ライター
桃(Momo) フリーライター

書く人・エッセイスト。アメリカ・イギリスでの短期語学留学、ヨーロッパ鉄道周遊ひとり旅など経て、新卒でベンチャーの旅行会社に就職。現在は複数メディアにてフリーのライター兼編集者。趣味は英語で、映画は洋画を中心に年間150本を鑑賞。渡航国数は23ヶ国。

海外を旅していて日本に戻ってきた時、いつもは昔ながらの観光地に行きたくなることってありませんか?日本を感じるのにぴったりな京都にある妙心寺春光院では、期間限定で夜だけ見られる美しい金のふすま絵と庭が公開されています。

2019年6月29日〜8月4日の夜17時〜20時30分限定で、美しく貴重な夜のお寺を楽しむため、ライターの私(@XxPeach)は一足早い初夏の夜の京都を楽しんできました。

舞台は京都の妙心寺 春光院

京都の妙心寺にある春光院は、普段は一般公開されていないお寺です。春光院の前は一般道として朝から夜まで多くの人の通り道になっていますが、今回の特別公開がなければ、完全予約制の座禅または宿坊体験のとき以外は中には入れません。

とても美しいお庭があると聞いてきたのですが、入った瞬間から癒される緑、緑、緑。これよりもっとすてきなお庭が見られると思うと、ワクワクします。

普段入ることができない場所に入るのもなんだか子供心くすぐられますが、夕暮れの中静かに中に入っていくのも、ちょっとした冒険のような気持ちに。

春光院の奥にある金の襖にたどり着く前に目に入るのが、入り口近くにある大きな鐘。これは、春光院でもっとも有名な南蛮寺の鐘です。

この鐘はところどころにキリストにまつわる数字や十字架が描かれており、第二次世界大戦中、キリスト教と深い親交があった今の住職の祖父がお願いされて戦火から守ったと言われているそう。

日本のお寺にキリスト教にまつわる大切な鐘が置かれているのは少し不思議ですが、今では仏教とキリスト教を結ぶ大切な鐘となっています。そうした歴史背景を持つのも、春光院の面白さです。

3つのふすま絵は18世紀に描かれたもの

今回の最大のメインである金の襖は、全部で3つ。これらすべてのふすま絵を描いたのは18世紀後半〜19世紀初頭にかけて活躍した「狩野永岳」だろうと言われています。

 

一番右の部屋は「中国文人の間」。

真ん中の部屋は「月と雁の間」でふすま一面に冬の情景が描かれています。

左の部屋が「花鳥図」です。美しいですね……。

ふすま絵の詳しい解説は体験を価値にしていくサービスを提供しているON THE TRIPさんの音声ガイドアプリから、詳しく聞くことができます。

使い方はとてもカンタン。専用アプリからコンテンツをダウンロードして、再生ボタンを押すだけです。一つ一つの部屋の作りや特徴などがしっかり理解できる上に、音声ガイドの語り手である川上全龍副住職の低く落ち着く声が、春光院で過ごすプレミアムな時間をじっくり楽しませてくれます。

今回の公開は夜限定。明るい中では味わえない、夜に灯をつけるからこそ見える景色を堪能することができます。

こだわり抜いたのはロウソクをイメージした光

今回の夜公開にあたり春光院さんは、どうしたら一番金の背景に描かれているふすま絵が浮き出て美しく見えるかを徹底的に追求したそうです。何より大切で悩みに悩み抜いたのが、ふすま絵を照らすライトとその位置。

本物のロウソクに近いライトやパッと照らせるライトなど、さまざまな種類の光を金のふすまに当ててみて、どんな光が一番金色が映えるか、ふすまの絵がきれいに浮き出るかを何度も検討されたそうです。

そして、選んだライトをどの角度からどれくらいの明るさで照らすのが美しいのか、なんどもテストを繰り返した結果、今回の美しい展示が完成しました。

現代の明るい蛍光灯の下で見るのではなく、ロウソクの光を再現することで、当時と同じ風景を楽しむことができるという演出です。

美しすぎる庭の狙い目は日が落ちる19時過ぎ

金のふすま絵を堪能した後は、日が落ちた後の春光院の美しすぎる庭を楽しみましょう。こちらの庭では伊勢神宮が表現されています。三重県伊勢市にある伊勢神宮には昔、春光院の姉妹寺である慶光院があった関係で、京都にある妙心寺春光院に日本で唯一、庭に伊勢神宮が再現されています。

