「この島は、生きている」。到着してすぐに、波の音色と鳥の羽音、漁港のざわめきや、島民の暮らしの声が聞こえてきて、その向こうに緑の森と岩肌のグラデーションが見えた時、私はつい呟いてしまいました。
2泊3日の旅の行き先を、神津島に決めた過去の自分に、大正解そうだよと教えてあげたくなる。
五感がひらく旅が、今始まります。
1日目:島のリズムに身を浸し、歴史と海と星空に出会う
旅の始まりの場所、神津島観光協会
神津島への主な玄関口は3つ。メインの「神津島港(前浜港)」、もう一つの「多幸湾三浦漁港」、そして空からアクセスできる「神津島空港」です。今回は「神津島港」にやってきました。
到着したら、まず立ち寄りたいのが旅の情報が集まる「神津島観光協会」。ホテルのチェックインや島内の移動相談、天候やツアーの開催予想など、旅に役立つ情報を手に入れてから行動開始する作戦です。
「神津島オートサービス」で借りたレンタサイクル
神津島は、人口約1,700人が暮らす街。そのため観光地はもちろんのこと、暮らしに必要なスーパーや病院など街の機能もぎゅっと近くにまとまっているのが嬉しいポイント。
そんな島の中心地を、まずは自転車を借りてのんびりと回ることにしました。
ちょっと自転車を漕ぐだけで、この海の美しさ。思わずため息が出そうになります。波の白さが眩しい。
ちなみに島民の方のガイド付きで集落を巡る「のんびり島さんぽ」も人気とのこと。島の暮らしに触れられる素敵な時間が過ごせそうです。
・名称:神津島観光協会
・住所:東京都神津島村37-2 まっちゃーれセンター内
・地図:
・営業時間:8:30〜17:30
・定休日:なし
・電話番号:04992-8-0321
・公式サイトURL:https://kozushima.com/kyokai/
島の恵みを存分にいただく「よっちゃーれセンター食堂」
ちょっと海を眺めて島気分を堪能したら、フェリーターミナルすぐ横に佇む、昔ながらの食堂の面影が残る「よっちゃーれセンター食堂」へ向かいます。
ちょうどお昼時だったので、地元の人や旅行客で大賑わい。名物の「金目煮付け定食」を注文して、早速神津島の海の幸を味わいました。
神津島産の金目鯛を丸ごと一尾使った定食は、食べ応え抜群
甘めに味付けされた醤油の香りが、鼻口をそっとくすぐります。身がしっかりしていて、けれど口溶けは柔らかく、神津島産の魚にファンが多いのも納得の美味しさです。
神津島の周りは黒潮が通るため、ほかの伊豆諸島に比べても潮流が速く、魚種が豊富なのだそう。
海を眺めながら、地元で採れた魚を新鮮なうちにいただくうちに、胃も心も満たされていくのが分かりますきます。あぁなんだか、到着したばかりなのに、すでに神津島に来て良かったなという気持ちでいっぱいに。
・名称:よっちゃーれセンター食堂
・住所:東京都神津島村37−2 よっちゃーれセンター2階
・地図:
・営業時間:11:00〜13:30
・定休日:月・火・金
・電話番号:04992-8-1342
・公式サイトURL:https://kozushima.com/shop/taberu/356/
旅の楽しみを増幅する「神津島村郷土資料館」
神津島の全体図
旅の楽しみは、ただ観光客として通り過ぎるだけでなく、島の歴史や成り立ちを知ることで、より深まっていきます。学ばねば分からない神津島の魅力を、本格的な島巡りの前にインプットするために「神津島村郷土資料館」にやってきました。
神津島は、海底火山活動によって生まれた火山島。大陸とは一度も地続きになったことがないため、島固有の生態系や自然環境が観察できるそう。
じつは、資源の代表例に、マグマが急冷されて出来たガラス質の黒曜石があると聞いて、実物を見るのを楽しみにしていました。そう、これこれ!
