海、川、森。豊かな生態系が広がる、世界自然遺産・知床。
知床の象徴であるヒグマは、観光資源として重要な役割を果たす一方で、そこで暮らす人々の生活を脅かす存在でもあります。知床では、人とヒグマとの適切な距離について、長い間議論が重ねられてきました。
今回、そんなヒグマとの距離感について、地域の方と一緒に考える「知床でクマ活シャチ活」ツアーを開催しました。
参考:【6/5(月)〜6/7(水)】ヒトとクマの適切な”距離”を考える『知床でクマ活シャチ活』ツアー!|TABIPPO.NET(募集終了)
本記事では、2泊3日のツアーの様子をレポートします!
6月5日(月)午前9時。全国各地から今回のツアー参加者が女満別空港に集まりました。さまざまなバックグラウンドを持つ皆さんとの出会いは、すでにこのツアーの醍醐味と言っても過言ではありません。
わくわくとした気持ちを胸に、専用のバスに乗り、いざ出発!最初の目的を目指します。
“ありのままの知床”をいただく、知床ごはん“tomoni”
今回のツアー最初の目的地「知床ごはん“tomoni”」は、斜里町にある宿泊施設「HOTEL BOTH」の1階にあるレストランです。
「知床をありのままに」をコンセプトに、北海道の新鮮な食材をふんだんに使用したご飯を提供しています。私たち「クマ活ツアー」参加者以外にも地元のお客さんでも賑わっており、大人気。
知床の美味しい食とともに、参加者の方々と最初の交流を行いました。どこから来たのか、どうしてこのツアーに参加したかなど、お互いを知ることもでき、楽しい時間を過ごしました。
・名称:知床ごはん“tomoni”
・住所:〒099-4126 北海道斜里郡斜里町以久科北106-4
・地図:
・営業時間:朝食7:00~8:00(完全予約制)、定食11:00~20:00
・定休日:月曜日
・電話番号:0152-23-6100
・公式サイトURL:https://shiretoko-b.com/tomoni/
原始の楽園、知床国立公園 知床五湖を楽しむ
本来であればランチ後に、ヒグマの住処であるルシャ湾を巡るヒグマクルーズの予定でしたが、風の影響で残念ながら中止に。やはり自然相手に勝てませんね。
その代わりに、世界自然遺産である「知床国立公園 知床五湖」を訪問しました。
全長約800mの高架木道は、整備された遊歩道。一湖湖畔まで、湖に映る知床連山や遥か彼方に広がるオホーツク海などを眺めながら歩くことができます。
知床国立公園は、ヒグマの生息地であるため、遭遇する可能性が高い場所。
ヒグマは知床の自然を象徴する生き物であり、誤った行動をとってしまうとケガをしたり、ヒグマが捕殺されるという残念な結果になりかねません。「私たちがヒグマの住処にお邪魔している」という気持ちで訪問することが、何よりも大切です。
地上遊歩道は、ヒグマの活動期間においては、知床五湖登録引率者のガイドツアーに参加することで散策できますので、ご興味がある方は、ぜひガイドツアーへの参加をご検討ください。
人とクマとの適切な距離を学ぼう!「クマ活」事前レクチャー
知床国立公園の後は、今回のツアーのメインである「クマ活(草刈り)」に参加するため、事前に行われたクマ活レクチャーに参加しました。レクチャーを担当してくださったのは、村上晴花(むからみ・はるか)さんと伊藤源太(いとう・げんた)さん。
獣医でありながら知床財団で働く伊藤さんと、ホテルスタッフとして働きながら大学時代にヒグマに魅了されたことがきっかけで知床でネイチャーガイドをする村上さんという知床を心から愛するお二人!
