フランスで捨てないパン屋と出会い衝撃を受ける
▲ブーランジェリー・ドリアン八丁堀店
――ここからはパン屋さんの話に移っていこうと思うんですが、捨てないパン屋さんを目指したきっかけはありますか?
昔からパンはなるべくシンプルな方がいいなと思っていました。フランスに行った時にうちの3倍くらいパンを焼いているのに一個も捨てていないパン屋さんに出会いました。もちろんそれまでは廃棄の数がゼロはありえないって思っていましたけど、そこに行った時は捨てていないことに驚きました。
その時の衝撃がきっかけで、日本に帰国後菓子パンを辞めたらだいぶ捨てる量が減りました。
▲棚にパンを並べる田村さん
大きいパンの種類を少なくし、菓子パンのような中に何か入っているパンを無くすと、日持ちもするし、マニアックな人しか買わないので大体の売れる量が分かるようになっていきます。そうすることによって、段々売れ残りにくくなるんですよね。
そういえば最近捨ててないねってなって、それが半年経って、ずっと捨ててないわ、ってなったのをたまたまブログに書いたのが取り上げてもらえました。
――パンを捨てないためにしている工夫はありますか?
▲人件費のコスト削減のため、堀越セルフサービス店では無人販売を実施
まずは具材を入れずに長持ちするパンを作ること。冷凍保存で2週間くらい持つようなパンにして、売れ残ったら次の日には20〜30%offにして安く販売します。そうすることでパンが売れ残りにくくなります。
他には常連さんを大切にすること。今の観点で言うと常連さんは本当に命なんですよ。常連さんになったら言われなくてもパンを取っておくとか、テレビ取材を受ける段階でも常連さんが喜ぶ取材しか受けないです。
常連さんも欲しいけど、新規の顧客も欲しいとか浮気心を持つとダメですよ。異なる種類のお客さんって一つのお店に同居しないんですよね。どっちかが静かに引くんです。
あと、1番大きいのはネットの定期購入ですね。定期にすると波がないんですよ。これまでは週に1回郵送だったのを、週2回にして、八丁堀の営業日を週3日に減らしました。
ネットの定期購入で売り上げの底辺を確保できているので、ちょっと控えめに売り切れる数でやっていけるんです。それがなかったら他の曜日にギャンブル的にやらなきゃいけないから、そうすると売れ残ってしまいます。
夏にはバカンスを取って旅に出掛ける生活
▲週3日だけオープンする、ブーランジェリー・ドリアン八丁堀店
――今の営業形態を教えてもらえますか?
営業日は木・金・土曜日の3日で、よく働かないパン屋とも言われているんですけど、月曜〜土曜はちゃんと仕事をしています。火、水はパンを焼いて発送したら終わりなので、昼前後には帰ります。基本的に勤務時間は4時〜11時くらいまでです。
製造する人は11時くらいに上がって、販売スタッフが12時〜18時くらいまで売って終わりなので、合計すると7〜8時間は働いています。
その代わり夏は40日くらい休みを取ります。祝祭日は休んでいないので、それを一年にまとめるよっていうことですね。それでリフレッシュしたり、海外に行ってパン作りを学んでいます。
――これからパン作りを学んでみたい国や地域はありますか?
▲ブーランジェリー・ドリアンおすすめのカンパーニュ(大)
ガリシア(スペイン)は一回パン屋さんに入ってみたいですね。アルタムーラ(イタリア)も一回行ってみたいかな。やっぱりスペイン、イタリア、ポルトガルは食文化が似てるので興味があります。
中央アジアとかイランとかあの辺りもすごく気になります。あの辺はパンが平べったいんですよ。日本で夏ってパンは売れないんですけど、ピタパンは売れるんですよ。夏場でもピザは食べるし、たぶん日本人は平べったいパンが好きなんだと思います。
全国に仲間を増やしてうちと同じような働き方を広めていきたい
▲パンを製造している堀越セルフサービス店の様子
――活動を通して日本をこうしていきたいと思っていることやこれを知って欲しいということはありますか?
とにかく日本は先進国ではないよって一回知った方が良いですよね。真似できることは真似して、見習うべきところは見習う。日本のものは全部ガラケーなんですよ。
電化製品から携帯からパソコンもだし、新幹線のシステムも。日本でしか通用しないものを一生懸命作ってますます内になっていくから、海外に出て日本の方が美味しいよねとか、みんな日本の良いところばかりを見ようとします。でもそれはもったいないですよね。
元々いいものを持っている日本だからこそ、他の国を真似したらもっと良い国になるのになって思います。
――今後の夢はありますか?
▲ブーランジェリー・ドリアンの店主・田村陽至さんと妻の芙美さん
うちでは3ヶ月をMAXの期間として研修生さんの受け入れを行っているんですけど、無料・無休でパン屋の上に住み込みでやってもらっています。時間が合えば一緒に飲むし、仲良くなろうとコミュニケーションも多く取っているし、目指す方向が一緒だったらレシピも教えてあげます。
そうすると仲間みたいになった人たちが色んな所でパン屋さんを始めるんですよ。
今度はそういう人のところに誰かが見学に行って、だんだんパン作りとか働き方が当たり前になってもっと広がっていく。うち一人でやっていても広がっていかないので、そういう忍びたちを各地に配置して、変えていけたらいいなという野望は持っています。
ヨーロッパの働き方を学ぶことでより豊かになる
▲スペイン巡礼中の田村さん
田村さんの取り入れているヨーロッパの働き方を聞いて最初は驚きました。どれだけこだわって作るかを美徳とする日本人ならではの考え方は自己満足でしかなく、材料にもっとこだわって美味しいものを作った方がお客さんも喜ぶ。
長時間働いて疲弊しながら良いものを作ろうとするより、材料に良いものを使えばそれだけで美味しいものが作れる。現状に満足せずに海外に行って、固定観念にとらわれずパン作りを学び続ける。そういった田村さんの想いを聞いて食べたパンは噛めば噛むほど美味しく、奥深い味わいでした。
田村さんの想いに共感して日本中から見学者が集まり、現在では研修生の受け入れも行っています。とても物腰が柔らかく、飾らない笑顔で取材にも応じてくれました。田村さんの人柄もパンをより美味しくしてくれるスパイスの一つなのではないかと私は思います。
田村さんのお店はこちら
・名称:ブーランジェリ・ドリアン 八丁堀店
・住所:広島県広島市中区八丁堀12-9 広島SYビル1階奥
・マップ:
・アクセス:広電本線 八丁堀電停から徒歩2分
・営業時間:木曜日〜土曜日 12:00~18:00
・定休日:日曜日・月曜日・火曜日・水曜日
・電話番号:082-224-6191
・公式サイトURL:http://derien.jp/
text:RORO
写真提供:田村陽至さん