ライター
さとり 外に出るオタク

京都出身。ジョグジャというインドネシアの古都の観光局で働いていました。(青年海外協力隊として)京都と東南アジアが好きです。

イスラム教の行事といえば、1ヶ月間日中は食べ物をとらない「ラマダーン」が有名ですが、生贄をと殺・解体し、肉を地域住民でわけあうイドゥルアドハ(イスラム犠牲祭)はあまり知られていないかもしれません。

今回は、イスラム教徒が9割を占めるインドネシアで私が体験してきたイスラム犠牲祭について紹介いたします。

※一部、過激なシーンはイラストに置き換えて紹介いたします。 

イドゥルアドハ(イスラム犠牲祭)とは?

photo by satori

イスラム犠牲祭、イドゥルアドハの正式名称は、イード・アル=アドハー。イスラム・キリスト・ユダヤにとっての信仰の父であるアブラハムが、息子を進んで神に捧げようとしたことを記念する儀式です。

この日、イスラム各地域のモスク(礼拝所)では、生贄の動物をと殺し、地域の貧しい人に分け与えるという行事が行われます。地域によって詳しい開催日・期間は微妙に異なりますが、2019年のインドネシアでは8月11日に行われました。

 

なぜ生贄をと殺するのか

このと殺の儀式がいつから始まったのかは明確ではありませんが、コーランに「イドゥルアドハで捧げられた肉は貧しい人に分け与えられるべきである」と記載があるため、1000年以上続いている行事であることは確かです。

生贄の動物は地域によって異なります。中東では羊・ラクダを捧げますが、インドネシアにはいないため牛・ヤギをと殺します(豚はイスラムで不浄とされているため、屠殺されません)。

続いて、儀式の流れを紹介していきます。

 

犠牲祭は朝8時からスタート

photo by satori

お祭りは朝から、近くのモスクで始まります。モスクといっても観光地になるようなきらびやかなものではなく、公民館のような小さな規模。

8時から始まると聞いて来たのに8:30になっても始まらないのですが、そこはまぁ、インドネシア時間。

photo by satori

モスクには、すでにたくさんの子供たちが犠牲祭の開始を待っていました。1年に1回のこの宗教行事は、子供にとってもお祭りなんですね。

 

犠牲祭設営の様子

photo by satori

モスクにはこのように小さいマンホール程度の穴があり、その上にバナナの木で土台を作っていきます。ちなみに、普段はモスクでと殺は行わないので、このマンホールは1年1回しか使用されません。

 

ヤギのと殺(さつ)開始

photo by satori

8時45分になってようやく行事が始まりました。特に、始まりの挨拶などはありません。よし、やるか。という感じで番号札1番のヤギを大人4人で慎重に運び、先ほど設営した井戸の上に区部を固定します。

そして、下イラストのように頚動脈を切ります。

photo by satori

この瞬間、その場にいる全員でコーランを唱えます。と殺者も、子どもも、まわりの聴衆もみんなで「アッラーフ・アクバル(意味:アッラーは偉大なり)」を大合唱します。無宗教の私も「いいのかな?」と引け目を感じつつ、合唱に参加しました。

photo by satori

途中からはバナナの葉で壁が作られますが、これは血が飛び散らないようにするためであって目隠しではありません。状況が見えなくなるので、こどもたちは近寄って興味津々で眺めたり、スマホで撮影しています。

ヤギの血は3分ほどで抜けるので、終わったヤギを別の場所に移動させた後、次のヤギに取り掛かります。手際が非常に早く、このあたりは流れ作業。

ヤギにも個体差があり、血を抜くともう動かない子もいれば、血が抜かれた後もしばらく生きている子もいました。

 

解体作業

photo by satori

先ほどのマンホールの上では着々とと殺作業が進められていますが、解体もテキパキやっていかなければいけません。ヤギはこのように足を吊り下げて、毛皮を剥がしていきます。

この日は道具が足りていないためか、カッターで作業しており、専門道具がなくても動物の皮って剥がせるんだ!と驚きました。油で手が滑るため、皮を剥がす作業はなかなか大変そうでした。

photo by satori

大まかに部位ごとに仕分けられたヤギは、次の解体班へバトンタッチされ、食肉になっていきます。こうみると肋は骨ばかりで、ヤギの可食部はほぼ脚であることがわかります。

 

大本命!牛の登場

photo by satori

開始から1時間ほど、モスクではひたすらヤギ14匹を屠っては解体を繰り返していましたが、それが終わるとどこからともなく牛が運ばれてきました!

ちなみに今回、このモスクでと殺を行うのは牛5頭とヤギ14頭(すべてオス)。

牛は1匹あたり20万円と、インドネシアの平均月収5〜6万円からしてもかなりの大金です。生贄の購入費はモスクへの寄付で賄われているそうなので、「お金持ちは喜捨をする」というイスラムの文化を強く感じます。

 

警戒MAXの雄牛。ちょっとした闘牛ショーがはじまる

動物というのは不思議で、運ばれてきた牛は自分の命の危機を認識しており、大人でも近寄りづらいくらい警戒しています。この大きい牛をどうやってマンホールまでもっていくかというと、まず、勇気あるひとりのおじさんが牛にロープを引っ掛けます。

photo by satori

そして、そのロープを牛の後ろ足に通して上手に牛を転倒させるのですが、このシーンが一番、牛が暴れます。

photo by satori

5m離れた位置から見ているだけでも怖いです!一応、ロープが何本かついているので走り出すことはないのですが、立派な角でモスクの柱にバンバン当たっていきます。さすがにコンクリートの柱は折れませんが、竹組みなどは壊されてました。

photo by satori

なんとかロープを引っ掛けバランスを崩し、地に伏せたところでまわりの男性(20人くらい)がワーッと押し寄せ取り押さえます。この間も牛は暴れ続けるので、2〜3人だと完全に人間が負けるでしょう。

これを人口2億6千万のインドネシア全土で行っていると思うと怖すぎます。絶対何人か牛に殺されてると思うのですが、今のところそのようなニュースは聞きません。

photo by satori

みんな真剣と思いきや、子供はもう飽きている様子。

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