そんなお二人からは、知床はどういう場所なのか、なぜヒグマと共存するためには草刈りが必要なのかなどを説明していただきました。ただ草刈りをするだけでは理解できない、本質的なところを事前レクチャーを通して学びました。
レクチャー後は、複数のグループに分かれて、クマ活に参加しようと思った理由などを意見交換。明日の草刈りに向けて意識を高め合いました。
人と自然がゆっくり溶け合う、森のリゾート「KIKI知床ナチュラルリゾート」に宿泊
photo by Shigeki Naganuma
クマ活事前レクチャーの後は「KIKI知床ナチュラルリゾート」に宿泊です。このホテルは、オホーツク海を望む高台に建つ温泉宿。海側の客室からは、雄大な海の景色を堪能でき、大浴場の露天風呂では源泉100%かけ流しを楽しむことができます。
夕食と朝食はビュッフェスタイル!知床の味覚がつまった、和洋さまざまな料理をいただきました。
・名称:KIKI知床ナチュラルリゾート
・住所:〒099-4351 北海道斜里郡斜里町ウトロ香川192
・地図:
・電話番号:0152-24-2104
・公式サイトURL:https://www.kikishiretoko.co.jp/
総勢70名!みんなで楽しく草刈りを実施
2日目の最初は、事前レクチャーで貰ったクマ活Tシャツに着替えて、みんなで草刈りを実施。
今回のクマ活・草刈りは、私たちツアー参加者以外にも、地域の方や道内の大学に通う大学生など総勢70名。これまでにない人数だったそうです。
草刈りは、腰から胸の高さほどあった笹を、膝下まで刈っていく作業。足元が悪いことと、育ちの良い笹は草刈り機などでは切りづらいため、機械を使用せず、刈り込みばさみで草を刈っていきます。
手作業で行うことで、手元の確認もでき、笹薮の中にある稚樹(小さくて若い木)を切ってしまうことなく作業できます。
ヒグマの通り道になりそうな場所に草やぶを残さないことで、ヒグマが街に近づくことを防ぎ、ヒグマと適切な距離で共存していくことができるのです。
草刈り後は、複数のグループに分かれて、感想を共有するなどしてお互いに交流を深めました。最後にみんなで記念撮影!
photo by Shigeki Naganuma
みんなとても良い笑顔!これにて草刈り終了は終了となりました。
ディープなスポットを楽しむ!選択制アクティビティ「シレトコ魚道見学ツアー」
草刈りで良い汗をかいた後は、ランチや温泉など各々の時間を過ごしました。午後からは、ディープな知床を満喫する、選択制アクティビティの時間。自身の興味関心に合わせてプランを選択できます。プランは全部で3つ。
・シレトコ魚道見学ツアー
・海岸テントサウナ
私は、シレトコ魚道見学ツアーに参加しました。今回は、魚道ツアーの様子をお届けします。
そもそも「魚道(ぎょどう)」とは一体何のことなのでしょうか。
河川には、堰堤(えんてい)と呼ばれる、治水を目的とした大きな段差部を形成する人工の治水構造物があります。魚道は、魚がこの治水構造物を乗り越えて、通過できるよう設けられた魚のための通り道のことです。
知床には、この魚道がいくつも整備されています。
今回の魚道ツアーを担当してくださったのは、一般社団法人知床しゃりで斜里町地域おこし協力隊として活動する高木唯(たかぎ・ゆい)さん。斜里町ウトロ出身でUターンし、協力隊として精力的に活動されています。
鮭や鱒の通り道である魚道を人間が整備することで、産卵しやすい環境を作り、成長したらまた帰ってくるのだそう。帰ってきたとき、漁師たちの漁にもつながるので、魚道は結果として、森や川の整備をすることにつながるのです。
そんな魚道がもたらす、生態系について楽しく学べたツアーでした。今後は、高木さんがガイドする、この魚道ツアーが定期的に行われるそうです。知床を訪れる際は、ぜひツアーへの参加もご検討くださいね。
圓子水産の海鮮炉端焼きで交流を深める
各々が選択制アクティビティを楽しんだ後は、おまちかねの夕飯の時間。
鮭漁師の圓子瑞樹(まるこ・みずき)さんが運営する、圓子水産で海鮮井戸端焼き!
