ライター
片渕 ゆり ライター・フォトグラファー

ライター・フォトグラファー。佐賀県出身・東京在住。大学卒業後、コピーライターとして働いたのち、どうしても長い旅がしたいという思いからフリーランスに。2019年から旅暮らしをはじめ、TwitterやnoteなどのSNSで旅にまつわる文章や写真を発信している。2021年、『旅するために生きている』を上梓。

「ハワイは行ったことなくて」と人に話したとき、「旅が好きなのに?」と驚かれることがたびたびあった。

これまで私の頭の中にあるハワイといえば、高級リゾートホテルに真っ赤なハイビスカス、ビキニにサングラス、そしてパンケーキ……。言葉にするとあまりに安直なイメージで恥ずかしくなるけれど、そんなステレオタイプが頭にこびりついていた。

バックパックひとつ抱えてゲストハウスを渡り歩くような旅がメインの私にとって、楽園のリゾートは縁遠いような気がしてしまっていた。

あたらしいマラマなハワイ旅のワンシーン、クアロアランチにて
だけど実際にハワイに来てみて、そんなイメージは一変した。ビーチにショッピング、そんな光景は、広大なハワイのほんの一部分。初めてきたハワイには、知らなかったことが詰まっていた。

オアフ島では、ハワイがいかに多様な文化で構成されているかを垣間見た。ハワイアンにアメリカン、そして日系、コリアン。歴史の中でもさまざまな国から移り住んだ人がいて、その文化がときに混ざり合いながら今に繋がっている。いろんな人に話しかけてみたけれど、いわゆる「アメリカ英語」を話さない人も多くいた。第一言語が英語ではないという人も、きっと多いのだろう。

あたらしいマラマなハワイ旅で出会った、ハワイの犬

国籍だけじゃない。ドッグフレンドリーなカフェもあちこちで見かけた。

今回宿泊させていただいた、オアフ島・ワイキキの中心に位置する星野リゾートグループのホテル「サーフジャック ホテル&スイム クラブ」も、まさにドッグフレンドリーなホテル。ラウンジではくつろぐ人たちのまわりに犬たちがいた。

バスに乗れば、毎日のように車椅子の方がいた。ごく当たり前にまわりの乗客が手伝い、ごく当たり前に運転手と挨拶を交わす。どれも、東京では見慣れない光景だった。

ハワイを愛する多くの人が、そこに漂うゆるやかで心地よい空気について語る。その空気は、きっと気候のせいだけじゃない。違いを当たり前に受け入れる人々の心の持ちようも大きいはずだ。

あたらしいマラマなハワイ旅のワンシーン、ハワイの食事
「ビッグアイランド」とも呼ばれ、ハワイ州一の大きさを誇るハワイ島では、地球のダイナミックさに触れた。溶岩の上を歩き、ふつふつと湧き上がるマグマを目にした。だけど同時に、その雄大な自然が、「残っている」のではなく、人々の努力によって「残されている」ことも知った。

あたらしいマラマなハワイ旅で訪れた、ハワイ島のキラウエア火山
「ハワイ」と聞いて多くの人がイメージするカラフルな花々のほとんどが、じつは、ハワイ固有の植物ではないらしい。長い歴史の中で多くの植物が海の外から持ち込まれ、定着した。植物に罪はないけれど、ハワイにしかない植物の生存が脅かされているのも事実だ。

あたらしいマラマなハワイ旅のワンシーン、ハワイの植物
ハワイ島のヒロという場所で、フィッシュポンド(ハワイに古くからある養魚池)の雑草を抜くボランティアに参加した。その中で、ガイドさんの言葉が印象的だった。

「ハワイ島は自然豊かな島だと思われているけれどその自然の多くはもう壊されている。『サステナブル』では、現状維持しかできない。失われてしまったものは戻らない。だから『リジェネレートしなければならない』」のだと。

あたらしいマラマなハワイ旅のワンシーン、ハワイ島のフィッシュポンド
ある日、朝焼けの写真を撮りにいった。時刻は6時前。日中は人でごったがえすビーチにも、まだほとんど人はいない。その中で、もくもくとゴミを拾っている男性がいた。

普段なら、「殊勝な人もいるものだ」と思ってそのままスルーしてしまう。だけどなんとなく、気づいたら私も足元のゴミを拾っていた。ちらりと男性のほうに目をやると、彼は無言でゴミ袋を広げてくれた。ありがたく入れさせていただいて、そのやりとりが数回続いた。

そうこうしているうちに空が白みはじめたので私は思わずファインダーを覗き込み、気づいたときには男性はいなくなっていた。

あたらしいマラマなハワイ旅のワンシーン、豪華客船
子どものころ、遠足に行った先で「来たときよりも美しく」なんて言われるたび、心の中でちいさく反発していた。ほかの人が捨てたゴミまで拾う義務はないだろうよ、と。

理解するのが遅すぎて恥ずかしいけれど、ようやくわかった気がする。楽しむと同時に、その場所に何かちいさくても貢献できることは、気持ちのよいことだ。

あたらしいマラマなハワイ旅のワンシーン、夕暮れ
実際に来て、自分の目で見たハワイは「楽園」なんかじゃなかった。環境が壊されてきた歴史がある。争いの歴史も、文化の危機も。ここは人々が暮らす場所だから、綺麗なものばかりではない。だからこそもっと知りたくなる。だから旅はおもしろい。

これからの旅は、変わっていくだろう。先人からのバトンを受け取り、複雑さを受け止めながら旅していく。

あたらしい旅は、「楽しいだけ」の旅よりも、きっともっと楽しい。

All photo by 片渕ゆり

《特集》美しきハワイを未来に語り継ぐ「あたらしいマラマなハワイ旅」

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片渕 ゆり ライター・フォトグラファー

ライター・フォトグラファー。佐賀県出身・東京在住。大学卒業後、コピーライターとして働いたのち、どうしても長い旅がしたいという思いからフリーランスに。2019年から旅暮らしをはじめ、TwitterやnoteなどのSNSで旅にまつわる文章や写真を発信している。2021年、『旅するために生きている』を上梓。

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