ライター
TAM 見習い料理人

91年生まれ。東京都在住。 学生時代に大学を休学し、世界一周の旅へ。これまで訪れた国は20カ国。 将来自分のお店を持つことが夢。

こんにちは。週末キャンパーで料理好きのたむです。

昨年、僕は狩猟追体験サービス・わなんちゅのモニターとして岡山県上山集落区を訪れる、一泊二日の「里山暮らし体験」オフ会に参加しました。

最初は観光名所や特産物もパッと出てこないくらい全く馴染みがなかった岡山県でしたが、参加してみると、その楽しさは想像を超えるものでした。料理好きな僕としては「命をいただく」ことについて深く考えるきっかけだったなと今も深く印象に残っています。

▽わなんちゅツアーの様子については1記事目をご覧ください
https://tabippo.net/okayama-kaminoyama/

そんな上山集落は、実は人口のうち、移住者が3~4割を占める非常に珍しい地域でもあります。この記事ではそれがなぜなのかを解説するとともに、移住者の方に聞いたお話をレポートします。

「なぜ上山に移住者したのか?上山の魅力は?」
「現地ではどんな仕事をしているのか?」

田舎暮らしに興味がある方、必見です!

8,300枚の棚田と自然に囲まれる。岡山県美作市上山集落

岡山県美作市上山集落は、岡山駅から車で約1時間ほどの場所にある地域。かつては8,300枚の棚田があり、「つなぐ棚田遺産」にも選ばれています。


棚田の美しい光景と自然に囲まれた澄んだ空気。まさに想像していた田舎の風景だ!と僕も感動しました

しかし美しい棚田の光景は、整備しなければ荒れてしまいます。上山集落には人口が160名ほどしかおらず、高齢化が進んでいたこともあり、棚田の景観を綺麗に保つことが大きな課題となっていました。

そんな棚田を守ろうとしたのが、移住者の方々です。上山ではここ数年で若い移住者が増えたといいます。上山の問題を知り「棚田を活用してなにかできないか?」と、2007年に棚田を守るための活動がスタート。2011年には「NPO法人英田上山棚田団 」を設立し、Iターン・移住者を中心に復興作業が本格的に始まりました。


今回取材した「わなんちゅ」も、棚田の獣害被害に着目し、駆除した野生動物を資源として活用してできないか?という想いからはじまったサービスです

実際に上山へ移住し、自給自足の生活を体現しながらわなんちゅの企画運営をしている“梅さん”こと「梅谷真慈さん」をはじめ、様々な経歴を辿って現在上山に住む3名の移住者の方にお話を伺いました。

米づくりから狩猟まで「何があっても生き残れそう」なスキルが身に付く【梅谷真慈さん】

梅さんが上山に移住することになった経緯はなんだったのでしょうか?

編集部

梅さん

僕は2010年ごろから上山に通い始めました。現在では3人の子供と5人で上山に移り住み、棚田暮らしを深めています。

移住をしたのは、地方の暮らしにかかわることで、現地を支援する楽しさや難しさに触れたいと思ったからです

梅さん

私は大学の頃、旅行が大好きでした。岡山県内の27市町村をすべて回った他、海外にも行きました。特にネパールへの思い入れが強く、学生団体を仲間とつくりスタディツアーを企画実行したのはいい思い出です。さまざまな学生とそれぞれの視点でディスカッションをしながら2週間をネパールで過ごすことで、共に旅して暮らしにかかわることの楽しさや難しさに気づきました。

その後、農家や環境系ベンチャーでのお手伝いやインターンで関わることで地方には圧倒的にプレイヤーが少ないことがわかり、地方での暮らしを改善していきたいと思うようになったんです。大学院を卒業後した後は、すぐに地域おこし協力隊として美作市へ移り住みました


狩猟用の罠を仕掛ける梅谷さん

なぜ上山を選ばれたのでしょうか?

編集部

梅さん

なにがあっても生き抜いていけるようなスキルが欲しかったからです。お米づくりや狩猟など、サバイバルな環境で生き抜けるくらいのスキルや知恵を身につけたかったんですよね。

また、棚田への想いもあります。上山の自然を見ながら地域が抱える問題を聞いていると「1人でも多くの方と協力してこの棚田を再生していけたら、想像もできないような世界が広がるのではないか」と思ったんです


梅谷さんが制作した革製品たち

上山に移住されて、どんなことをされていますか?

編集部

梅さん

お米づくりや棚田の再生活動、狩猟、ジビエの生産など、本当に色々なことをしています。鹿の革製品を作って販売したり、里山体験の受け入れをしたりと、上山の魅力の発信にも取り組み中です

上山の魅力はどんなところにあると思いますか?

編集部

梅さん

新たなチャレンジがしやすいことではないでしょうか。上山は特別な観光地でもないですし、温泉があるわけでもありません。しかし、だからこそ人は棚田に集まりますし、新たなチャレンジをすればそこに人が集まる可能性が高いといえます。

もし上山にくるなら、中長期での滞在をおすすめします!上山の住民と関係を築けると思いますし、時間もゆったり過ごせてリフレッシュできるのではないでしょうか

上山には、人のフィルターを通して生まれた多面性がある。【蟻正敏雅さん】

上山に移住されるまでは何をされていましたか?

編集部

蟻正さん

18才〜29才まではアメリカ輸入の古着店で、バイヤー業・販売業・オリジナルアパレルの企画製造業をしたり、フランス菓子店でバリスタ業務を行ったりしていました。

その後、ライフスタイルセレクトショップの新規事業部立ち上げに参画するため、地元の中小企業アパレルカンパニーに就職。バイヤー業や人材教育、店舗設計やMDなど運営全般に関わった経験があります


上山の住人の皆さんとの一枚

なぜ上山に移住されたのでしょうか?