実際の黒曜石
なんと、神津島の黒曜石は、縄文時代にヤジリや刃物の材料として、島外でも有名だったそう。遠く本州でも出土しており、あの時代にどうやって海を超えて黒曜石は旅をしていたのだろうと考えるだけで、ロマンへのときめきが止まりません。
スタッフの方に教えてもらった、黒曜石採取地にも後ほど訪れました。
黒い帯の部分が黒曜石なのだそう
そのほかにも神津島の島の暮らしや、近海で獲れる美しい貝、花々についてなど、展示やスタッフの方の解説、資料アーカイブなどからたくさんの知識を得て、旅は次の目的地へ。
・名称:神津島村郷土資料館
・住所:東京都神津島村118
・地図:
・営業時間:9:00〜16:00
・定休日:月曜日(祝日の場合は翌日)※7月・8月・年末年始は無休
・電話番号:04992-8-0947
・料金:大人300円、15才未満100円
・公式サイトURL:https://kozushima.com/kanko/meisho/other/249/
岩場に浮かぶ遊び場「赤崎遊歩道」
島の北西に位置する、島遊びの魅力が詰まった「赤崎遊歩道」は、絶対に訪れたかった場所の一つ。岩場に組まれた木製の遊歩道は、歩くのも飛び込むのも楽しい人気スポットです。
じっと海面を見つめていると、橋の上からでも魚が気持ちよさそうに泳ぐ姿が確認できて、ここが東京都内だなんて、やっぱり信じられない!という気持ちに。
波の音に、水飛沫。遊びに来る鳥の気配に、「ここ楽しいんだよ!」と教えてくれる地元の子どもたちとの会話——。今朝まで都心で満員電車に揺られていたなんて、まるで冗談みたいに思えてきます。
足を海に浸すと、強い日差しから想像するよりも、ずっとヒンヤリとした温度でびっくり。爽快な開放感に包まれて、笑顔が溢れる自分に気づきます。
こんな柔らかな風に吹かれたのは、いつぶりでしょう。天気がよく、遠くにほかの島々が見えている。急かされる予定なんて、何一つありません。自由に身を任せる気持ちでしばらく遠くを眺めていました。
全室オーシャンビュー!ホテル神津館
気が済むまで島風に吹かれたあとは、神津島の集落の高台にある、ホテル神津館で一休み。
いらっしゃいませ、と笑顔で迎えてくれる村の方の笑顔があまりに眩しくて、優しい。さっきまで見てきた島の景色を思い出します。美しい景色は、人の心まで透き通らせるのでしょうか。
部屋は全室オーシャンビュー。お茶を飲んでほっと一息。空の色が変わり始める頃、旅人たちが「感動するよ」と口をそろえておすすめしてくれた夕食がずらりと並びます。
今朝獲れたばかりのお刺身や、手作りのお豆腐、アオサ入りの茶碗蒸しや神津島産の魚のお鍋など、目にも美味しい島の恵みを出来立てでいただく幸せといったら!
大浴場付きのホテルなので、食事のあとはゆっくり大きな湯船に浸かって夕食のおいしさを反芻します。その後は、部屋に戻って夕陽を眺めました。今日の夜空は、雲一つなさそうです。
・名称:ホテル神津館
・住所:東京都神津島村1593
・地図:
・チェックイン:13:00~18:00
・チェックアウト:~10:00
・定休日:不定休
・電話番号:04992-8-1321
・公式サイトURL:https://kozukan.jp/
島民ガイドと巡る満天の「星空ツアー」
神津島といえば、東京都初の星空保護区で有名な星の島。
「星空を美しく保つため、街灯を減らしたり、夜空に優しい光害対策用の街灯に変更したりと工夫しながら、この美しい夜空を守っている」と参加した星空ツアーの島民ガイドの方が教えてくれました。
言葉が要らないほどの、視界に入りきらない星空が頭上に広がります。この時は、春と夏の星座が半分半分で見えていました。
北斗七星や一等星、星座の伝説、天の川の出現や火星が見えていること。新しい知識を教えてもらうたび、夜空の見え方が見違えるほど変わってゆきます。
神津島は、2020年より「星空保護区®️」として国際認定されています
夜風が頬を撫でるなか、ごろりと寝転がって、自然と目を閉じて神津島の夜を堪能する時間。同じ東京都内のはずなのに、ここは違う惑星のようです。
