その他

1996年東京生まれ。ステキな人やモノを広めるライター。2019年にフリーライターとして独立し、インタビュー記事、地方取材記事、イベントレポート、プレスリリースなどの執筆を手がける。短期間でサクッと行く旅と音楽が好き。普段は多国籍なシェアハウスで暮らしています。

9月21日の国際平和デーに開催されたイベント「PEACE DAY」のトークショーに登壇された、シナモンAI 会長兼CSDOの加治慶光さん、国際人権NGOヒューマン・ライツ・ウォッチ日本代表の土井香苗さん、株式会社LIFULL クリエイティブ本部 ブランドマネジメントグループの大橋久美子さん。

TABIPPO読者の中には「将来はグローバルに活躍したい!」「旅好きを仕事に活かしたい」という人も多いのではないでしょうか。

しかし実際には「どんな人材が求められているの?」「旅の経験をどう活かせば良いの?」と疑問を持つこともあると思います。

そこで今回は長年グローバルに活躍される、まさに大先輩なお三方に、「実際に海外と仕事をする中で感じた、日本とのギャップ」や「次世代に期待すること」、そして「旅をすることに対しての価値」についてお話していただきました!

加治 慶光
富士銀行、広告会社を経てケロッグ経営大学院にてMBA修了。日本コカ・コーラにてコカ・コーラ、ジョージア、長野オリンピック大会等担当。コンテンツ業界に転じワーナーにて “マトリックス”、“A.I.”、ソニーにて “スパイダーマン”、アニメ”鉄腕アトム”等を担当。日産自動車にてスカイライン、NISSAN GT-R等高級車戦略構築・実施を指揮。2016東京オリ・パラ招致委員会に出向。帰任しNissan LEAF世界導入に参画。後、内閣官房官邸国際広報室にて、震災対応、SNS、2020招致、ダボス会議、クールジャパン、観光戦略等担当。2014年よりアクセンチュアにてブランディング、働き方改革、SDGs、地域拡大等担当。神奈川県顧問、鎌倉市参与、観光庁マーケティング戦略本部委員等も務める。
土井 香苗
ヒューマン・ライツ・ウォッチ日本代表。東京大学在学中の96年に司法試験合格。2000~16年日本で弁護士として活動、難民支援や難民認定法改正などを訴える。06年ニューヨーク大学ロースクール修士課程(国際法)修了、07年米国ニューヨーク州弁護士に。08年9月から現職。著書に『巻き込む力 すべての人の尊厳が守られる世界に向けて』(小学館、2011年)、『“ようこそ”と言える日本へ』(岩波書店、2005年)など。
大橋 久美子
ブランドストラテジスト。博報堂にてキャリアをスタートし、多くの日本企業のマーケティング・コミュニケーション戦略立案にかかわる。日本のブランドの海外での伸び悩みに直面する中、外資系のブランディングウェイを実感したいという思いで、2003年JWTに入社。2017年12月、戦略プランニング本部長に就任。日本オフィスの有志でブランディングソリューションモデルである「ブランドナーチャリング」を開発、多くの日本企業のブランディングに採用される。現在は、株式会社LIFULL でのLIFULLブランドの戦略立案に携わるとともにフリーランスのブランドストラテジストとしても活動。

海外と仕事をする中で感じた、日本とのギャップ

世界を股にかけて働かれるお三方に、これからグローバルなフィールドで活躍したい!と考えている新世代のみなさんの参考として、それぞれが海外で働く中で感じた母国とのギャップから伺いました。

加治さん

世界の中で、日本よりもGDPが高い国はアメリカと中国だけですね。

アメリカでは銃が流通しており、平和は自分で勝ち取るという感覚があります。また、中国でも個人情報保護等の人権などが制限的ですよね。そういう点も踏まえて、日本は大変平和で住みやすいと感じています。

大橋さん

海外に出て初めて気づくことってたくさんありますよね。私も、マーケティング事業に携わっている中で、海外の商品PRと日本でギャップを感じることが結構あります。

海外では商品の全体的なイメージをパッと見て、情緒的な思いで購入する人が多いのに対して、日本人は製品を機能面までしっかり見て買う人が多いんです。

日本の企業は海外の市場に売り出す際にも、日本向けのPRと同様に機能面をアピールして売り出してしまうので、コミュニケーションギャップが生まれていたりするんですよね。

大橋さん

特に男性の方が「この製品は、ここの機能が新しくなったんです!」と機能面を訴えがちですが、実際は、消費活動者の8割が女性たちなんです。

海外の広告業界は、そこの層へアプローチするために、数多くの女性が第一線で活躍していて、フレキシブルに広告を作っているのに、日本はまだまだ男性社会であることにも、差を感じてしまいます。

