バルト海に面したエストニア、ラトビア、リトアニアの「バルト三国」。大阪・関西万博をきっかけに一躍その名が知れ渡り、耳にした方も多いのでは。
そんなバルト三国のラトビアは観光資源豊かで美食天国、サウナやウェルネスも盛んな一方、スタートアップに優しい国として、また先進的なテクノロジー国家として革新を続け世界から注目されています。
今回はラトビア投資開発庁主催のプレスツアーを通じて得たラトビアの魅力を徹底解説します。
見出し
バルト三国のラトビアってこんな国

国土面積約6.5万平方キロメートルと北海道より一回り小さく、人口およそ200万人足らずの小さな国ラトビア。
2025年に開催された大阪・関西万博ではリトアニアとともにバルトパビリオンを出展。約300種のバルトの草花を展示した「自然の薬箱」やデジタル植樹体験など五感で楽しめる展示が好評を博したとともに、万博の公式マスコット「ミャクミャク」のぬいぐるみ盗難事件をきっかけに一躍注目されたのは記憶に新しいところ。
そんなラトビアの首都リガは、中世の面影やアール・ヌーヴォーなどの歴史建築が織りなす「バルト海の真珠」とも謳われた美しい港町で、世界文化遺産にも登録されています。

国土の約半分を森に覆われたラトビアは、自然豊かで歴史や伝統文化、美食やサウナなど観光資源に恵まれた国。その一方、じつは今、欧州屈指の先進的なデジタル国家として、さらに最先端分野に関わるベンチャー企業のスケールアップやスタートアップを手厚く支援する国として国際社会から注目されています。
そんなラトビアと日本の関係が急速に進展したきっかけもまた大阪・関西万博。来日したラトビアのリンケービッチ大統領が2025年5月、石破茂元首相と会談。今後の両国の関係を「戦略的パートナーシップ」として格上げし、政治や安全保障、ITや経済分野などで関係強化を図る共同声明を発表しました。

日本は旧ソ連から独立したラトビアを世界で最初に国家承認した国のひとつ。それ以来、両国間の友好関係は100年以上にわたり、ラトビアは親日国のひとつです。そして今回の提携をきっかけに、日本におけるラトビアの存在は今後ますます注目され、政治経済の枠を超えて人・モノ・文化での交流もより活発化されることが期待されています。
……というわけで、今後深まる日本とラトビアの関係をふまえ、改めてラトビアの魅力をご紹介しましょう。
ラトビアの魅力とは
今回はラトビアを語る上で欠かせない「歴史×建築」「ウェルネス×サウナ文化」「伝統×クラフト」「カルチャー×オーガニックフード」の4つのキーワードでご紹介します。
歴史×建築~時代を超えた建築のふしぎ

19世紀までスウェーデン、ポーランド、ロシアの支配下にあったラトビア。それ以前にはドイツの影響を色濃く受け、そんな背景から、じつにさまざまな時代の建築スタイルが共存しています。
たとえば、世界文化遺産に登録された歴史地区・首都リガの旧市街。狭い石畳と中世の面影を残す街並みが特徴で、ゴシックやロマネスク、バロック様式など豪奢で荘厳な中世の教会や城砦、建物があるかと思えば、パステル基調のかわいらしい建物が姿をのぞかせ、さらに現代風の洗練されたレストランやショップも街に溶け込んで、新旧入り混じる時間を超越したふしぎな空間が楽しめます。

そんな旧市街とは対照的に、19世紀末に流行した植物や花、女性をモチーフとした曲線美と華やかな装飾が特徴の「アール・ヌーヴォー建築」が集まる新市街が隣接。その数およそ800棟におよぶとか。
このエリアは首都リガにとって高級住宅街にあたり、かつてソ連味あふれる殺風景な建物を嫌って富裕層らがこぞってきらびやかにした名残だそう。
余談ですが、画像中央に見える猫のオブジェは、おそらくアカデミー賞長編アニメ映画賞を受賞したラトビア映画『FLOW』にちなんで作った“プロポーズする猫”。ひそかなフォトスポットになっているそうです。

