ライター
土庄 雄平 山岳自転車旅ライター|フォトグラファー

1993年生まれ、愛知県豊田市出身、同志社大学文学部卒。第二新卒を経験後、メーカー営業職とトラベルライターを両立。現在は、IT企業に勤めながら、自然や暮らしに一歩踏み込む、情報発信に精を出す。 山岳雑誌『山と渓谷』へ寄稿、「夏のYAMAPフォトコンテスト2020」入賞、「Yahoo!ニュース ベストエキスパート2024」地域クリエイター部門グランプリなど。山での活動をライフワークとし、学生来、日本全国への自転車旅を継続している。

こんにちは、トラベルライターの土庄です。8月も半ばを過ぎ、夏山も活況の時期を迎えています。よりいっそうアウトドアが楽しいシーズンですね!

先日は、夏の北海道の山旅として「斜里岳(しゃりだけ、標高1,547m)」の登山レポートをお届けしましたが、今回も同じく日本百名山のひとつにして、知床連山の最高峰「羅臼岳(らうすだけ、標高1,661m)」の日帰り登山もご紹介したいと思います。

海から立ち上がるようにそびえ立つ高山の世界へ。圧倒的な標高差を越えて、360度の大パノラマが広がる山頂に辿り着いたときの感動は、今でも強く脳裏に刻み込まれています。チングルマやイワブクロなど高山植物の楽園でした。

岩尾別から入山。クマの痕跡と清々しい樹林歩き


「羅臼岳」の登山口があるのは、ウトロ側の岩尾別温泉と、羅臼側の羅臼温泉の2つです。羅臼温泉はコースタイムが長い健脚者向けのルートであるため、岩尾別温泉から登るルートが一般的になっています。

連休ともなると駐車場はいっぱい。路駐している車の隙間を縫ってなんとか車を停めたら、登山スタートです。登山口の場所は少しわかりづらいのですが、ホテル地の崖(ちのはて)を過ぎた先にある「木下小屋」が目印です。

入山届を出したら、静かな樹林帯を進んでいきます。標高は低いのですが、さすがは日本の北東の最果て。真夏だというのにとても涼しいです。


そうして登り始めを楽しんでいたら、木にはなんと熊の爪痕が! 原生の自然が根付いている知床の地。穏やかな中でも、手つかずの自然らしい緊張感を味わいました。


とはいえ、メジャーな登山道ということもあり、人の往来が多くなるお盆シーズンには熊は姿を見せないとのこと。念のため熊すずは持っていますが、あまり緊張せず進んでいきます。

前半は展望がありませんが、木漏れ日が綺麗です。朝と同時に色づいていく、生命力溢れる緑の森。深呼吸するだけで、山のパワーが肺に流れ込んでくる気がします。

オホーツク展望と雄大にそびえる知床連山


登山開始から30分ほどで、オホーツク海を見渡せる展望所に辿り着きます。ここにきてようやく「山に登っている」という感覚を味わえるほど、前半はなだらかで登りやすい道が続きます。

知床の海岸線は山がちな地形。山と海の境界がはっきりしているのがわかります。展望所から見下ろすオホーツク海は果てしなく雄大で、美しい。


そして先ほどとは打って変わって、周囲の峰々のすばらしいパノラマが広がります。こちらは雲海をまとう「海別岳(うなべつだけ、標高1,419m)」。たおやかな山容のこの山は、残雪期しか登れないマニアックなスキーヤーの山でもあります。

その後ろに「斜里岳(しゃりだけ、標高1,547m)」もくっきりと見えていました。じつは前日に斜里岳へ登頂していたこともあり、何だか感慨深かったです。


北側には、三ッ峰・サシルイ岳・南岳・知床硫黄山まで知床連山の主峰が連なります。登山道の途中の景色ではありますが、知床の名峰のオンパレードに思わずテンションが上がります。

羅臼岳〜知床硫黄山までの縦走は、ヒグマの生息地でキャンプをしなければならず、少なくとも1泊2日が必要です。なかなかハードルが高いのですが、いつか挑戦してみたい岳人(登山愛好家)憧れのルートに思いを馳せていました。

世界遺産らしい静謐な自然に浸る山行


展望が開けた区間を過ぎると、再び樹林帯を進む道に変わります。日陰が多くなり、体力を温存できるのでありがたいです。そしてスタートから約2時間10分で「弥三吉水」に到着!冷たい水で顔をバシャバシャ、クールダウンするのが最高です。

すでにたくさんの方に飲まれている湧水ですが、北海道の沢水にはエキノコックス(寄生虫)が含まれている場合があるため、飲用する場合は煮沸したほうがいいかもしれません。


「弥三吉水」から少し歩くと、展望ポイントの極楽平へ。すると、登頂を目指している「羅臼岳」の山頂を捉えることができます。ゴツゴツとして火山らしい力強さを感じさせる山容に見入ってしまいました。

極楽平を越えると、しばらく緑のトンネルが続きます。ところどころ道も狭くなりますが、危ない箇所はありません。世界遺産の原生林を縫うように進む、アドベンチャーな登山はひたすらに非日常です。


大沢入口にたどり着くと羅臼平まで直登の道が続きます。

道中には高山植物が咲き誇り、緑の山肌と青い海のコントラストに目を奪われます。季節は8月ですが、雪渓が残っているのもさすがは知床ですね。

登れば登るほど、「いよいよ知床連山の稜線へ足を踏み入れるんだ!」という臨場感がたまりません。後ろを振り返れば、はるかオホーツク海沿岸には「知床五湖」も俯瞰できました。

知床半島の屋根を感じる羅臼平へ


羅臼岳と三ッ峰の間にあたる鞍部が「羅臼平」です。ここまで来ると、両側に海を望み、いよいよ知床半島の屋根に来たという実感を得られます。周囲はひたすらにハイマツ帯。本州で言うと標高3,000mに迫る気候帯です。

足元に目をやると、イワブクロやイワギキョウなど、色とりどりの高山植物が咲いています。ゴロゴロと石の転がる火山らしい地形の中で力強く咲いている姿が印象的でした。


ここまでくると、「羅臼岳」山頂は目と鼻の先。ハイマツ帯をかき分けて緩やかに標高を上げたら、最後に山頂に取り付く急登へと変わります。羅臼平から羅臼岳山頂まではおよそ1時間ほどです。

麓からはるか遠く感じられる山を眺めていただけに、「とうとうここまで来た!」という感動が込み上げます。


羅臼平を通りすぎて、羅臼温泉コースと合流する分岐付近で撮影した一枚。兜のように連なる知床連山と、その両側にはオホーツク海・根室海峡が広がっていました。海から山まで一続きの大自然。知床の雄大さに言葉が出てきません。

山の懐の広さというか、包容力というか、人智を超えたパワーすら感じます。これほどまでに人の手が加わっていない山の景色が続くのも知床ならでは。

ライター
土庄 雄平 山岳自転車旅ライター|フォトグラファー

1993年生まれ、愛知県豊田市出身、同志社大学文学部卒。第二新卒を経験後、メーカー営業職とトラベルライターを両立。現在は、IT企業に勤めながら、自然や暮らしに一歩踏み込む、情報発信に精を出す。 山岳雑誌『山と渓谷』へ寄稿、「夏のYAMAPフォトコンテスト2020」入賞、「Yahoo!ニュース ベストエキスパート2024」地域クリエイター部門グランプリなど。山での活動をライフワークとし、学生来、日本全国への自転車旅を継続している。

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