短期旅行では、どうしても予定を詰めてしまいがち。スケジュールを立てて目一杯楽しむのも良いかも知れませんが、わざと小さな空白を作り、気ままにぶらっとしてみるのも案外面白いものです。
その中で入った路地、見つけたお店、出会った人、そんな些細な事が旅を思わぬ方向に導くことだってあります。
ヤンゴンで気ままにぶらりと歩いた結果たどり着いたのは、青々としたミャンマーの原風景とたくましく生きる人々でした。
1. ヤンゴン川の対岸
2013年に軍事政権が終わり、発展の渦中にあるミャンマー最大の都市ヤンゴン。市中は車で溢れ、いたるところで高層ビルやホテルの建設が行われている、今まさに姿を変えようとしている街にお邪魔したのは2016年9月のことでした。
チャイナタウン付近を歩いていると、やたらと無職風の男たちがフレンドリーに声をかけてきます。僕も日本ではよく無職と思われているので、シンパシーでも感じるのでしょうか。
東南アジア諸国でのこういうパターンは十中八九タカりやボッタクリ、ポン引きの類いが多いのですが、ヤンゴンでもそれは同じようです。このあたりでは、みんな「ボートに乗って俺のホームのダラに行こう!俺が案内するよ!」と言ってきます。
別に目的地があったので全て断りましたが、彼らがしきりに誘う「ダラ」という場所がだんだんと気になってきました。
Google mapで調べると、「ダラ」は今いるチャイナタウンからヤンゴン川を挟んで対岸にあるようです。どうやら、フェリーも出ている様子。翌日の予定を変更し、自分の足で「ダラ」に潜入してみる事にしました。
2. 「ダラピープル、ノーグッド」
ダラ行きのフェリー乗り場を探していると喉が乾いてきたので、キビジュースの屋台で一服することに。
ナタを片手に黙々とキビを削るコワモテのおっさんが店主でしたが、チェキで子どもの写真を撮ってあげるととても喜び、急におしゃべりになりました。
しかし、これからダラに行くと伝えると表情が再び険しくなり、「ダラピープル、ノーグッド!」とダラ行きを止め始めました。
おっさん曰く、高額のガイド料を請求されたりボッタクリ商品を売りつけられたりということが多発しているらしく、あまり治安も良くないとのこと。
少し考えましたが、せっかくなのでちょっとした冒険だってしてみたい。ヤバくなったら、金を置いて逃げればいいだろう。
やっぱり行くよ、と伝えると「わかった。ただしサイカー(自転車タクシー)には気をつけろよ」と言って丁寧にフェリー乗り場を教えてくれました。
「あとフェリーは日本人はタダだ。話しかけてくる変なやつは無視して、チケットオフィスでパスポートを見せるんだ」とも教えてくれました。
3. 日本人は無料のワケ
フェリーターミナルは屋台から近く、歩いて5分ほど。屋台のおっさんの言葉を信じ、怪しいモギリ達を無視して進むと、確かにチケットオフィスが奥まったところにありました。
そこで日本人ということを申告し、パスポートを見せて台帳に名前を書くと、本当に無料で船に乗れるようになりました。(まあ支払っても2000チャット=約200円なんですが)
船上は開放式の二階建てで乗船客や物売りでごった返していました。
ここでも、自称ガイドという無職風の男からしつこく声をかけられます。せっかくなんで日本人が無料の理由を聞いてみると、元々あったフェリーが2008年のハリケーンで大破し、今は日本のODAで提供された船が使われているとのこと。
自分たちの税金が遠くミャンマーで役に立っていると考えると、少しうれしくなってしまいます。(でもしつこいのでガイドはしっかり断る)
4. ダラ上陸
ヤンゴン川はそんなに川幅がないので、船の旅はものの10分で終了。船着き場の建屋も市内側の数段ボロく、明らかに経済格差のある様子です。
建屋を出ると待ち構えていたサイカーの車夫たちが一斉に声をかけてきます。市内の自称ガイドたちからずっと同じような誘いを受けていたので、少々辟易としていた僕は、全員を無視してレストランでビールでも飲むことにしました。
しかし、ひとりの車夫がずっとついてきて隣に座って話しかけてきます。ずっとニコニコして声をかけてくる車夫がだんだん妙に人懐っこく思えてきて、こちらが根負けして近くの漁村までの片道だけ乗せてもらうことになりました。
6000チャット=約600円で向こうが渋々妥結。
5. 風と走るサイカー
ダラ地区はヤンゴンと打って変わって自然豊かな田園地帯で、青臭い爽やかな風が吹き抜けています。その中をサイカー独特の緩やかな速度で進んで行くのが、たまらなく心地良いのです。
先程のビールの酔いも相まって、夢心地の道中でした。