ライター
土庄 雄平 山岳自転車旅ライター|フォトグラファー

1993年生まれ、愛知県豊田市出身、同志社大学文学部卒。第二新卒を経験後、メーカー営業職とトラベルライターを両立。現在は、IT企業に勤めながら、自然や暮らしに一歩踏み込む、情報発信に精を出す。 山岳雑誌『山と渓谷』へ寄稿、「夏のYAMAPフォトコンテスト2020」入賞、「創業110周年記念 愛知銀行フォトコンテスト」最優秀賞など。山での活動をライフワークとし、学生来、日本全国への自転車旅を継続している。

こんにちは!トラベルライターの土庄です。今回は筆者の学生時代に立ち戻って、「旅と考古学」についてピックアップしたいと思います。

筆者は大学4年生のとき、約2週間にわたって長崎外海エリアで暮らし、潜伏(隠れ)キリシタンの動向に迫ってきました。旅と考古学。それらは一見遠いようで、現地での体験を通じて結びつけることができるのです。

卒業論文に迷いを抱える大学生の方も多いと思いますが、せっかくなら自分の専攻と大好きな旅をミックスして考えてみてはいかがでしょうか。きっと学生時代の最後に、自分をアップデートでき、強く記憶に残る旅行体験ができるはずです。今回は筆者の一例をご紹介します。

一歩踏み出して始まったキリシタン考古学研究


大学時代は文学部で考古学を専攻していた筆者。考古学といえば、文字がない縄文~弥生時代のイメージが強いですが、近年は中世以降の研究テーマも扱われるようになりました。

筆者には「誰も研究していないテーマを選びたい」という思いがあり、大学図書館で「キリシタン考古学(※1)」の書籍を見つけて興味を持ちました。そしてその後すぐ、運よくキリシタン考古学の研究会が行われることを知り、足を運んでみたのです。


キリシタンというテーマは考古学ではマイナーなこともあって、学生研究者が現れるのはウェルカムという雰囲気。なんとキリシタン考古学の聖地「九州に遊びにおいでよ!」と声をかけていただきました。

(※1)キリシタン考古学……考古学資料の分析を用いて、潜伏(隠れ)キリシタンの信仰や文化に迫る研究のこと。約250年の禁教期間、密かに信仰を続けていたのが「潜伏キリシタン」。 一方で、キリスト教解禁後もカトリックに戻らず独自の信仰を保った人々を「隠れキリシタン」という。

卒業研究の方向性をもたらした九州フィールドワーク


そこで早速、大学3年生の夏に九州のキリシタン遺跡でフィールドワークを行うことに。このフットワークの軽さは学生の特権ですね!

交流を持たせていただいた研究者の先生方のアテンドのもと、大分県のキリシタン墓地とキリシタン資料館、長崎県のキリシタン遺跡とキリシタン墓地群を巡りました。

純粋なレジャーの意味合いではなく、学問的なアプローチを志向しながら旅をするのは新鮮で、文字情報が限られている考古学資料だからこそ、当時の歴史やそのバックグラウンドまで想像を膨らませることができます。


1泊2日のフィールドワークを経て垣間見た隠れキリシタンの姿は、「高校の教科書で習う歴史とは少し違うのではないか?」という印象を持ちました。具体的には、弾圧を受けたかわいそうなキリシタンではなく、どこか力強く慎ましいキリシタンの姿を感じた気がしたのです。

現地に行かなければ得られない学びや発見があり、一歩踏み出すことで見える景色がガラリと変わってくるのは、旅と考古学の共通点と言えるかもしれませんね。この着想が卒業研究(卒論)の方向性の鍵となってくれました。

長崎外海に滞在して考古学に向き合った卒論旅


そこから約半年後、「卒業論文では長崎県を舞台にしたい」とお世話になった先生に相談したところ、長崎の郷土史家の先生と繋いでいただくことに。

長崎県外海(そとめ)地区にある郷土史家の先生のお宅に居候しながら、2週間ほど研究調査に励みました。今振り返れば学生だったからこそ、こうしたツテを頼ることができたのだと思います。


長崎県外海地区は、キリスト教の軌跡が色濃く見られ、潜伏(隠れ)キリシタンの聖地と言える場所。江戸時代の伝承から、明治時代の教会建築、現在の共同体の在り方に至るまで、脈々とキリシタン文化の伝統と歴史が息づいています。

現地の資料に向き合っている時間はもちろんですが、九州新門司(しんもじ)港から長崎県まで調査道具を背負って原付で移動したことや、郷土史家の先生夫妻にまるで孫のように可愛がっていただいたことなど、学生らしい行き当たりばったりな旅の中で、数々の忘れられない思い出ができました。


