸たち。スーパーで買ったものから毛糸屋さんで選んだものまで。
北欧のなかでも、デンマークはとくに編み物のメッカとして知られている。

フィンランドの毛糸ショップでオーナーと話していたとき、私がデンマークに住んでいたことを伝えると、「デンマークといえばPetitknitよね!私もデンマーク行ってみたいなぁ」と言っていた。

Petitknitはデンマーク第二の都市・オーフスを拠点とする手編みのパターンブランド。

このブランドが販売した「ソフィースカーフ」はデンマークで大流行しており、街中でもよく見かけた。上手に着こなすデンマーク人の姿に惹かれて、私が棒針編みで初めて作った作品がソフィースカーフだった。

旅と編み物

Photo by Kana Okuyama
旅で訪れた地で毛糸屋さんに行って、その土地ならではの毛糸を手に取ることが好きになった。

デンマークのカフェで編み物をしていたら、「何を作ってるの?」と話しかけられたことがある。その方も編み物をするそうで、着ていたセーターも手編みとのこと。とても似合っていて可愛かった。

編み物に出会って、旅先での出会いや楽しみが、またひとつ増えた。

旅と編み物。どちらも私の日常にすっかり馴染んだ、大好きな趣味。

Photos by Yurie Shiba

ライター

1995年秋田県生まれ・千葉県育ち。日本47都道府県、世界40ヵ国を訪問。新卒で不動産会社に就職し、新卒採用と営業を経験。退職後はワーキングホリデービザでデンマークに1年2ヶ月、ベルリンに6ヶ月滞在し、現在はヘルシンキ在住。"旅するスパイスカレー屋"を世界中で不定期開催しています。

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