こちらはリガ郊外にある「ラトビア民族野外博物館」。
17世紀から20世紀初頭に建てられた伝統的な農村集落の家屋や施設、漁師村や教会などおよそ118棟がラトビア全土から移築あるいは復元された文化施設。当時の生活様式や伝統文化が垣間見られる貴重なスポットです。
興味深いのは、日本の合掌造りによく似た藁ぶき屋根の佇まいと、入口の敷居を跨いではいけないとか、魔除け代わりのパーツを屋根に設置するなど意外なほど日本との共通点が多かったこと。そんな発見もまた新鮮でした。
・名称:The Ethnographic Open-Air Museum of Latvia
・住所:Brīvdabas iela 21, Rīga, Latvia
・地図:
・公式ホームページ:http://brivdabasmuzejs.lv/en/
・アクセス:リガ旧市街から車で約25分、市内バスターミナルから約50分

ラトビアの現代建築として忘れてならないのは、旧市街からほど近い「ラトビア国立図書館」。
これは2014年、ラトビアを代表する建築家グナールス・ビルケルツ氏が設計したモダニズム建築による公共施設で、「光の城」の異名を持つこの図書館は、独立を勝ち取り、光を手にした国民の想いの象徴でもあるそう。
さらに印象的だったのは、旧市街にあった旧図書館から蔵書を移す際、3万人が列を為しバケツリレーのごとく手渡しで運んだという話。またその蔵書の多くが国民による寄贈で、寄贈の際には必ず一言読者へのメッセージを添えないといけない条件付きだそう。何だか国民の熱い情熱が伝わって来るようです。
ちなみに屋上はリガ市内を一望できる無料展望フロアになっています。
・名称:The National Library of Latvia
・住所:Mūkusalas iela 3, Zemgales priekšpilsēta, Rīga, Latvia
・地図:
・公式ホームページ:https://lnb.gov.lv/en/
・アクセス:リガ旧市街中心から徒歩約15分
ウェルネス×サウナ文化~心とからだを浄化する魂の聖域

“サ活”ブームに沸く現代の日本。そのサウナ発祥の地といえばフィンランドですが、ここラトビアにも独自のサウナ文化「ピルツ(Pirts)」が存在します。
ひとつの集落や町に必ずひとつは設置された「ピルツ」。ピルツは、家の中でもっとも清浄かつ神聖な場とみなされ、女性は出産時に、あるいは亡くなった人を埋葬前に洗い流す儀式の場として使われたそう。一方でピルツは家族や仲間との絆を深めるコミュニティの場であり、健康的な家族の習慣として暮らしに根付いてきました。

ピルツが他のサウナと異なるところは、ピルツに適した湿度・温度設定のほか、地元で調達した天然素材を有効活用して、五感を刺激しながら内から外からデトックスを促すこと。
たとえば、サウナの前には消化や代謝を促すハーブティーを飲んだり、周辺の森から調達した白樺やオークなどの香りのよい葉っぱを集め、ベンチに敷いたりマッサージに使ったり、天然ヨモギを混ぜた塩でスクラブマッサージをしたあとは、たっぷりのハチミツをトリートメント代わりに肌に塗り込んだりと、ユニークかつ斬新な伝統サウナが楽しめます。

ピルツを知り尽くしたピルツマスターによるマッサージは、まるでサウナの精霊が舞い降りたような”儀式”。束にした葉っぱを自在に操り、リズミカルに扇いだり、叩いたり、なでつけたり。ほど良い刺激と緩急がからだを芯から活性化させ、リラックスへと導いてくれます。

火照ったからだを近くの池や湖に飛び込んでクールダウンするのは北欧ならでは。さらに“整う”作業は、テラスのデッキチェアでくつろぐほか、通気性と肌触りの良い布にくるめられ、ミノムシ状態でからだを休ませます。
今回体験させていただいたのは、ラトビア随一の人気を誇る高級ウェルネスリゾート「ジードレヤス(Ziedlejas)」。およそ1時間をかけて行われた丁寧なラトビア式ピルツで、まさに非日常のリトリートを堪能できました。
・名称:Ziedlejas
・住所:Krimulda parish, Sigulda county, Latvia
・地図:
・公式ホームページ:https://ziedlejas.lv/en
・アクセス:リガ旧市街中心から車で約50分
伝統×クラフト~受け継がれる物語

