ローマ、フィレンツェ、アマルフィ海岸。
イタリアを何度か旅していると、有名な都市やエリアはひと通り思い浮かぶようになります。
次の旅先を考えるとき、「まだ行っていない場所」よりも、「どんなふうに時間を使えるか」を基準にするようになった、という人も多いのではないでしょうか。
朝はローカルに紛れてコーヒーを飲みたい。
予定を詰め込まずに、気分で歩きたい。
見どころの多さに圧倒され消耗するより、穏やかに1日を終えたい。
Marina di Massa(マリーナ・ディ・マッサ)は、そうした条件を自然に満たしてくれる、トスカーナ北部の海沿いの町です。
見出し
「行き先」にされないから、日常が残っている

Marina Di Massaは、トスカーナ州北部の海沿いにあります。

斜塔が建つピサと、カラフルな断崖絶壁に建つ建物が特徴の5つの町で構成されるエリア・チンクエテッレ(玄関口はLa Spezia)の間に位置しています。
どちらも世界的に知られた観光地であり、立地を見ても便利なのに、この町自体が目的地として選ばれることは多くありません。
理由はシンプルで、大きな世界遺産も、分かりやすい絶景もないから。
だからこそ、町は観光向けに大きく作り替えられることなく、地元の人たちの生活リズムがそのまま残っています。
外国人観光客は少なく、英語が通じない場面も珍しくありません。
それでも不便さより居心地の良さを感じるのは、この町が「観光客を迎えるための町」になりすぎず、穏やかさが保たれているからだと思います。
観光よりも、「一日の流れ」を大切にできる町

Marina di Massaでは、観光スポットを巡ることが一日の中心にはなりません。
朝いちは近くのバールでコーヒーとペストリーを注文、長居はしない。
毎週水曜日と金曜日にはローカルマーケットが立ち、野菜やチーズ、ハムを選ぶ地元の人たちで賑わいます。
自分たちも試しにあれこれ買ってみて、足りないものはスーパーで買い出し。
そうこうしてる間にお昼どきで、ビーチ沿いのレストランで潮風を感じながらランチ。
英語メニューはないけれど、となりのテーブルを見れば何が美味しいかは一目瞭然。
他席のシーフードプラッターを見て即決
午後はとくに予定を立てず、ビーチで本を読んだり昼寝をしたり、となり町にちょっと足を運んでブラブラしてみたり。
陽の落ちる頃、ジェラートを買いに行くと、海沿いを散歩する人やバールに向かう人々とすれ違います。
この町では、「何を見たか」よりも、「どう一日を過ごしたか」が記憶に残りやすいのが特徴です。

魚介だけじゃない。肉もちゃんと美味しいのが嬉しい
塩と胡椒のみでシンプルにいただくのが地元流
海沿いの町と聞くと、魚介一択を想像しがちですが、Marina Di Massaは違います。
もちろん、魚介は新鮮。
ムール貝やグリル、シンプルなパスタでも抜群に魚介の出汁が効いていて素材の良さがはっきり分かります。
それと同じくらい満足度が高いのが、肉料理。
トスカーナらしいビステッカ(イタリア語でステーキを意味する)やポルケッタは(豚肉ブロックにハーブを刷り込んでロール状にオーブン焼きしたもの)は、調理法で肉そのものの味を引き立てます。
「今日は魚?それとも肉?」
そんな日常的な選択を旅先でもできることが、この町の豊かさです。
外国人が少ない=居心地がいい、という事実

Marina Di Massaは外国人向けに作られてはおらず、観光案内も多くはありません。
英語を流暢に話す人の方がまだ少ない印象で、英語で尋ねてもイタリア語で返ってくることも珍しくはない。でも、不思議と不安ややりづらさは感じず、店先や隣人となんとなく理解はし合えるくらいなのが、むしろちょっと心地良い。
「観光客として扱われない」
その感覚は、旅慣れた人ほど心地よく感じるはずです。
静かな町を拠点に、有名都市を“使う”という旅
ピサの斜塔
Marina Di Massaは、滞在拠点としてとても優秀。
フィレンツェ、ピサ、チンクエテッレ、ポルトフィーノ……
どれも日帰り圏内で、必要なときだけ足を運び、夜は静かな海沿いの町に戻ることができます。
観光地を「泊まる場所」ではなく「行く場所」にすると、旅の消耗はかなり減ります。
人の多い場所で一日を過ごしても、戻る先が落ち着いていると、気持ちを切り替えやすくなります。
Manarola, チンクエテッレ
次のイタリアで、選択肢を少しずらしてみる

Marina di Massaは、強くおすすめする理由を前面に出す町ではありません。
だからこそ、イタリアを何度か旅して、「次は少し違う過ごし方をしてみたい」と感じ始めた人に向いています。
有名都市の合間に、何もしない前提で滞在する場所をひとつ挟む。
それだけでも、イタリア旅の印象はまた少し変わるのではないでしょうか。
Marina di Massaは、こんな余白を受け止めるのに、ちょうどいい町です。
All photos by Saeno