今回のツアーのために、いくらや鮭など、知床の海の幸をたくさん用意していただきました!
お酒も進み、瑞樹さんや地元の方、参加者同士で交流を深め、楽しい時間を過ごすことができました。
圓子水産では、オンラインショップも運営中。ご興味のある方はぜひ知床の海の幸を購入してみてはいかがでしょうか。また瑞樹さん自身も積極的に日々の様子をSNSで発信中なので、こちらも合わせてチェックしてみてくださいね!
・名称:圓子水産
・住所:〒099-4355 北海道斜里郡斜里町ウトロ東131
・地図:
・電話番号:0152242169
・公式サイトURL:https://marukosuisan.com/
散歩をしながら街を綺麗に!「知床ゴミ拾いプロジェクト」
クマ活ツアー最終日の朝は、朝活として、ゴミ拾いを実施しました。
このゴミ拾いは「知床ゴミ拾いプロジェクト」として、2020年4月から始まった取り組みです。
知床は、世界自然遺産でありながらも、道路上のポイ捨て問題や、海流の影響で大量の海洋ゴミが海岸に打ちあがっているなどの、ゴミ問題を抱えています。
そのほかにも、ヒグマがゴミをくわえたり、ペットボトルとじゃれ合う姿も目撃されるなど、知床のゴミ問題は深刻です。
将来的には”ゴミ拾いをしなくていい知床”を目指し立ち上がったのが、「知床ゴミ拾いプロジェクト」。草刈りでお世話になった村上さんやLANTOKO知床生態旅遊の代表を務める、台湾人のガイド、藍屏芳(Lan Pingfang)さんが中心となって活動しています。
村上さんと藍さんに案内していただきながら、ホテル周辺や海岸近くなどでゴミ拾いを実施。ゴミ拾いをしながら、街の現状についても教えていただくことで、リアルな知床を知ることができました。
クロージングセッション!知床の未来について意見交換
photo by Shigeki Naganuma
朝活の後は、ホテルで朝食をいただき、いよいよこのツアーもラスト!最後は、クロージングセッションと題して、この2泊3日を参加者全員で振り返ります。
クロージングセッションでは、複数のグループに分かれて、知床の未来について意見交換を行いました。旅・旅行と言えば、楽しく遊んで消費するそんなイメージかと思います。印象的だったのは「私たちは観光客でしたか」という問い。
なかには、滞在中に地域の人の想いと知床が抱える課題に触れ、直接自分の肌で感じたり、学んだりすることは、すでに「観光客」という立場ではないのではないかという意見も。
知床は、日本で最もヒグマの密度が高い場所。知床を訪れた一人ひとりが正しい行動をすること、それがこれから先の知床の未来のためにも必要なことだと、改めて思い知らされた時間でした。
また、今回のツアーの運営スタッフとして尽力してくださった皆さんの想いも最後に聞くことができました。
2泊3日という限られた時間ではありましたが、関わってくださった多くの方々がいたからこそ、生きた学びを深める体験ができたのだと、感謝の気持ちでいっぱいになりました。
知床の味をテイクアウト!Heaven cafe
photo by Yuki Higuchi
クロージングセッションの後は、シャチ活へ向かう延泊組と分かれ、帰路を目指します。最後の最後まで楽しめるのがこのクマ活ツアー。
最終日のランチは、斜里町の絶景スポット・天に続く道の近く、展望台の下に2022年オープンした「Heaven cafe(ヘブンカフェ)」へ!