季節が移ろいゆく中で、私たちは生きています。それを忘れずに、この夜みたいに味わって生き続けていきたい、と自然と口から言葉がこぼれていました。神津島は、そういう「本来の幸せ」を、ちゃんと思い出させてくれる場所なのかもしれません。
・名称:星空観賞会
・住所:東京都神津島村 よたね広場
・地図:
・開催時間:20:15〜
・定休日:公式サイトよりご確認ください
・料金:3,300円(未就学児は大人1名に付き2名までは無料)
・電話番号:04992-8-0321
・公式サイトURL:https://kozushima.com/star/contact/
2日目:登山に温泉、水の恵みを堪能する
自然の中で深呼吸。「天上山」トレッキング
朝は早起きして、張り切って登山へ。
と言っても私が選んだコースは「白島登山道」なので、6合目までは車で向かい、そこから往復3時間ほどのトレッキング。山頂まで階段が整備されているため、初心者や家族連れにもおすすめできそうです。
本格的な登山を体験したい人は、「黒島登山口」から「白鳥登山口」に抜けるコースを
天上山は、神津島のシンボルであると同時に、この島が「水に恵まれた地」である理由と魅力が詰まった場所でもあります。
火山岩でできた山頂は、天然のダムのように雨水をろ過し、その豊富な地下水が島内のあちこちから湧き出しています。じつは島の水道水もこの地下水から引かれており、伊豆諸島の中でも珍しい存在です。
海と集落を見下ろしながら、森から草原、そして白い火山礫の原へとグラデーションのように変わっていく山の表情を味わいながら進んでいきます。山頂に辿り着いて、記念写真をパシャリ。
目をつぶると、風の音が島の向こうに消えてゆくーー。
人間の寿命を遥かに超えて育ってきた植物は、神津島の暮らしと歴史、文化を形作る大切な構成員。天上山のスダジイをはじめ、最近人気の「樹木散策」ツアーがあるのも納得できるほど、美しい道のりでした。
・名称:天上山
・住所:東京都神津島村 天上山
・地図:
海を眺める温泉で体を癒す「神津島温泉保養センター」
海と温泉が自然に溶け合う景色
下山後はまっすぐ「神津島温泉保養センター」へ。内湯はもちろん、海沿いに水着で入れる露天風呂が3種類もあるのが神津島の大きな魅力の一つです。
お風呂と海、空の境目をゆっくりと眺めながら、雲が流れていく様子に身を任せます。疲れた体を癒しながら、この絶景が楽しめるなんて、なんて贅沢……。今日はトレッキング終わりなので昼間の時間帯に訪れましたが、夕暮れの時間帯もきっととても素敵なことでしょう。
内湯も楽しみ、お風呂上がりは神津島サイダーで喉を潤したら……次はお腹が空いてきました!
・名称:神津島温泉保養センター
・住所:東京都神津島村字錆崎1-1
・地図:
・営業時間:11:00 ~ 20:00(最終受付19:00)
・定休日:水曜日
・電話番号:04992-8-1376
・公式サイトURL:https://kozushima.com/kanko/meisho/other/230/
島食材に惚れ込んだシェフのフレンチ「さわや コルドンブルー」
ということで、元旅館で営まれる、フレンチレストランのランチへ向かいました。その名も「さわや コルドンブルー」。京都で人気店を経営していたシェフと、彼にずっと寄り添ってきた奥様が切り盛りする実力店です。
ランチ、ディナーともにコースのみ。前菜とスープ、パンに続くメインはシェフ自らが釣った魚を中心に、複数種類の魚が別の調理方法で味わえる夢の一皿です。
この日は、オキナヒメジとハガツオ、イシガキダイの3種をトマトや柑橘などを使って作られたソースでいただきました。添えられている明日葉の、島ならではの味わいも印象的。
食後のコーヒーをいただきながら、ご夫婦と話す時間も至福のひとときでした。じつはシェフは、神津島の食材のおいしさに惚れ込んで移住を決意されたそうです。それを聞き、改めて神津島の魅力に想いを馳せる。これは、何度でも訪れたい名店です……!