ラトビアを代表する伝統工芸品といえば、抜群の愛らしさとユニークなデザインが特徴の手編みのミトン。
ラトビアのミトンは機能的でおしゃれというだけでなく、じつはその文様一つひとつに神話や伝承をモチーフとした意味合いが込められ、ある種の文化遺産的な側面を持っています。それと同時に幸せや厄払いなどのまじないを込めたお守り的な側面もあるそう。
土地の数だけ個性あふれるミトンが生まれ、文様を見ればその人の出身地が分かるとか。そして女性にとっては大事な嫁入り道具のひとつであり、手先の器用さや器量を図るバロメーターとしてみなされたそうです。

ミトン同様、バラエティに富んだラトビアの民族衣装も必見。色鮮やかなスカートの衣装に頭の被り物、金属のブローチなど、それぞれのルーツによって少しずつ異なる衣装は見ごたえがあります。
これらの民族衣装は、5年に一度開催の、ユネスコの世界無形文化遺産に登録された40,560人が集う世界最大級の歌と踊りの祭典「The Latvian Song and Dance Festival」でも一堂に会して見ることができます。あるいは、旧市街にある国立衣装センターの「Senā klēts(セナー・クレーツ)」でも見学可能。充実した土産ショップも隣接しているのでぜひ立ち寄ってみては。
・名称:SENĀ KLĒTS, tautas tērpu centrs
・住所:Rātslaukums 1, Centra rajons, Rīga, Latvia
・地図:
・公式ホームページ:https://www.senaklets.lv/
・アクセス:リガ旧市街中心から徒歩1分

ラトビア農村部に伝わる生活文化や伝統的な慣習が知りたければ、前述でご紹介した「ラトビア民族野外博物館」がおすすめ。
自然とともに暮らす彼らの生活に根付いた、慎ましくもあたたかなスローライフ。理にかなった間取りや家具、作業用具、サウナ小屋、家畜小屋、さらに「Puzuri(プズリ)」と呼ばれる、日々の暮らしに幸せをもたらす麦わら素材の正八面体によるオーナメントまで、さまざまな伝統クラフトを観察できます。

ラトビア民族野外博物館では、クリスマスオーナメントやお守りにもなる太陽を表したダイヤの飾り作りのワークショップを体験。シンプルだけど夢中になれる、大人も子どもも一緒に楽しめるプログラムでした。
ちなみに、当館では毎年6月の第1土・日曜日、ラトビア最大級のクラフトマーケット「森の民芸市」が開催されます。ラトビア全土からあらゆる伝統工芸品が集結し、世界中から観光客で賑わいます。実演販売もあるようなので、北欧の伝統工芸に興味ある方はぜひ遊びに訪れてみては。
カルチャー×オーガニックフード~地産地消の美食とサステナブル

地産地消でオーガニック、旬の食材や特産のキノコ、発酵食品やスーパーフードなど、からだと環境にやさしい“スローフード”を好むラトビアの食文化。ずっしり濃厚な黒のライ麦パンは国民食で、チョウザメやバルト海の魚介を使った海鮮料理や肉料理、ジャガイモやビーツなどの根菜類、豆類、キャベツなどを使った野菜料理など、素材を活かした素朴でシンプルな味付けが昔ながらの伝統的なラトビア料理です。
とはいえ、ハーブやスパイスがしっかり効いて想像以上にしっかりとした味付けの印象。これにサワークリームや麻の種子から作るヘンプバター、コケモモジャムなどを添えて味変したりと、日本人の舌にも合う味わいでした。

そしてラトビアは、星付きを含むミシュランガイド2025に掲載されているレストランが31店も存在する隠れた美食天国。伝統的な料理や食材をベースに、異国料理から受けたインスピレーションを融合して現代風にアレンジするなど、個性が光るモダンな料理が続々登場しています。

