ライター
Ayano 旅する女将

外資系CAとして10年間勤務した後、東京の離島、神津島で宿「みんなの別荘ファミリア」をオープンし、奮闘中。 18歳で初めて一人で海外へ行ったのを皮切りに、留学、インターン、世界一周、航空業界と人生が旅に染まっていき、旅人を迎える側になった今でも旅に出るのはやめられない。家族からつけられたあだ名は"飛んでるねぇちゃん"。LAとマカオに居住経験あり。

あなたは、天の川を見たことがありますか?

明治・大正時代までは都心でも天の川が見られたとされていますが、今では人工の明かりが増え、天の川が見られる土地で暮らしている人は世界で3人に一人と言われています。

私が住む東京の離島・神津島村では、満天の星が輝く夜空を守る島をあげての取り組みが評価され2020年冬、星空保護区「ダークスカイ・パーク」に認定されました。

今回は美しい星空を誇る神津島で、夜空を仰いで暮らしを見つめ直すチャンスについてお話ししたいと思います。

星空保護区とは

photo by Akihiro,ISHII

国際ダークスカイ協会(IDA)が2001年に始めた「ダークスカイプレイス・プログラム」(和名:星空保護区認定制度)は、光害の影響のない、暗い自然の夜空を保護・保存するための優れた取り組みを称える制度です。認定には、屋外照明に関する厳格な基準や、地域における光害に関する教育啓発活動などが求められます。

そしてそれらは、自治体・観光業界・産業界・地域住民など多くの人々の理解と努力によって支えられます。また、認定の公表により、夜空保護の重要性、光害問題の現状と対策について、広く啓蒙することを目的としています。(引用:星空保護区®

神津島の認定は、日本では西表石垣国立公園に次ぐ2例目の認定ですが、人口が集中する居住エリアや生活圏も含めた全域で行われた光害対策としては日本国内で初めての事例で、持続可能な環境配慮型の新しい地域振興のモデルケースとして、今後この動きが他の地域に波及していくことが期待されています。

神津島の星空の特徴

photo by Full Earth
同じ東京都、都心から180km離れた場所に位置する神津島は調布から飛行機でわずか35分。竹芝桟橋からジェット船なら3時間半。大型船で10時間、夜出発して目覚めれば青い海が広がります。都会の喧騒から離れ、気軽に星空を眺めに行けるアクセスの良さも特徴の一つです。

神津島では星空保護区の認定にあたり全ての街灯をLEDに、上空に光が漏れることの少ない特注の電灯に取り替えました。そのため、島内のどこを歩いていても晴れてさえいれば星を眺めることができます。

また、村内の星空観測スポットである「よたね広場」は高台にあるため、観測はもちろん星空撮影にも適したスポット。村落が一つに集まっているため、どの宿に泊まっても広場まで徒歩圏内ということも星空を心ゆくまで堪能できる特徴でもあります。

photo by Full Earth
島だからこそ楽しめる星もあります。冬の星座りゅうこつ座のカノープスは水平線ギリギリに現れる一等星で、見た人は寿命が延びるとも言われています。

大変低い位置に現れるため、山や森に囲まれた場所では隠れてしまい、日本で観測できる場所は貴重です。島だからこそ観測できる特別な星なのです。

冬でも天の川に出会えますし、1年を通して流星群や月食など、様々な天体イベントが楽しめる島でもあります。中でも、ネオワイズ彗星が観測できたときは、肉眼でも箒部分がハッキリと見え、宇宙の不思議を間近で感じられたのが印象的でした。


photo by Full Earth

その光は本当に必要な灯りだろうか?

あなたは流れ星を数えたことがありますか?それは生まれ育った故郷でしょうか。または、旅行先で晴れを祈りながら待ち続け、数えたものでしょうか。残念ながら、新宿駅で流れ星に願いを込めた人はいないと思います。

2021年4月の緊急事態宣言の下、20時に消灯が促された東京で、「うわ、渋谷がめっちゃ暗い」と感じた方もいたでしょう。でも、暗すぎて困ると感じた方はいますか?

photo by Ayano Tanaka
もちろん、街の明かりが防犯対策になっていることもありますし、街に人が流れている以上一定の灯りは必要かもしれません。だけど、コンビニが眩しすぎで目がチカチカしたり。部屋に街灯や看板の光が差し込んでしまい、眠れない。こういった現象は光害(ヒカリガイ)の一つとされています。

神津島にはコンビニはありませんし、明るすぎる看板もありません。また、星空保護区の条例として新規に建造する看板や建物の明かりに対しては一定の基準が設けられました。

そうでなくても、漁師町ですので夜は早くに眠りにつき、早朝から仕事に出る生活が当たり前の暮らしとして根付いています。同じ東京でありながら、神津島では自然のリズムに合わせた無理のない暮らしが残っているのです。

夜空を仰ぎ、今を、暮らしを見つめ直す

あなたが最後に夜空を眺めたのはいつでしょうか?電車の中だけでなく、窓辺にいても、外での待ち合わせでも、ずっとスマホを眺めていませんか?


photo by Ayano Tanaka
今、この記事を読んでいる都心の皆様、一度夜空を仰いでみてください。もう月は上っていますか?都心にいても、夕暮れ時に輝く金星、夏はこと座のベガや冬はオリオン座など一等星のいくつかは見えるかもしれませんね。

神津島に住む私たちは夜空の月と星で季節を感じることも難しくありません。「だいぶオリオン座が早く上がるようになってきたね。」そんな会話をしたり、満月の夜には街灯が要らないほど月が明るくて、白く照らされた夜のビーチをお散歩するのもロマンチック。

また、漁師さんはレーダーだけでなく星座を見て船の向きを確認することもあるそうです。それくらい自然のままの光が残り、暮らしの中で大切にされているのです。

光害問題をきっかけに、環境への意識を

渋谷の空では、”星が恥ずかしがって出てこない”というわけではありません。神津島の空と同じように、空の上で同じ光を放ち輝いているのですが、残念ながら街の灯や大気汚染によってその姿が見えないのです。

光害だけでなく海洋プラスチック、ゴミの埋め立て、CO2の排気…自然は人間がもたらしたさまざまなものによって阻害されています。また、それらの多くは人々の快適さや便利さを追い求めた結果、重なり合って現代の問題となっています。

photo by Ayano Tanaka
今では特別なものになってしまった「満天の星が輝く夜空」は、本来ならそんなに遠いものではないはずなのです。更に手の届かないものになってほしくない。子どもにも、その子ども達にも同じ美しい星空の下に暮らし、豊かな生活を送ってほしい。もしそう思うなら、今からでも遅くはありません。

全てを急に戻すのは難しいかもしれないけれど、都会に暮らすあなただけでなく、郊外に住むあなたも、地球に優しく守り続けられる暮らしに、できることはないだろうか。夜空を見上げて考えてみませんか。

ライター
Ayano 旅する女将

外資系CAとして10年間勤務した後、東京の離島、神津島で宿「みんなの別荘ファミリア」をオープンし、奮闘中。 18歳で初めて一人で海外へ行ったのを皮切りに、留学、インターン、世界一周、航空業界と人生が旅に染まっていき、旅人を迎える側になった今でも旅に出るのはやめられない。家族からつけられたあだ名は"飛んでるねぇちゃん"。LAとマカオに居住経験あり。

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