人生の中で数えきれないほどたくさんの旅を重ねてきた。旅の期間は、長い人生のほんの一瞬なのかもしれない。だけど、旅先での新しい出会いや発見が、日常に深く影響を与えてくれる。旅から帰ったあとの日常はもはや旅に出る前のものとは違っている。
だから、今日もまた、私は新たな旅に出る。
旅は、私にいつも大事なことを教えてくれる。そんな私の旅の原点となった、忘れられないエピソードを今日は綴っていきたい。
旅をすることは、現実逃避だった
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ちょうど成人式を迎えた直後だった。4年間交際していた彼とすれ違うことが多くなり、お別れすることになった。
初めての恋人との別れ。それは4年間という長い時間を共に過ごし、人生の中で初めての感情や出来事を一緒に体験してきた相手との別れだった。だからこそ、その喪失感は言葉にはならないほど深かった。「切ない」という感情の意味を、このとき初めて知った。
どうすればこの感情をなくせるだろうか。ここじゃないどこかに行けば、救われるかも。そう思って、飛行機のチケットを調べた。
行き先はニュージーランドのクライストチャーチ。ただただ気持ちの赴くままに友人が留学していたことのあった、クライストチャーチ行きの飛行機を予約していた。
ニュージーランドに行けばきっと自分をリセットできる、そう思っていた。
環境を変えただけでは自分は変わらない
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ニュージーランドの滞在期間は長めにとり、2週間。春休みにアルバイトをやめ、これまでに稼いだお金を全部使ってしまう覚悟で旅立った。
ニュージーランドには壮大な自然と真っ青な空があった。ここならきっと彼のことを考えなくてもすむ。そう思った。
でも、現実は違った。
日本から飛行機で14時間も離れたニュージーランドに来たけれど、私は日本での過ごし方と同じことをしていた。携帯電話に残っている彼とのメッセージを読み返し、SNSを何度も徘徊する。彼が今何をしているのか知りたくて知りたくて、仕方がなかった。
環境が変わったのに、私はちっとも変わってなんかいなくて、メソメソと泣いてばかりいた。
ふらっと入った街の本屋。そこで忘れられない言葉に出会った
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気持ちを紛らわすためにニュージーランド滞在中は精力的に動いた。植物園に行ったり、ホエールウォッチングに行ったり、ダウンタウンで遊んでみたり。
いろんなことをして過ごした。それでも心はここにあらずで、全然楽しめていなかった。今ここに彼がいてくれたら。そんなことばかりを考えた。
ある日、ダウンタウンのメイン通りだったのか、路地裏だったのか、もう正確な位置は思い出せないけれど、そこで小さな本屋を見つけた。今でも忘れられない、香水のような甘い香りと印刷された本の匂いの混ざった、私好みの匂いがする本屋だった。
私はそこで、偶然手にした本から、忘れられない言葉に出会った。
はっとした。
それまでの私にとっての旅は、現実から抜け出すための手段であった。けれど、環境を変えたところで、私は私という存在からは逃げきれなかった。どこに行こうとも、私の心の中には変わらない自分が存在していた。弱くて、傷ついて、過去に囚われている自分が。
環境を変えることも時には必要だ。だけど、何よりも大切なのは自分と向き合うこと。自分のことを知り、自分を最強のバートナーとして連れ添って歩んでいくことが、人生をより豊かにするためには不可欠であるということに、気づかせてくれる言葉だった。
この言葉に出会ったおかげで、悲しんでいる自分のこともすっと受け入れることができ、まるで抱きしめられるような温かい気持ちになった。
私はこれからも旅に出る。自分自身と向き合う時間を作るために
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私の旅の目的はそれ以降、現実逃避ではなくなった。自分自身にきちんと向き合い、自分自身を知るために、私は旅に出るようになった。
旅先で感じたときめきや心踊る気持ちは、私の日常を豊かにしてくれるし、自分の感情が動く瞬間をしっかり捉えることができる。自分が何が好きで、何に対して悩んでいるのか、そういう答えを見つけられるのが、私にとっての旅となった。
旅の本当の意味を、ニュージーランドで偶然出会った言葉が私に教えてくれた。
今日も私は旅に出る。自分自身をもっと深く理解し、新たな一歩を踏み出すために。旅は、新たな自分を発見するための、私にとって、欠かせない人生の一部分となった。
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