編集部
伊藤 美咲 ライター・編集者

1996年東京生まれ。ステキな人やモノを広めるフリーライターです。美容師アシスタント、大手メーカーのカスタマーサポートを経てライターになりました。フリーランスとして活動を始めてからは、東京を拠点に活動しつつ、国内や海外を飛び回るように。普段は多国籍なシェアハウスで暮らしています。旅行と美容と邦ロックが大好き。

旅の自由化から約60年。物理的な移動の制限がなくなり、世界一周航空券、多拠点居住、定額制コワーク・リビングの登場など、ライフスタイルが大きく変わり、LCCの航空業界参入でさらに移動が容易になった近年。けれど、2020年のコロナの出現で、世界がガラリと変わりました。

旅や移動に限らず、「今までの常識」全般が通じなくなり、「ニューノーマル」と呼ばれるこれからの時代の在り方が、模索・形成されながら日々が進んでいます。

正解は誰にもわからない「今」、旅や移動にまつわるライフスタイルやカルチャーをつくることを社是に携える HafHとTABIPPOの代表のふたりは、どんな世界を見ているのでしょう?

最前線でもがくふたりの「現在地」と「あたらしい旅の未来予想図」を、ちょっぴり盗み聞きしてみるのが、この記事です!

大瀬良亮
株式会社KabuK Style 社長/共同創業者
1983年長崎市生まれ。2007年に筑波大学を卒業後、電通入社。2015年から官邸初のソーシャルメディアスタッフとして従事。2019年4月より定額制宿泊サービス「HafH(ハフ)」のサービスを開始、2019年9月 電通退社。2018年4月〜2021年3月 つくば市まちづくりアドバイザーに就任。2021年4月〜(一社)日本ワーケーション協会顧問。東京に住みながら地元の地方創生活動に従事、原爆の実相を伝える「Nagasaki Archive」発起人として、2010年Yahoo! JAPAN インターネット クリエイティブアワード特別賞受賞他、2011年〜在京長崎県人会「しんかめ」を主宰など。
清水直哉
株式会社TABIPPO代表取締役。群馬生まれ、40ヶ国以上を旅したビール好きの経営者、あだ名は「しみなお」。世界一周のひとり旅から帰国して、TABIPPOを仲間と一緒に創設。カレーとトマト、ビールとコーヒーが大好き。

1年半で、ガラリと変わってしまった世界で

ーー新型コロナウイルスが流行して、これまでのような生活ができなくなってしまいましたよね。実際、どうですか?会社としても個人でも、思うことがあればお伺いしたいです。

大瀬良

ちょうどこれから国境を越えて働く人たちがもっと増えていくんだなとワクワクしていたタイミングだったので、国内移動さえままならない状況になるなんて思ってもみなかったし、すごくショックでしたね。もともと昨年2020年には、「HafHは世界中の人たちに使われている」という事業計画だったんです。
HafHを作って盛り上がってきたタイミングで、この状況って……。かなり激動ですよね。

清水

大瀬良

本当ですよ。しみなおはその頃どう思ってた?2020年の3月ごろ、世間では大阪のライブハウスで初めてクラスターっていう言葉が出始めたくらいの頃かな。
あの頃は海外の仕事がたくさんあったんですよね。けど海外イベントも全部中止で、3月頃には「うちの会社本当に潰れるかも?」って思うくらい仕事がなくなって。当時はとにかく会社の心配をしていましたね。「会社が潰れても、社員のことはどうにかする。死なないだろう」というポジティブスタンスではあったけど、やっぱり仕事に対する使命感もあるし、潰しちゃいけない、残さないといけないと必死だったかな。

清水

ーー(TABIPPO、残っていてよかったなぁ。)

「旅」という本丸を狙いにいくための、HafHリニューアル

定額制宿泊サービス「HafH(ハフ)」

ーーそんな状況から1年以上経ったいま、HafHは「旅のサブスク」として大幅リニューアルしました。これはいつ頃から考え始めたことなんですか?