Heaven cafeでは、エゾ鹿の肉を使ったバーガーやローストサンドなど知床の味を提供しています。
そのほかにも、北海道や斜里らしいお土産も売っているので、ぜひ斜里町へ足を運んだ際は、訪問してみてください。
・名称:Heaven cafe
・住所:北海道斜里郡斜里町朱円東55
・地図:
・電話番号:0152236633
・公式サイトURL:https://www.instagram.com/_heaven.cafe_shiretoko/
斜里町立知床博物館で斜里町の歴史を学ぶ
ランチの後は、「斜里町立知床博物館」を訪問。ここでは、シレトコ魚道ツアーでもお世話になった高木さんに再び案内していただきました。
斜里町立知床博物館は、斜里町開基100年を記念して、町民公園に昭和53年(1978年)に開館した博物館です。知床半島の生い立ちや自然・動物など、知床の歴史を語る資料の収集・保存・展示を行っています。
展示を見るだけでなく、実際に触れる展示やキッズスペースなども用意され、小さなお子さんでも楽しんで学べる博物館となっています。
建物の隣には、姉妹町友好都市交流記念館も併設されており、姉妹町の沖縄県竹富町、友好都市の青森県弘前市の自然や文化が紹介されています。
そのほか野外観察園なども。知床について学ぶ際は、ぜひ活用していただきたい博物館です!
・名称:斜里町立知床博物館 姉妹町友好都市交流記念館
・住所:〒099-4113 北海道斜里郡斜里町本町49番地
・地図:
・営業時間:09:00–17:00
・定休日:4-10月:月曜日(月曜日が祝日の場合は開館し、翌火曜日に休館)
11-3月:月曜日、祝日(月曜日が祝日のときは休館し、翌火曜日も休館)、年末年始
・電話番号:0152-23-1256
・入館料:300円(小中学生無料、団体15名以上250円)
・公式サイトURL:https://shiretoko-museum.jpn.org/
アルプが語り遺したものを次世代へ。「北のアルプ美術館」
最後の訪問は「北のアルプ美術館」です。ここは、山の文芸雑誌『アルプ』に関する資料を中心に、知床やオホーツクなど、北の大地にゆかりの深い作家の作品を収蔵し展示する美術館です。
なんといっても『アルプ』の創刊号から終刊号までの全冊が展示された展示室は圧巻!ぜひ足を運んでみてください。
また、美術館のすぐ隣には、北海道石狩郡当別町の元教師・斎藤俊夫さんがコレクションしていた山岳図書を一部譲り受け「斎藤俊夫山岳文庫」として公開しています。
事前予約のみの見学となりますが、ギャラリーや書斎など多数の山岳図書が置いてありますので、こちらも合わせて見学してみてください!
・名称:北のアルプ美術館
・住所:〒099-4114 北海道斜里郡斜里町朝日町11-2
・地図:
・営業時間:6月~10月 午前10時から午後5時まで、11月~5月 午前10時から午後4時まで
・定休日:毎週月・火曜日 ※毎年12月下旬から翌年2月末頃まで休館
・電話番号:0152-23-4000
・料金:無料
・公式サイトURL:http://www.alp-museum.org/
消費する観光を手放すことで見えたこと
私が初めて北海道(道東エリア)を訪れたのは、約8年前。消費して楽しむといった「観光客」としての旅だったことを覚えています。
今回、知床に暮らす人々とヒグマとの距離について考え、実際に抱える課題について共有してもらったことで、すでに観光客ではないという気持ちを抱きました。それはきっと私だけではないはずです。微力ながらもこの学びを第三者に伝えていきたいという想いも芽生えました。
生きた学びを深める「知床でクマ活シャチ活ツアー」。この記事を読んでくださった皆さんにもぜひ体感してもらいたいと感じました。
photo by Yuichi yokota
今回のツアーの様子は、各SNS(インスタグラムやツイッター)で「#シレトコノミライ2023」で検索していただくと、参加者のリアルな感想を読んだり、写真を見たりすることができます。
感想を読んだら後は行動するのみ!次回は、ぜひあなたも実際に知床へ足を運んでみてはいかがでしょうか。知床でローカルフレンドの皆さんがあなたをお待ちしています!
Photos by Ayaka Yabe
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