編集部

蟻正さん

前職のアパレル企業を退職し、生まれ育った岡山で新たなことに挑戦しようと考えていた際に上山に出会ったからです。

元々自然を拠点に何かしたいと漠然と考えていて、いくつかの企業を調べたのですが、その中で唯一、上山のコミュニティだけが「未知のワクワク感」をそそられるものがありました。

上山でできそうな内容と、生業、集落として大切にしていること、地元民との関係性、移住者同士の関係性などに多様な生き方を感じることができ、自分の中の社会のあるべき方向性がここには示されているように思ったんです

上山に移住されてからは、どんなことをされていますか?

編集部

蟻正さん

NPO法人英田上山棚田の一員として、再生した棚田でのお米づくりや「棚田の再生維持管理」を行いながら、私たちの活動のSNS発信やオンラインストアの運営を行っています。

また、2022年からは「株式会社にまつわるエトセトラ」の代表として、トレッキングやテントサウナなどアウトドアコンテンツを合わせたアクティビティを中心とした自然体験を受け入れたり、イベントの企画などを行ったりもしています。

これからは活動範囲を上山から少し広げ、放棄家屋や放棄地を再生活用しながら、共に活動する人々が共に育み合えるコミュニティづくりに取り組む予定です。「身近に小さな農園を」をテーマに、土から口までの物語が見える暮らしを創るパートナーになることを目指します

上山の魅力はどんなところにあると思いますか?

編集部

蟻正さん

住んでいる方々に共通している奉仕の精神です。上山の皆さんは「人に生かされている、土地に生かされている」という敬意に溢れていると思います。そんな人達がこの上山で活動することで、新たな上山の一面が見えてくる。そんな「人のフィルター」を通した多面性があるところが上山の魅力なのではないでしょうか

「求める暮らし」のために手を動かし続けている【三宅康太さん】


三宅さんが運営するキャンプ場にて、奥さんのななほさんと。

上山に移住されるまでの経歴や、移住する経緯は?

編集部

三宅さん

上山に移住したのは「人の幸せ」の答えを探すためです。僕は新卒で就職した証券会社での仕事を通じて、「本当の豊かさとは何か?」と問うようになりました。

その中でも日本の食料自給率や地方が消滅、衰退していくというニュースが気になり、人生において自分がするべきことを考えました。その際に上山のことを知り、いろんな移住者がいること、自分たちの求める暮らしのために手を動かし続けていることなどが魅力に映り、移住を決めました

上山の魅力はどんなところにあると思いますか?

編集部

三宅さん

はぜ干しのある棚田の風景と美味しいお米、個性豊かな移住者や、活動を見守り支えてくれる地元の方々などはもちろんのこと、耕作放棄地がまだ残っていることを含め余白があることも魅力のひとつだと思っています。Wi-Fiがあるなど普段の生活には困らない点は住民、来訪者共に嬉しい点ですね

上山に移住されて、どんなことをされていますか?

編集部

三宅さん

メインとしては、大芦高原キャンプ場の管理経営を行っています。全てのエリアがフリーサイトですので好きな場所でキャンプができ、焚火も楽しめるようにしています。自然をなるべくありのままに味わってほしいです。

その他にも、英田上山棚田団として棚田の再生活動のほか、「株式会社にまつわるエトセトラ」の活動として蟻正さんとともに農園管理や体験型ツアーの企画運営、高校地域コーディネーターとしての高校の地域学の授業コーディネートなどを行っています。

移住者の1人として“田舎者”にも“よそ者”にもならないよう、地域の仕事にも取り組みながら生きた情報を集めることを意識して暮らしをつくっています

“田舎者”にも“よそ者”にもならない努力を重ねて。上山集落の魅力とは

3名の方々のお話を伺って感じた上山の一番の魅力は”人”。もちろん上山の自然は魅力的ですが、自然と、自然のなかに生きる集落を創っている人々こそが一番の魅力なのではないかと思います。


また、「地元の皆さんが移住者を心地良く受け入れてくれる」とも伺いました。移住者を「よそから来た人」と蔑ろにすることはなく、むしろ積極的に意見を取り入れ、一緒に上山の良き文化や自然を守るためにチャレンジするのだとか。

三宅さんが「“田舎者”にも“よそ者”にもならない」よう努力をされているというお話もありましたが、元からの住民と移住者の方、それぞれが歩み寄って上山を盛り上げようとしているからこそ、上山は居心地が良く、どんどんと若者が集まってくるのだと感じます。

東京では、自分の住んでいるマンションのお隣さんとも喋ったことがないのも普通のこと。自分が住んでいる街をみんなで良くするなど考えたこともなかった自分にとって、ご近所の方と物々交換をしたり、子どもを集落の方全員で見守ったりしている姿は衝撃的であるとともに、ちょっぴり羨ましく思いました。

自分が求めるライフスタイルを追求し、自分ができることでを周りに還元する皆さんの姿は、とてもかっこよく映りました。

「お金」ありきではなく、どうしたら自分が求める「暮らし」を体現できるのか。
「豊かさとはなんだろう?」と考えさせられた、岡山県上山での体験でした。

ライター
TAM 見習い料理人

91年生まれ。東京都在住。 学生時代に大学を休学し、世界一周の旅へ。これまで訪れた国は20カ国。 将来自分のお店を持つことが夢。

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