伊勢神宮は天照大御神を祀っている神社として有名ですが、春光院の庭にもこの天照大御神(あまてらすおおみかみ)の神話が再現されています。

天照大御神が、弟である素戔嗚尊(すさのおのみこと)の乱暴のせいで隠れてしまったと言われる天岩戸と、そこから顔を出したことで光が射したというシーンを庭の石と光を使って表現しています。

この光を使った表現は、残念ながら太陽が出ていると庭を見ても読み取ることができず、夜暗くなってからのライトアップだからこそ楽しめるような演出になっています。金のふすま絵に負けないくらい、美しく素晴らしい光景ですね。

ふすま絵と庭を堪能したら、心の内を吐き出そう

今回のふすま絵と庭のライトアップを心置き無く楽しんだら、もう一つアクティビティが残っています。その名も「宛名のない手紙」。もう会えない人へ、過去の自分へ、別れた恋人へ、あのとき言えなかったことを文字に起こそうという試みです。

お願い事は秘めたままお祈りするのが一般的ですが、あえて心の中にあるものを公開し、自分の弱みを他人に見せることで、新たな心のつながりができるのではないか、という考えからきたアクティビティです。

春光院の一室の机にペンとハガキが置かれています。ここでこれまで言えなかった自分の秘密や現実ではもう伝えられないことを宛名を伏せたまま書いた後、春光院内に設置されたスペースに飾ります。

 

用紙にはチェックボックスがあり、チェックを入れると誰かに公開されることはありません。もちろん、個人情報を特定されることもないです。

公開してもしなくても、自分の心にこれまで秘めていたものを文字に起こすだけで新しい世界が見えてきたり、前に進むきっかけになるはず。私も過去の自分に当てた心の内をびっしり書いて来たので、もし見つけた方はこっそり教えてください。

春光院の特別公開は期間限定

金のふすま絵と美しすぎる庭のライトアップ、そして宛名のない手紙が体験できる春光院の特別公開は2019年6月29日〜8月4日までの期間限定です。

夏の京都の夜を楽しむのにぴったりのアクティビティですし、市内中心地からアクセスも良いので、ぜひ訪れてみてください。

■詳細情報
・名称:妙心寺 春光院
・住所:〒 616-8035 京都市右京区花園妙心寺町42
・地図:
・アクセス:JR花園駅下車徒歩7分または市バス「妙心寺前」下車徒歩3分
・営業日:6月29日から8月4日
・営業時間:17:00〜21:00(最終入場20:30)
・電話番号:075-462-5488
・料金:900円(オーディオガイドは無料)
・公式サイトURL:https://on-the-trip.com/news/75/

夜の京都を思う存分楽しむ

お寺ってなかなか夜に入る機会がないですよね。「静かな庭に夕日が差し込む瞬間は、とてもきれいなんだろうな……」とふわっとイメージしていた景色が、実際に見られるのは、非常に貴重。

ただ景色や光景を楽しんで終わりではなく、そのお寺の教えを今回は「宛名のない手紙」として体験することで、より春光院を深く知るきっかけになりました。久しく自分の気持ちを、それも奥深くに眠っていた感情を言葉にしていなかったので、なんだか肩の荷が降りた気がします。

金のふすま絵で歴史を堪能し、夕日が差し込み夜になりはっきりと見えてくる美しい庭、そして、心の奥深くの感情を言葉にする「宛名のない手紙」を体験できるのは、この夏だけの楽しみかもしれません。ぜひ夏の夜の京都を、妙心寺春光院で楽しんでみてください。

 

All photos by 桃

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桃(Momo) フリーライター

書く人・エッセイスト。アメリカ・イギリスでの短期語学留学、ヨーロッパ鉄道周遊ひとり旅など経て、新卒でベンチャーの旅行会社に就職。現在は複数メディアにてフリーのライター兼編集者。趣味は英語で、映画は洋画を中心に年間150本を鑑賞。渡航国数は23ヶ国。

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