ライター
土庄 雄平 山岳自転車旅ライター|フォトグラファー

1993年生まれ、愛知県豊田市出身、同志社大学文学部卒。第二新卒を経験後、メーカー営業職とトラベルライターを両立。現在は、IT企業に勤めながら、自然や暮らしに一歩踏み込む、情報発信に精を出す。 山岳雑誌『山と渓谷』へ寄稿、「夏のYAMAPフォトコンテスト2020」入賞、「Yahoo!ニュース ベストエキスパート2024」地域クリエイター部門グランプリなど。山での活動をライフワークとし、学生来、日本全国への自転車旅を継続している。

平等嵓大吊橋を渡って、名物の山小屋・桃ノ木小屋へ


スタートからおよそ3時間40分で、平等嵓(びょうどうくら)」へ到着。嵓とは切り立った崖を意味します。トレードマークの吊り橋の手前から引いてカメラを構えれば、その迫力が伝わる写真が撮れるでしょう。

美しい自然と、畏怖を覚えるほどの迫力。その2つが共存する、息を呑む大スケールの風景を前に、思わず立ち尽くしてしまいます。


平等嵓吊り橋を通り過ぎると、緊張感のある区間がいったん終わり、道のアップダウンが落ち着きます。30分ほど歩くと「桃ノ木小屋」に到着です。

通常、大杉谷から大台ヶ原山を目指す場合、1泊2日の行程になります。桃ノ木小屋は数少ない宿泊場所として重宝されている名物小屋です。今回は日帰りのため、休憩場所として立ち寄らせていただきました。


売店でコーラを購入しました。隔絶した秘境で、コーラにありつくことができるとは……!非日常の中で日常を楽しむのは、最高に贅沢ですね。

難易度もあり距離の長いルートだからこそ、遭難防止や万が一の負傷に際して、山小屋の存在は大きいと思います。アクセスが容易ではない山奥でずっと営業してくださっていることに感謝です。

連なる淵が美しい。大杉谷を物語る大瀑布・七つ釜滝


桃ノ木小屋から約30分ほど進むと、名瀑が連なる大杉谷の核心部へ辿り着きます。途中、木々の間に深いエメラルドグリーンの淵を見つけたら、それが核心部の始まりです。

登るごとにいくつもの滝壺が現れ、登り切るとその流れが一つの滝だったということに気付かされます。これこそが大杉谷を象徴する場所の一つ「七つ釜滝」。


名前の通り、7つもの滝壺を形成しながら、水流が階段状に流れ落ち、その轟音が渓谷一帯に響きます。滝の両側を彩る鮮やかな緑も、秘境らしい独特な風情を醸し出していました。

日本屈指の多雨地域という気候と独特の地質・地形が作り上げた、大自然の芸術作品と言える名瀑です。


簡単にアクセスできない場所にあるからこそ、得られる感動はひとしお。同時に「日本って本当に広い」と実感しました。

舗装路では見られない日本の姿がまだまだたくさんあるという気づき。これこそ筆者が山に登る理由であり、そのモチベーションにつながっています。

ワイルドな道を越えて、最奥に佇む秘瀑・堂倉滝へ

七つ釜滝から、途中の崩壊地と呼ばれる場所を越えて、最奥の「堂倉滝」を目指します。川の近くを歩き、登山道は相変わらずワイルドですが、ここまでくると不思議と慣れてくるものです。

清流の流れ、ゴロゴロと転がる岩、そして周囲を覆う色鮮やかな緑。そのすべてが心地よく、そして美しい。忘れていた人間本来の感覚を取り戻しているように感じられます。


崩壊地はその名の通り、岩が崩れて河原に流れ込んだ地形です。かつてこの崩壊により、10年間にもわたって登山道が封鎖されていたことも。

しかし今では、安全なルートが整備され、自然に順応した先人たちの開拓力を垣間見ることができます。同時に荒々しい崩壊地はほぼそのままになっていて、まさに自然の過酷さも物語る場所です。


崩壊地から40分ほど歩くと、ようやく大杉谷の最奥にある「堂倉滝」へ到着。登山口から片道およそ6時間の行程です。そこには、想像を超えた美しさの、神秘的な滝が佇んでいました。

落差は20mほどですが、滝壺は深く、水流が壮大に流れ落ちます。水面がキラキラと輝き、滝の轟音が周囲の原生林へ溶け込むロケーションは格別。マイナスイオンが漂い、夏でも天国のような涼しさです。


1時間ほど涼んでから、往路をピストンして帰路につきました。往復で標準時間12時間というロングコースかつ、前述したようにスリリングな道なので最後まで気が抜けませんでしたが、登山口に戻ってきたときの達成感はひとしおです。

■私が歩いたコースタイム
大杉谷登山口6:56→地獄谷吊橋7:25→京良谷7:39→シシ淵8:52→ニコニコ谷9:29→平等嵓9:35→桃ノ木小屋10:03→七つ釜滝10:36→崩壊地11:12→堂倉滝12:04→七つ釜滝13:55→大杉谷登山口17:15

山の数だけ可能性がある日本の自然


関西の秘境として、多くの岳人を魅了してやまない「大杉谷」。今回は全コース走破ではなく、中心部分までの往復でしたが、冒険心と達成感を満たす内容になりました。

今回ご紹介したように、日本の山地にはたくさんのポテンシャルが秘められていると思います。登山道の数だけ、そして山の数だけ、出会える自然の表情が増えていくはず。

今後もそうした自然に出会うため、山に登り続けたいと思います。ぜひみなさんも飽くなきアウトドアフィールドへ出かけてみてください。

■詳細情報
・名称:大杉谷
・住所:三重県多気郡大台町大杉
・地図:
・アクセス:(登山口まで)大宮大台ICから車で1時間10分、中部電力 宮川発電所付近の駐車場へ停車後、登山口まで徒歩10分
・営業時間:4月下旬〜11月上旬
・定休日:上記以外は冬季閉鎖
・電話番号:0598-78-3338(大杉谷登山センター)
・料金:1シーズンにつき1人1,000円
・所要時間:大杉谷登山口から堂倉滝まで徒歩往復で約12時間
・備考:
◯初心者でもトレッキングシューズやレインウェアなど本格的な登山装備が必要です。
◯登山未経験者で京良谷より奥へ行く場合、登山ガイドをつけることをお勧めします。
◯無理な登山計画は絶対にやめましょう。
◯滑りやすい箇所が連続するコースです。降雨の翌日の入山を避けましょう。また大杉谷は天候が変わりやすいため、降水確率が30%未満のときに入山するのがベター。
◯あらかじめ十分な食料や水分を購入し、持参しましょう。
◯梅雨入りする6月中旬~9月末には山ヒルが発生します。ディート成分配合の虫よけスプレーが効果的です。
・公式サイトURL:https://www.oosugidani.jp/

All photos by Yuhei Tonosho

ライター
土庄 雄平 山岳自転車旅ライター|フォトグラファー

1993年生まれ、愛知県豊田市出身、同志社大学文学部卒。第二新卒を経験後、メーカー営業職とトラベルライターを両立。現在は、IT企業に勤めながら、自然や暮らしに一歩踏み込む、情報発信に精を出す。 山岳雑誌『山と渓谷』へ寄稿、「夏のYAMAPフォトコンテスト2020」入賞、「Yahoo!ニュース ベストエキスパート2024」地域クリエイター部門グランプリなど。山での活動をライフワークとし、学生来、日本全国への自転車旅を継続している。

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