たとえばこちらのミシュランガイドに掲載された人気レストランのひとつ、「3 Pavāru restorāns(パヴァール・レストランス)」。ラトビア語で“3人のシェフ”を意味する店名は、ラトビア出身の有名シェフ3人らが起ち上げたことに由来します。
同店の目玉は、テーブルの上に敷かれたシートをキャンバスに見立て、まるで筆を走らせるように6種のカラフルなソースでダイナミックに盛り付けていくパフォーマンス。ベリーやバジル、ブラックカラント(カシス)、サジーなどオーガニックな果実から作られる風味豊かなソースでライ麦パンをいただきます。なかなか他では味わえない斬新な食体験です。
ちなみに、ラーメン店も営む同店のオーナーシェフは日本の食に造詣が深く、和食に影響を受けたメニューもちらほら。過去、日本政府から「日本食普及の親善大使」にも任命された経験があります。
・名称:3 pavāru restorāns
・住所:Torņa iela 4, Centra rajons, Rīga, Latvia
・地図:
・公式ホームページ:https://www.3pavari.lv/en
・アクセス:リガ旧市街中心から徒歩10分

次にご紹介するのは、ラトビア初のミシュラングリーンスターを獲得した「Pavāru māja(パヴァール・マーヤ)」。同店は、首都リガから車で約1時間半、かつて製紙工場で栄えたリーガトネ(Līgatne)の静かな片田舎にたたずむ森の一軒家レストランです。
ミシュラングリーンスターは、サステナブルなアクションや食の体験を通じて地域社会や環境に貢献する持続可能なガストロノミーへ贈られる称号。同店のメニューはスローフードを基本とし、環境に配慮した食のリサイクル、フードロスの低減、壊れた器の再利用、店の庭園を地域住民に一般開放し地産地消を推進するなど、さまざまな取り組みが評価されています。

同店で目を見張るのは、ドングリを使ったデザートや白樺の樹液と海塩で作ったフレーバーソルトなど、シェフのこだわりと技が光る斬新かつオリジナリティあふれるメニューの数々。そして、同店のオーナーシェフもまた日本食に大きく影響を受けた一人であり、料理や器、盛り付けなど端々に日本のエッセンスがさりげなく感じられるのもうれしい発見でした。
・名称:Pavāru māja
・住所:Pilsoņu iela 2, Līgatne, Līgatnes pilsēta, Cēsu novads, Latvia
・地図:
・公式ホームページ:https://www.pavarumaja.lv/en
・アクセス:リガ旧市街中心から車で約1時間半

美食に欠かせないのが “美酒”。ラトビアで古くから親しまれているお酒はクラフトビールやリンゴを発酵させたシードルですが、じつはブドウ栽培に向かないとされた北限域を超える北緯57度のラトビアでもワインの生産が盛んに行われ、高品質なワインが楽しめます。

今回訪れたのは、かつて食料貯蔵庫として使われた洞窟をリノベーションして、ロマンチックな雰囲気の部屋でテイスティングが楽しめる「リーガトネ・ワイナリー」を訪問。数々の受賞歴を誇る自慢の自家製ワインを10種類近く試飲させていただきました。
同ワイナリーで試せるワインは、原材料にブドウのほか、ルバーブや赤・黒スグリ、コケモモやマルメロ(西洋カリン)、リンゴを使うなどさまざま。そのほか、松ぼっくりのウォッカといった変わり種や苺の甘いリキュールも味わえます。ちなみに、一番の売れ筋は猫ラベルが貼られたワインだそうです。
・名称:Ligatne winery(Līgatnes vīna darītava)
・住所:Spriņģu iela 3, Līgatne, Līgatnes pilsēta, Cēsu novads, Latvia
・地図:
・公式ホームページ:https://ligatnesvinadaritava.lv/en/about-us/
・アクセス:リガ旧市街中心から車で約1時間半
今後さらに深まるラトビアとの絆、次の訪れる国はラトビアで決まり!
大阪・関西万博をきっかけに新たに築かれた協調関係。今後、日本とラトビアとの絆はますます深まることが期待されます。
しかし、個人的にはそれ以上に、およそ8,000kmも離れた二つの国にはじつはさまざまな共通項があり、またラトビアの中に日本の存在を感じる機会が多かったことで、より身近に、より深く知りたいと思うようになりました。
知れば知るほど奥が深いラトビア。次の旅では、ぜひラトビアに訪れてみてはいかがでしょうか。
※取材協力:ラトビア投資開発庁(Investment and Development Agency of Latvia)
All photos by Mayumi