大瀬良

「旅のサブスク」というテーマが出てきたのは、ここ半年(2021年上半期)くらいですね。もともと、HafH全体の事業計画は、ローンチから5年でIPOを目指すところから逆算して考えています。そんな中、3年目となる2021年は、コロナに関係なく急成長しなければいけない時期で。そしたら、「ワーケーション」というキーワードが、世の中ですごく注目を集めるようになったんです。

福岡県宗像市のHafHの提携施設「MINAWA」付近福岡県宗像市のHafHの提携施設「MINAWA」付近
Photo by Osera

その受け皿として、HafHが使われるようになったイメージもあります。

清水

大瀬良

すごくありがたいことだよね。でも、一方で「やっぱり思ったよりも伸びないな」という印象もありました。ワーケーションは僕らが目指しているライフスタイルの一選択肢ではあるけれど、僕らHafHが目指している、3年目として伸びなきゃいけない成長曲線ほど、ワーケーションのマーケットはすぐには広がらないなと。

もちろん、注目度や普及度が右肩上がりなことは確かなんだけど、ちょっとずつ……っていう感じで。やっぱり今は緊急事態宣言もあって、ワーケーション関連に予算が使われない状態。世の中としてはもっともっとプロモートしたいんだけど、なかなかパブリックには、移動を伴う働き方をプロモートすることが難しい状態が長期間続いていますよね。

さまざまなことが落ち着けば一気に伸びていくことは期待はしているけれども、今ワーケーションに事業をかけるは、リスクを伴うなという判断をしたわけです。

なるほど。

清水

大瀬良

アドレスホッパーや多拠点居住、ワーケーションの普及によってHafHは注目を集めたけど、それって全体からするとまだまだすごく狭いパイなんですよね。そうじゃなくて、この「旅」という市場、本丸を狙いにいくことを踏まえて、「旅のサブスク」構想を考え始めたっていうのが正しいですね。

「旅のサブスク」を謳うHafHは、「トラベルテックカンパニー」へ

東京都上野のHafHの提携施設「NOHGA HOTEL UENO」東京都上野のHafHの提携施設「NOHGA HOTEL UENO」
Photo by Osera

ーー「旅のサブスク」をリリースしたいま、大瀬良さんが描く今後の旅のスタイルってどんなイメージなのでしょうか?

大瀬良

「旅をする人」というと、アドレスホッパーや旅暮らしをしている方々のイメージが強いかもしれないけど、「2泊の旅を年に4回」みたいなカジュアルな旅好きたちもたくさんいるんです。「旅を日常にしていく」という意味では、その人たちがHafHを使ってくれないといけないんですよね。

「どこか旅行に行きたい」と考えたとき、毎回宿を探して、値段やレビューを見て比較して……って、じつはめちゃくちゃ大変なことなんですよ。TABIPPOのみんなや、TABIPPO読者の人は「そんなの朝飯前でしょ」と思うかもしれないけど、世の中を見渡すと、手間と感じる人が実際は多い。そういう面でもHafHはすごく便利なものになるはずだし、「定額の旅」という新しい体験価値の提供にもなると思います。

たしかに。

清水

大瀬良

たとえ年に4回しか旅に行かないとしても、「旅のサブスク」になったHafHなら、旅行に行かなかった月のHafHコイン(HafHの独自通貨・ポイント制度。宿泊予約に利用できる)を翌月に繰り越して、次の旅行に活かすことができる。HafHコインを「積み立てる」ことで、「もともとは旅行に行く予定じゃなかったけど行ってみよう」とか、「行きたかったけど行けてなかった」という旅行スタートの動機にもつながるかなと。

今までワーケーションって言われたところで全然イメージがわかなかった人たちも、HafHを使うことで、自分らしい生き方の実践につながっていけばいいなと思います。

長崎県長崎市のHafHの提携施設「i+Land nagasaki」長崎県長崎市のHafHの提携施設「i+Land nagasaki」
Photo by Osera

アドレスホッパーやアクティブに旅をしていた人たちと、年に数回だけ旅をする人の境目がなくなる手段として、アプローチの方法を変えたようなイメージですね。

清水

大瀬良

まさに。上から引っ張るんじゃなくて下から押す、みたいな感じ。

今の話を聞くと、TABIPPOが10年前からずっとやってきたアプローチと方向性が一緒だと感じますね。僕らって、「世界一周っていいじゃん!」っていうことを発信しているけど、いきなり世界一周行こうぜ!なんて言われても、誰も行かない。

