ライター
土庄 雄平 山岳自転車旅ライター|フォトグラファー

1993年生まれ、愛知県豊田市出身、同志社大学文学部卒。第二新卒を経験後、メーカー営業職とトラベルライターを両立。現在は、IT企業に勤めながら、自然や暮らしに一歩踏み込む、情報発信に精を出す。 山岳雑誌『山と渓谷』へ寄稿、「夏のYAMAPフォトコンテスト2020」入賞、「創業110周年記念 愛知銀行フォトコンテスト」最優秀賞など。山での活動をライフワークとし、学生来、日本全国への自転車旅を継続している。

「日本一の紅葉」と言われたとき、あなたは真っ先にどこを思い浮かべるでしょうか?私たち登山愛好家の中では、北アルプスの「涸沢(からさわ)カール」だという方が多くいらっしゃいます。

氷河の浸食によってえぐり取られた圏谷には、目を疑ってしまうほどに美しい極彩色のカーテン。ナナカマドにダケカンバ、高山帯の植生と神々しい岩塊が織りなす、絵画のような絶景が広がります。

そんな、この世のものとは思えない楽園には、上高地から徒歩6時間半。北アルプスの山中であるため、紅葉は一足早く9月下旬から10月上旬です。

今回は山旅の実践編として、かつて訪れた涸沢カール1泊2日を振り返ってみます。

早朝に上高地を出発!錦秋の明神を仰ぎ見る


涸沢カールへのスタート地点は「上高地」。全国から多くの観光客が訪れる上高地ですが、実は登山愛好家の間では、北アルプスの山々へのメジャーな登山口だったりします。

平湯温泉近くの「あかんだな駐車場」に車を停めたら、上高地行きのバスへ乗り換え。バスは早朝5時から登山客で賑わっていました。

バスを降りたら、北アルプスの核心部・穂高連峰がお目見え。早朝は霧が出ていましたが、くっきりとした青空も迎えてくれます。朝の清々しさとともに、さあ登山へ出発です!


涸沢カールの標高は約2300メートル。上高地が標高約1500メートルのため、約800メートル上がりました。前半はひたすら、梓川に沿って、静かで風光明媚なハイキングルートを進んでいきます。

基本的に樹林帯の中を歩きますが、ふと左手に現れるのは穂高の前衛峰「明神岳」。急峻な山容を見せるこの山は、一般の登山道がなくアルペンクライマー向け。


かつて上高地に入る車道(釜トンネル)がなかった時代には、徳本峠という旧道を使って上高地へ入山するのが一般的でした。その際、峠を越えてまず目にするのが、この「明神岳」です。

10月初旬、圧倒的な存在感を誇る岩塊は、紅葉の彩衣を纏っていました。「きっと昔の登山者も、この明神岳に心打たれながら、北アルプス奥地を目指したのだろう」……先人に思いを重ねながら、ゆっくりと歩みを進めていきます。

変化に富んだ登山。ふと妖精が舞い降りる


標高差はありながら、全体的にゆったりとした行程。そのため、登山者は思い思いのペースで進みます。川のせせらぎや鳥の声、樹林帯を照らす木漏れ日や、倒木に繁茂する苔。

ささやかな癒やしで溢れ、都会の喧騒から隔絶した世界。自然に身を投じることの心地よさに浸っていると、目の前には一寸の光が!まるで妖精が舞い降りたかのような緑のスポットライト。その刹那を写真に収めることができました。


道中には、明神館や徳沢ロッジ、横尾山荘などといった山小屋も点在しているので、定期的に一息つくことができます。名物グルメをいただくのも、登山の楽しみ方の一つ。特に、徳沢ロッジのソフトクリームは、生乳の甘さがじんわりとくる絶品です。

秋が深まりつつある北アルプスでも、まだまだ暑い10月。水分補給をしつつ、体調管理をしっかりと!テントやシュラフは重く、肩への負担がかかるので、何度もバックパックを下ろしながら休憩します。


徳沢から横尾までの区間では、穂高連峰の「北穂高岳」を望みます。北穂高岳は、日本に数えるほどしかない3000メートル峰の一つ。山肌中腹を埋め尽くすダイナミックな紅葉が見事です!

上高地の紅葉はまだ、この区間の登山道は色づき始め、標高2000メートル以上は紅葉最盛期。「自分は今まさに、季節の狭間にいる」――この時期の山旅でしか得られない、四季を旅する臨場感がたまりません。


登山スタートから3時間〜4時間。横尾にたどり着くと、一度吊り橋を渡ります。コンコンと流れる清流、跳ねるように水しぶきが上がるこの場所は、極上のマイナスイオンで満ち溢れていました。

思わず川辺に近寄り、顔をバシャバシャと洗います。この気持ち良さといったら……!風が吹くと、最高に涼しく、キーンと爽やか。クールダウンを経て、いよいよ涸沢の核心部へ。

辿り着くと、そこは紅葉の彩り。念願の「涸沢カール」


横尾を過ぎ、Sガレと呼ばれるポイントから、少し傾斜が出てきます。事実上、登りらしい登りはここだけ。息を整えながら進み、ふと辺りを見渡せば、そこはもう紅葉の中。

青空を背景に、鮮烈な真紅のナナカマド。圏谷一帯がオレンジ色に染め上がります。紅葉の隙間から見えるのは、涸沢カールのテント場。ゴールは近いと、無意識に歩みが速くなります。


色彩の窓に覗くのは、穂高連峰の主峰にして、日本百名山の「奥穂高岳」。標高は日本第3位の3190メートル。鎧のごとき威風堂々とした岩塊は、多くのアルピニストの憧れです。

今日は大勝利の快晴!日本屈指の山々と紅葉のコラボレーションを眺める山行とは、なんて贅沢なのだろう。山へ行くたびに、「日頃の行いをきっと神様も見ているのだ」と思わざるを得ません。


そしてスタートから6時間弱、とうとう念願の「涸沢カール」へと到着!最後は、多くの登山者が数珠繋ぎになって何かの巡礼のようになっていましたが、その理由がわかりました。


それこそ一年でこの季節にしか見られない”天空の紅葉”。標高3000メートル級の峰々が一面、極彩色の衣を纏っています。赤に黄色、そして緑で織られた芸術作品は、溜め息が出るほど、果てしなく美しい。

涸沢ヒュッテに辿りついた登山者たちは、みな達成感を噛みしめながら、目の前の絶景に耽っていました。「時に人智を超える、自然の神秘に浸れる」。 登山とは、日常生活では身を潜めた、飽くなき冒険心を解放してくれるアクティビティです。

ライター
土庄 雄平 山岳自転車旅ライター|フォトグラファー

1993年生まれ、愛知県豊田市出身、同志社大学文学部卒。第二新卒を経験後、メーカー営業職とトラベルライターを両立。現在は、IT企業に勤めながら、自然や暮らしに一歩踏み込む、情報発信に精を出す。 山岳雑誌『山と渓谷』へ寄稿、「夏のYAMAPフォトコンテスト2020」入賞、「創業110周年記念 愛知銀行フォトコンテスト」最優秀賞など。山での活動をライフワークとし、学生来、日本全国への自転車旅を継続している。

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