ライター
土庄 雄平 山岳自転車旅ライター|フォトグラファー

1993年生まれ、愛知県豊田市出身、同志社大学文学部卒。第二新卒を経験後、メーカー営業職とトラベルライターを両立。現在は、IT企業に勤めながら、自然や暮らしに一歩踏み込む、情報発信に精を出す。トラベルライターとして寄稿した記事は2,000記事以上。 山岳雑誌『山と渓谷』掲載多数、「夏のYAMAPフォトコンテスト2020」入賞、「Yahoo!ニュース ベストエキスパート2024」地域クリエイター部門グランプリ。山での活動をライフワークとし、学生来、日本全国への自転車旅を継続している。

ザイテングラードからいざ、標高3000メートルの「涸沢岳」へ


「涸沢カール」は、最短でも1泊2日で訪れる場所です。厳密には日帰りも不可能ではありませんが、それを行う人はまったくいません。なぜなら体力的に厳しく、そしてこんな素晴らしい場所を日帰りで訪れるのはもったいないから。

とはいえ、お昼過ぎに到着した私たちには、まだ半日もあります。テントの中で過ごすにはちょっと長すぎる!ということで、急遽登山を続けることに。目の前に見えている3000メートル峰に登ります。


そのため標高差が1500メートル以上、標準タイム10時間オーバーと一気にクレイジーな内容になりましたが、そのおかげで筆舌に尽くしがたい絶景に出会うことができました。

核心部のザイテングラードへ足をかけたとき、ふと涸沢テント場に目をやると、そこにはスポットライトのような光が。紅葉が主役だったはずなのに、カラフルなテントが逆転した瞬間でした。

この写真は「夏のYAMAPフォトコンテスト」で入選をいただきました。忘れられない山との一期一会こそ、いつだって山に通う理由です。


氷河圏谷を一気に登り切ると180度のパノラマ!屏風のコルから奥にたたずむのは、白亜の鎧がかっこいい百名山「常念岳」。

燃えるような山肌絶景を横目に、隔絶した世界へ向けてもう一段ギアが上げていきます。


「ザイテングラード」は、奥穂高岳・涸沢岳の鞍部にある奥穂高山荘へ続く岩稜ルート。ドイツ語で「支尾根」や「側稜」を意味します。

危ないルートではないものの、近年は山岳事故が相次いでいることもあり、緊張感があります。集中力が切れてくる後半でも油断せず、一歩一歩確実に進みました。


奥穂高岳を目指そうと思ったものの、タイムオーバー。そして霧の中だったので、「涸沢岳」へ。しかし、この山も標高3110メートル。「初日で、ここまで来れるんだ!?」と、また一つ自分の殻を破った一日となりました。

最高の仲間と、達成感を味わえて、本当に自分は幸せ者だ!

アルプスの山中ならではの「非日常の絶景」に出会う


山の夜は静かで孤独。しかし、今回の山行では温かみがありました。その理由は、このテント夜景。涸沢カールの紅葉を求めて訪れた登山者たちのテントで、視界が埋め尽くされています。

人がいるだけでどこか安心。皆で非日常を共有している感覚。しかしながら、それでいて山岳情緒を堪能できます。満天の星空とともに、床に就きました。


そして朝、テントの中が少し明るくなって、自然と目が覚めます。区切られた時間とはかけ離れた山の世界では、体内時計が自然と働いてくれました。

テントを開けてもぞもぞと外に出てみると、目の前には例えようもない光景が!朝日により、紅葉の彩度が一層引き上げられていたのです。


「モルゲンロート」とは、山脈が朝日で赤く染まる現象。東の空から一筋の赤い光が、幻想的に山へ照射し続けます。氷河圏谷の全容を照らし出すまで、うっとりと眺めていました。

「涸沢カール」で1泊しなければ、見ることのできない絶景。これこそテントを担いで多くの登山愛好家が、この地を訪れるモチベーションです。


テントを撤収しながら、「涸沢カール」の景色を再び。快晴の空の下に望む紅葉も美しいですが、雲によって生まれる明暗も一興。

流れる雲によって、幾重にも変わっていく表情が印象的でした。

霞纏う「屏風のコル」。幻想的な涸沢カールの光景が!


いつまでもゆっくりしていたいところですが、そろそろ下山。名残惜しく「涸沢カール」を振り返りながら、往路とは異なる「屏風の耳」経由のパノラマルートで上高地を目指します。


ルートの前半は、急斜面を進むトラバース。少し危ないように見えますが、ロープなども設置され、まるでアスレチックといった感じ!

森林浴を楽しめるハイキングルートもいいですが、程よくスリルが感じられ、景色変化があるコースこそ登山の醍醐味だと思います。


2日目は時折、霧が立ち込め、隔絶した山岳情緒をより引き立ててくれました。屏風の耳の手前で見た穂高連峰は、霧と一体になって円形を呈し、大迫力の存在感。放射状の霧が、まさに神仙の世界を思わせます。


屏風の耳の山頂周辺は濃霧に包まれていましたが、待つこと約15分。なんと、次第に霧が流れ流れて、涸沢カールまで突き抜ける絶景が!パッチワークの彩りが渓谷全体に溢れかえっています。

山の世界でしか見られない大スケールで展開する紅葉。他の登山者の方たちと、この束の間の展望を共有しました。

訪れるタイミングで、味わえる景色も変わる。山の難しさでもありますが、大きな魅力でもあります!

秋から夏へ再び。充実した山行の余韻に浸る


屏風の耳からは、上高地までロングルートを下山。落ち着いた道のりですが、さすがに疲れがずっしりきます。そしてなんとか、梓川にかかる「本谷橋」まで。

「やっと戻って来たぁ〜〜〜!」このときの安堵感は、何度味わってもたまりません。また緑たぎる夏の世界に戻ってきました。


上高地のハイキングコースを歩いて、河童橋に戻ります。川のせせらぎと森林浴が気持ちいい!お腹いっぱいご馳走を食べた後、さらりとした〆を味わっているような満足感です。


そして「河童橋」が見えると、一気に達成感が込み上げます!これで往復30キロメートル以上を踏破。いやあ、1泊2日だったけれど本当に濃く、充実していました。

一生に一度は来たいと思っていた場所を制覇すると、同時に、また次に歩いてみたい場所がすぐさま頭をよぎるのが不思議です。

登山とは終わりのない冒険なのかもしれません。自然との一期一会を渇望させてくれる、そんな刺激的な時間のために、また仕事と向き合う日常に戻ります。

All photos by Yuhei Tonosho

ライター
土庄 雄平 山岳自転車旅ライター|フォトグラファー

1993年生まれ、愛知県豊田市出身、同志社大学文学部卒。第二新卒を経験後、メーカー営業職とトラベルライターを両立。現在は、IT企業に勤めながら、自然や暮らしに一歩踏み込む、情報発信に精を出す。トラベルライターとして寄稿した記事は2,000記事以上。 山岳雑誌『山と渓谷』掲載多数、「夏のYAMAPフォトコンテスト2020」入賞、「Yahoo!ニュース ベストエキスパート2024」地域クリエイター部門グランプリ。山での活動をライフワークとし、学生来、日本全国への自転車旅を継続している。

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