だから僕らは、ボトムアップ的にコミュニティを作って、ライトユーザーさんたちと交流する中で、僕たちの考える旅を伝えていく。なので今の大瀬良さんの話はすごく共感しましたし、「だから今、一緒にいろんなことをやれてるんだな」と思いますね。

清水

対談の様子TABIPPO.NET掲載記事【「起業しようと思ったことは、一度もない」 経営者たちが胸に抱く “旅にかける夢のあり方” とは】より。
画像一番左が清水、その右隣が大瀬良さん

大瀬良

あと、これはしみなおも感じてると思うんだけど、意外に観光業界って、ものすごく古くさいんですよ。いまだにFAXもめちゃくちゃ使うし、旧態依然としているシステムや慣習がめちゃくちゃあって。
あるある。

清水

大瀬良

僕たちは会社のポジショニングとして、そのトラベルテック市場を動かしていくためにも、本丸にアプローチしなくてはいけないなと考えていて。

先日リニューアルしたコーポレートサイトで、はじめて自分たちの会社のことを、「トラベルテックカンパニー」と定義づけしたんです。

KabuK Style

大瀬良

これまでは住まいなどのアプローチも意識していたので、「不動産テック」として扱われてたんですけど、これからは「旅を扱う会社」になると振り切っていて。じつはこのHafHのリニューアルの裏で、会社の方向性全体の舵も切ってるんですよね。
その裏でさまざまな悩みや決断があったと思うんですけど、TABIPPOの立場からするとうれしいですね。僕らのやりたいことを、僕らにできない領域でやろうとしてくれている感じがあるので。もともと仲間ではあったと思うんですけど、さらに親和性が高まったというか。

清水

観光や旅の概念すらアップデートしていきたい。非日常を、日常へ

ーーすこし事業の話からは離れてしまうのですが、世界が変わってしまったこの1年半、旅業界に携わるお二人は、どういう風に世の中の変化を見ていました?

大瀬良

誰しもがストレスを抱えることが当たり前になっていて、「ストレスを発散したい」と口にすること自体が悪になっているようにさえ感じます。さまざまな社会的問題もあって、もはやストレスという言葉ひとつで片づけられないくらい複雑なのですが、そんな息苦しい雰囲気が世の中にあって。

ーー家の外に出ていいのかもわからなくなっている状態ですもんね。

大瀬良

そう、もう誰も判断できない状況。でも月に1泊でいいから、近場でもいいから外に出たいと思ってる人はかなり多いはず。HafHはひとりで泊まれるホテルもたくさんあるから、「自分の時間をつくるためにHafHを夫婦交互で使っています」という方も増えてますね。

徳島県神山町「week」大瀬良さんが訪れた、徳島県神山町「week」。
非日常の空気が吸いたい、という声をこの1年半で多く聞いた Photo by Osera

世の中全体でオンライン化が進んだからこそ、リアルで会うことや体験することの価値が上がっているなと思う。オンライン上で話していても「やっぱり会って話したいね」、「一緒に飲みに行きたいね」ってなるし。

清水

大瀬良

旅先の景色も写真で見るのは簡単だけど、実際に現地に行くことへの価値がすごい上がった、みたいな。

大瀬良さんの話も踏まえて言うと、物理的に移動するってすごくいいことだったなと感じますね。海外に行かなくても、自宅以外の場所に泊まるとか、近くの居酒屋でちょっと飲むとか、物理的な移動が伴う体験って人の心を豊かにしたり、人のストレスを解消するものだったりしたなって。だからHafHがちょっとでもいいから外に出るきっかけになるのは、素晴らしいよなと思うし。

最初、今回のHafHのリニューアルは、「旅と日常の境界線をなくしていく」ことがメインの目的なのかと思ったんだけど、違うね。大瀬良さんが個人noteの記事で言及していた「旅が日常になるサービス」もそうだけど、「一歩目を踏み出すきっかけ」とか「旅をすることが選びやすくなる」が近いのかもなぁ。