加治さん

広告といえば、海外のCMの尺は60秒程度あるのに、日本では15秒が一般的ですよね。短い時間しかないから、一瞬でインパクトを与える演出にばかり偏ったり、出演者のネームバリュー頼りになりがちなんですよね。

土井さん

好きな芸能人がCMに出ているからという理由や、名前を聞いたことがあるからという曖昧な理由で商品を買う人も多いですし、日本のCMにはあまりストーリーが感じられないですよね。

加治さん

タレントのアサイン力やメディア支配力が、そのまま日本での力の示し方…という風になってしまっているんですよね。だから、海外に市場を伸ばしていくことに、苦戦してしまうんだと思います。

これから時代を担う、新世代に期待すること

日本企業の働き方の変化やコロナウイルスの影響があったりと、日々状況が目まぐるしく変わる現代。

これまでの時代を担ってきた大先輩たちが、新世代に求めることや期待することって…?

土井さん

今の若い…特にZ世代の方たちは「自分で変革していこう」という気持ちがあって、すごく前向きですよね。

大橋さん

少し前のミレニアル世代に遡ると、まだ保守的な考えの人も多くいるようですが、特にZ世代には、グローバルな価値観を持っている人が多いように感じます。

加治さん

僕も、まさにその通りだと思ってます。

大橋さん

ミレニアル世代までは「NOW&ME」―つまり、その時代や自分のことを軸にするような考え方が主流だったけど、Z世代は「FUTURE&US」―つまり、未来や社会全体を良くしていこうという価値観もバランスよく取り入れていますよね。

土井さん

無理に頑張ろうとするのではなく、楽しみながら世の中を良くしていく、という考えになってきていると感じます。

加治さん

私が以前勤めていたアクセンチュアでは、数年前から新卒採用のプロセスで「社会に役立つことをやっているか?課題解決に向き合っているか?」という視点が学生から重視され始め、SDGs統合プログラムを整備したりしました。

加治さん

なぜ、若い世代がグローバルになっているかというと、ソーシャルメディアやエコーチェンバー効果(同じように考えている人に強化されて響く効果)によって、自分の興味のあることが深掘りできるようになったことが背景にあると思っています。

日本はSDGsの教育も進んできましたし、思春期に東日本大震災と原発事故という複合災害に接した世代が就職しだしたこともあり、全般的にソーシャルな意識が強まっていると感じています。

SDGsに関心の強い若い世代と、世界的なサステナビリティ関連の要求にさらされているトップ経営者層がソーシャルな動きを牽引しています。間に挟まれて、ビジネスの日々の結果を求められる中間管理職の人々の意識変換と、イノベーションへの繋げ方が重要になってくると思います。

大橋さん

SDGsは、新型コロナウイルスの影響で、下火になるかと思って心配してたけど、むしろ、最近さらに考えが根付いてきたというか…浸透が加速していますよね。

地球規模の問題だから、一斉に危機感を持って課題解決が進んでいるのかなと。若い世代には、この危機感をコロナによる一過性のものだと思わずに、持ち続けてほしいですね。

土井さん

日本は、経済規模でいうと世界3番目の国で、めちゃくちゃ平和なのに、世界的に“求められている役割”を受けて立とう!というリーダーシップが、まだ足りないように感じます。

世界を見据えて物事をよくしていこうと動ける人材が、今後ますます増えていくことに期待していますね。

改めて、旅することの価値って? グローバルに活躍するためにはどう活かす?

最後のトークテーマは「旅することの価値」!

気軽に海外に行けなくなってしまった時代の中でグローバル人材になるには、どのように旅をして活かせばいいのでしょうか?

土井さん

やっぱり、本で世界の景色や情勢を知るのと、実際に現地に足を運んで、自分の目で見るのとでは、影響の受け具合が全く違いますよね。

私もバックパッカーとして、大学3年生から4年生頃に、ヨーロッパやアジアをバックパッカーしたり、1年間アフリカのエリトリアにボランティアとして住み込んだことが、今の自分の血肉になっていると感じます。世の中を知るために、旅は1番いい手段だと思いますね。

大橋さん

旅はもちろんそうだし、海外の人と広告を作っている中でも、「どこでも共通している普遍的な価値観」と「国によって異なる独特な価値観」の両方を知れることが、自分の考え方や生き方にすごく影響があって、面白いなと思っています。

それって、結局は“人間自体への興味”でもあるんですが(笑)、いろんな国の人と出会える喜びがたまらなくて、旅や海外での仕事をしているのかなと思いますね。

土井さん

若いときにしかできない旅もありますし、若い世代にはどんどん旅に出てほしいなと思います。お二人は、旅や仕事で海外を訪れる中で、特にギャップがあった国ってどこですか?