特に最終日にお手伝いした、隠れキリシタン・カトリック・仏教徒の3者が神社に集う「枯松(かれまつ)神社祭」は、信仰を乗り越えて結びつく外海地区の独自性を物語る印象的な行事でした。

研究成果を導き出すことが目的の旅行でしたが、意図せず現地での暮らしや文化を肌身で感じられたことも、現在の自分の価値観に大きな影響を与えています。

こんなに自由で、好奇心をくすぐられる旅ができる機会は、このタイミングをおいて他になかったかもしれません。そういう意味で、卒業研究(卒論)は学生時代を締めくくる旅のチャンスとも捉えられると思います。

考古学から導き出したキリシタンの力強い姿


現地で過ごした時間の多くは外海地区にある数カ所のキリシタン墓地を巡り、墓地の写真撮影をしたり、墓石の測量や図面作成をしたりすることに費やしました。昭和より前につくられた暮石のほとんどには故人の名前が刻まれていません。墓石の数は多いものの、墓地の実態は謎のままです。

各墓地での状況を整理しつつ、時には当時の文献資料や、キリスト教伝来前の外海地区の伝統文化にも着目し、郷土史家の先生の手解きも受けながら、大きく以下の2点の結論を導き出しました。

①キリシタンのお墓は、キリスト教伝来前から外海地区に根付く、伝統的な積み石技法の影響を受けて築かれており、在地文化とキリシタン文化の融合が見て取れる。
=西洋のキリシタン文化のローカライゼーション(在地化、日本化)

②キリスト教弾圧期には、自らを仏教徒だとカモフラージュするために仏教式のお墓を築いていたが、禁教廃止直後になるとすぐキリスト教式のお墓が現れる。
=弾圧が厳しいときには信仰を守り、禁教が廃されると同時に隠れキリシタンであることを墓石で意思表示した。


キリシタンの考古学資料を分析して明らかになったのは、一方的に弾圧されて悲哀に満ちたキリシタンの姿ではなく、厳しい時代でも信仰を守り、情勢の変化に合わせて「自分たちはここにいるぞ!」とアピールする逞しい潜伏キリシタンの姿だったのです。

現地での歴史や文化、潜伏キリシタンの足跡にふれ、まるで自分も現地に暮らす一人のような心持ちでこの史実を導き出したとき、弾圧に負けずに頑張ってきた彼らの姿に感動を覚えました。

学生時代の旅経験から生まれたもうひとつの故郷


最初は研究の方向性が見えずに、少しもどかしかったのですが、1週間ほどすると一定の成果を得ることができ、調査にも余裕が生まれます。そこでちゃっかりと長崎の観光を楽しむこともできました。

軍艦島クルーズやグラバー園などといった長崎の歴史文化を楽しみながら、中華街でちゃんぽんや皿うどんをすすり、夜には稲佐山の1,000万ドルの夜景に感動しました。


今でも長崎といえば、ちゃんぽんから立ち込める湯気と豚骨の匂い、360度ダイナミックに広がる夜景が脳裏をよぎります。

現代ならではの粋と古き良き時代の文化が融合した長崎という街が大好きになったのも、この卒業研究(卒論)があったからです。心の故郷と言える場所が増えるのも、学生時代の旅の魅力ではないでしょうか。

学生時代の最後に自分をアップデートする旅を


今回は筆者の学生時代の経験から、考古学とミックスした旅を綴ってみました。

もしかすると卒業研究(卒論)は、就職前の最後のやっつけ仕事と思っている方もいらっしゃるかもしれません。でも筆者としては、学生時代の最後に自分をアップデートする旅ができるチャンスなのでは?とも思っています。

もしかしたら皆さんの大学での専攻内容は、旅と遠いものかもしれません。しかし、探せばきっと交差する点を見出せるはず。もしかしたら卒業研究(卒論)旅を通じて、将来まで続く自分のアイデンティティを見つけたり、心の故郷に出会えたりするかもしれませんよ。

All photos by Yuhei Tonosho

ライター
土庄 雄平 山岳自転車旅ライター|フォトグラファー

1993年生まれ、愛知県豊田市出身、同志社大学文学部卒。第二新卒を経験後、メーカー営業職とトラベルライターを両立。現在は、IT企業に勤めながら、自然や暮らしに一歩踏み込む、情報発信に精を出す。 山岳雑誌『山と渓谷』へ寄稿、「夏のYAMAPフォトコンテスト2020」入賞、「創業110周年記念 愛知銀行フォトコンテスト」最優秀賞など。山での活動をライフワークとし、学生来、日本全国への自転車旅を継続している。

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