清水

夏の乗鞍岳山頂での様子2021年夏に清水が長野県乗鞍高原のサスティナブルツアーで訪れた、
山頂の様子。清水自身もずっとまえから、旅と仕事、暮らしの境目はもう曖昧だ

大瀬良

まさに。「旅に行きたいな」と思ってたけど、結局行かなかった、という人はたくさんいるはずなんです。だけど「サブスクで払っているから行こうよ」って。
「ジムの会費払ったから行かなきゃ」みたいな。

清水

大瀬良

そうそう。「非日常体験のための物理的移動」だった旅が、「非日常じゃなくなる」のがHafHの利用価値なんですよ。
おおー、すごい。めちゃくちゃおもしろい。

清水

大瀬良

HafHを使っていくことによって、徐々に、この観光の定義すらアップデートされていくといいなと思っています。

今って、HafHのホテルに泊まる前提で旅先を決める人が、僕のまわりでめちゃくちゃいるわけですよ。HafHが旅のきっかけになるっていうのがすごくいい。

ただ、今回のリニューアルの本質=「旅のサブスク」が本当に画期的であるということが、どこまで伝わっているのかっていうのはちょっと不安ですね。さっきも大瀬良さんが言ってたけど、HafHってサブスクだけど、毎月使わなくてもコインが繰り越せる、貯められる仕組みじゃないですか。そのあたりのサブスクならではの利便性が、ちゃんと伝わってるのかなっていうのは気になりますね。

清水

大瀬良

そうなんですよ、それが本当に難しいところで。HafHって、旅のコストパフォーマンスのよさじゃないところで勝負をしたいんですよね。過去に旅行代理店が作ってしまった「コスパがいいことが善」「コスパの追求」という旧価値にとらわれてしまった人たちは、「HafHを使うと1泊あたりいくらで、どのくらいほかのサービスよりお得なんだ」ってことをものすごい追求したくなっちゃうんです。

僕らが「宿泊のサブスク」ではなく、「旅のサブスク」って言ってるのはここにも意味があって。JR西日本の実証実験で40%分の値段が含まれるとか、個人賠償責任保険が付帯されてるとか、旅全体のお得さも含めたサービスにしていくって言い続けていても、まだまだ通じない。でも、それがここ30年くらいで出来上がった観光のあり方なので、しょうがないんですよね。だから、それを僕らの会社だけで変えようなんて無理な話で。HafHを使ってみれくれた人たちが徐々にわかってくるものだと思うんですよね。

そうですよね、これからね。

清水

大瀬良

僕らの「たしかに、あれで変わったな」っていう感覚に近しいのはAirbnb。これはあくまでも僕の中での理解なんですけど、「沖縄に行きたいときにAirbnbを使った」というよりも、「このAirbnbがめちゃくちゃ話題だから行ってみたい。場所は沖縄らしい」という順序になったと思うんですよ。それが今や世界中を席巻するサービスに成長していて。あれは旅の習慣を思いっきり変えてくれたサービスだと思います。
うんうん。地名ありきではないよね。

清水

大瀬良

その施設と、ホストの存在が旅の価値を上げていますよね。結果、モノ消費からコト消費のブームになったのがここ10年のトレンドだったと思うんですよ。まさに、HafHも体験価値を大きく変えていくトレンドの一端になっていかなければなということをイメージしながら、サービスを提供しています。
だから、じつは「旅のサブスクで旅がお得になるよ」なんて一言も言ってないですもんね。

清水

大瀬良

もちろん、使っていただく上では、お得じゃないとユーザーも増えないと思ってるけど、あくまでもコスパのよさは最終目的じゃなくて、ひとつの要素として考えています。旅の定義って、難しいよね。
旅定義問題は、一生語れます(笑)。

清水

編集部
伊藤 美咲 ライター・編集者

1996年東京生まれ。ステキな人やモノを広めるフリーライターです。美容師アシスタント、大手メーカーのカスタマーサポートを経てライターになりました。フリーランスとして活動を始めてからは、東京を拠点に活動しつつ、国内や海外を飛び回るように。普段は多国籍なシェアハウスで暮らしています。旅行と美容と邦ロックが大好き。

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