大橋さん

昨年訪れたアルバニアですね。中古のベンツが普通にタクシーとして使われていたり、常に盗聴されている…という危険な文化もあったりしました。

まだまだ争いごとも多い地域ですが、首都のティアナは年々おしゃれになってきているし、アルバニアの人々は自国に対する強い自信も持っていました。とにかく日本とは全然違って面白かったですね。

加治さん

今年COVID-19が深刻化する直前、1ヶ月の間にアメリカ、スイス、ベトナムの3カ所を訪れる機会がありました。短期間でたくさんの国に行くと、それぞれの国の比較が分かりやすくできて、経験値がギュッと濃くなった気がします。知り合いで、新婚旅行に世界一周をしていた人もいましたね。

土井さん

「夫婦での長期旅行は定年後」っていうイメージも一般的にはあるけど、新婚で世界一周に行っちゃうのは面白いかもしれませんね。若いうちの旅は投資になるから、二人の今後にも活かせますし。

加治さん

2週間くらい仕事を休んで、2〜3カ国訪れるくらいなら、サッと旅に出やすい時代ですしね。今すぐは、コロナの影響もあって、まだ海外旅行は難しいかもしれないけど、国内旅行で試してもいいと思います。

土井さん

ただ行くだけじゃなくて、何か自分なりにテーマを決めて旅するというのも、楽しそうですよね。

ちょうど私は「PEACE DAY」のトークテーマが「香港/中国/日本、私たちのデモクラシーの未来を語ろう」だったので、「日本にいる香港人を、尋ねて回る旅」をしてみたいかな。

“香港の方から見た日本“の捉え方を、そのエリアそれぞれに聞けるし、表面的じゃない国内旅行になるんじゃないかと思います。

大橋さん

海外の人の方が、日本に詳しいということもありますしね。

加治さん

古いアメリカ映画で『泳ぐひと』といって、知人の家のプールを泳ぎ渡りながら、自分探しをする…という企画の作品があるんですが、それに肖って、日本中の市営プールを泳いでみるとかもいいね(笑)。

土井さん

面白い! そういう興味のあることを企画化してみるのも、また違った旅の経験になりそうですね。

加治さん

あとは、「観光協会に行っておすすめしてもらった、その街ナンバーワンの居酒屋に行く旅」とか。これは、僕自身がやりたくなってきました(笑)。

大橋さん

私は、大河ドラマの『真田丸』が好きで、作品の舞台である沼田に行ったことがあるんですけど、沼田の土地を制した英雄の真田は、現地の人からしたら敵扱いなんですよね。

日本史では、“勝者の話“がメインで描かれているけど、地域によってヒーローが異なるし、現地の人に話を聞くと、取り上げられてなかった登場人物のエピソードを知れることもあります。

加治さん

最近は、Netflixなどの動画配信サービスでも、各国のコンテンツが見られるから、まずます旅に行きたくなるよね。

Netflixを見て、海外に行く気持ちを高める時代がしばらくは続くのではないかと思います。

大橋さん

今、Couseraというオンラインで大学の授業を受けられるようなサービスもあるので、ステイホームしながらも世界の情報を得ることはできるんじゃないかなと思います。

土井さん

話してたら旅に行きたくなってきましたね。渡航が解禁されたら海外にも行って、現地の様子を自分の目で見てみてほしいなと思います。それまでは市民プールとNetflixですね(笑)。

***

「日本は平和な国」「海外と日本は違う」なんて当たり前のようにわかっていたつもりでしたが、実際にグローバルに活躍されているお三方から聞くと、言葉の重みが全然違くて、自分の目で見て体感することの大切さを改めて感じます。

また、海外に行けない今だからこそできる旅のスタイルについても柔軟な考えを持っていて、聞いているだけでとてもワクワクしました。

今後も世の中の流れや世界の様子を広い視野で見つつ、私たちがリーダーシップを持った時代を担う世代になっていければと思います。

PEACE DAYとは

人類は有史以来、人が人を殺さない日はないといわれています。たった一日でいいから「人と人が争わない日」をつくろう。それが9月21日の「国際平和デー=PEACE DAY」です。

そんな想いを広めるために、「Believe in Peace with Love」をコンセプトとして、世代、立場、すべてのジャンルを超えて楽しめる野外フェスとして2018年からスタートしたのが野外フェスである「PEACE DAY」です。

毎年、野外フェスとして開催していたイベントが、オフラインでは開催が難しい。だけど、こんな時代だからこそ、ちゃんと立ち止まってみんなで平和について考えたい。そんな想いから、2020年は場所を選ばずに参加できるオンラインで開催しました。

All photos by Kazuki Miura

その他

1996年東京生まれ。ステキな人やモノを広めるライター。2019年にフリーライターとして独立し、インタビュー記事、地方取材記事、イベントレポート、プレスリリースなどの執筆を手がける。短期間でサクッと行く旅と音楽が好き。普段は多国籍なシェアハウスで暮らしています。

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