・名称:さわや コルドンブルー
・住所:東京都神津島村676番地
・地図:
・営業時間:ランチ12:00~14:00 / ディナー18:30~22:00 (LO:20:00)
・定休日:火曜日(不定休あり)
・電話番号:090-3992-5241
・公式サイトURL:https://kozushima.com/shop/taberu/350/
食後の散歩に「物忌奈命神社」へ
食後は海を眺めながら階段を上り、神社を散策しました。東京都に2社しかない式内名神大社のうちのひとつが、ここ神津島にある「物忌奈命神社」です。島の無形民俗文化財に指定されている「神事のかつお釣り行事」も、毎年この神社を舞台に神事として執り行われます。
木漏れ日の美しさに、どこかいつもと違う神聖さすら感じてしまいます。
じつは伝説では、伊豆諸島の神々の水分け会議が神津島で行われたと言われています。「神が集う島=神津島」が名の由来という説もあるそうです。
そのほかにも様々な伝説が息づく神津島。物忌奈命神社には、「それもそうだよな」と信じる気持ちになる澄んだ空気が満ちていました。
・名称:物忌奈命神社
・住所:東京都神津島村41
・地図:
・営業時間:通年
・公式サイトURL:https://kozushima.com/kanko/meisho/jinja/209/
伊豆諸島初のブルワリー「Hyuga brewery」
神津館で夕食をいただいた後、ブルワリーに立ち寄りました。伊豆諸島初のクラフトビールがここ神津島で生まれた背景は、やはり天上山由来のおいしい水があるから。
飲み比べセットをオーダー。伊豆諸島生まれの明日葉の風味漂う「Angie」が大好きだな、とお気に入りを見つけて味わいます。汗をかいた体にビールの冷たさが心地よく広がって、なんだか今日もよく眠れそうです。
帰り道、集落を歩いている時に、島の人が夜空を見上げている姿も印象的でした。街並みと暮らしに溶け込む満天の星。こんな島で生まれ育っていたら、私はどんな人生を歩んでいただろう?と夢想しながら眠りにつきました。
・名称:Hyuga brewery
・住所:東京都神津島村142-2
・地図:
・営業時間:17:00〜22:00
・定休日:火曜日
・電話番号:04992-7-5335
・公式SNS:https://www.instagram.com/hyuga_brewery/
3日目:旅の思い出を胸に抱いて
あっという間に最終日の3日目。神津館の部屋から起き抜けの海を眺めながら、そうだ、旅の終わりにお土産を探そう!と思い立ち、出かける準備をし始めます。
お土産探しのお買い物「黒潮商会」
島の空気や思い出を忘れない私でいたくて、お土産にどれを持ち帰ろうかと思案する時間も旅の醍醐味です。フェリー乗り場近くの「黒潮商会」でショッピングを楽しむことに。
「KOZU」の文字がかわいい島のオリジナルグッズや、地のりや魚介類の加工品、島といえばのカラフルな「魚サン」などがずらりと並びます。
気がつけばもうすぐ帰りのフェリーがやってきます。そろそろ旅も締めくくりの時間。
・名称:黒潮商会
・住所:東京都神津島村57番地
・地図:
・営業時間:AM8:30~PM6:00(7~9月はAM8:00~PM10:00)
・定休日:不定休
・電話番号:04992-8-1001
・公式サイトURL:https://kozushima.com/shop/kau/miyage/889/
帰り道:旅の終わりに
島を歩けば、村の人がいつも笑顔で助けてくれました。会話が生まれていなければ、たどり着けない場所もたくさん。帰り道のフェリーの中で、3日間とは思えない濃い時間たちを振り返ります。
まだまだ島にいたかったけれど、不思議と寂しいという気持ちはありませんでした。だって、ここは東京。また来たいと思ったら、いつだって片道45分の飛行機や、片道3時間半の高速ジェット船に飛び乗って再訪できる場所なのです。
目を閉じれば、今もすぐに思い出せます。天上山のツツジの香り、御神木のイチョウの木漏れ日、海の気持ちいい冷たさ、夕暮れのマジックアワー、願いを込めた流れ星。
神津島の日常に、私の非日常が溶け合って、その交差点で私の感性が呼び覚まされた気がしました。
一人でも、家族でも、友達とでも。何度でも訪れたい。訪れるたびに、好きになる。大切な場所がまた一つ。
文化と自然と歴史、島風に吹かれて「私」の輪郭が浮かび上がります。五感を澄ませて過ごした2泊3日の旅の終わり。窓の外には少しずつ遠ざかる島々。まぶたの裏に浮かぶ、あの美しい神津島の景色。その奥で、私の五感はまだ静かに揺れ続けています。
All photos by Tomomi Isa