ナゴルノ=カラバフ共和国という国をご存知でしょうか?おそらく、ほとんどの方が聞いたことのない名前だと思います。
実はこの国、国家としての機能(「領土」、「国民」、「主権」)を備えていながら、歴史的背景などが原因で世界のほとんどの国々からその存在を承認されていない「未承認国家」と呼ばれる国なのです。
これは他国との国交が成立していないことを指します。世界にはそのような地域がいくつか存在し、日本人に人気の台湾や中東のパレスチナ、東欧に位置するコソボなどもそれに該当します。今回は私が訪れた未承認国家「ナゴルノ=カラバフ共和国」にスポットを当ててみたいと思います。
ナゴルノ=カラバフ共和国とは?
ナゴルノ=カラバフ共和国は中東とロシアのちょうど間のコーカサス地方、現在のアゼルバイジャンの領土内に存在します。この国を語る上で避けて通れないのが民族対立から発生した紛争問題です。
遡ることソ連統治下時代、アゼルバイジャン領に多くのアルメニア人が住むナゴルノ=カラバフ自治州がありました。
ソ連崩壊後、アルメニアとアゼルバイジャンがそれぞれ独立した後、ナゴルノ=カラバフ自治州に住むアルメニア人がアルメニアへの帰属を求め、1992年1月にナゴルノ=カラバフ共和国として独立。それに反発するアゼルバイジャンとの間で紛争が発生しました。
紛争はアルメニアがナゴルノ=カラバフ側につき、最後はロシアの調停により1994年に停戦協定が結ばれました。ナゴルノ=カラバフ共和国は紛争の惨禍にあった中で国際社会の承認を得られないまま事実上独立を宣言。現在に至ります。
実際に訪れてみた
photo by Kenta Sugizaki
未承認国家と聞くとそのイメージから治安面で多少の懸念がありましたが、実際に首都(ステパナケルト)に訪れてみると穏やかで素朴な雰囲気が漂う落ち着いた街でした。
街の規模こそ他国の都市より小さいですが、車が多く走っていたり、スーパーマーケットで女性が買い物をしていたり、子供たちが路地で走り回っていたりとどこの国でもよく見られる日常の光景が広がっていました。
このステパナケルト最大の見どころは街はずれの高台に立つ「We Are Our Mountain(我らの山)」と呼ばれる像で、その佇まいは一見モアイ像を連想とさせるシルエットです。
おじいさんとおばあさんを象ったこの像は紛争の絶えなかった時代からの脱却を願った人々の調和を表しているように見えました。
紛争の爪痕の残る町へ
photo by Kenta Sugizaki
首都(ステパナケルト)からミニバスで30分の場所に位置するシューシという町はナゴルノ=カラバフ紛争で最も衝突が激しかった地域とされ、私が訪れた時には町は壊滅的に壊されていました。今でも至る所に壊された建物や荒れた道が残っており、今でこそ人々が平穏に暮らしていますが当時の状況は相当なものだったことが想像できます。
民家の壁には無数の銃弾の跡がくっきりと残っており、改めて戦争の悲惨さを感じるとともに民族対立問題がいかに根深い問題であるかを考えさせられました。