「ウジュピス共和国」という国をご存知ですか?
おそらく、名前すら聞いたことない人も多いのではないでしょうか。
1997年に独立した比較的新しい国であり、その名をあまり知られていない「ウジュピス共和国」とは、一体どんな国なのでしょうか。
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ウジュピス共和国はどこにある?
ウジュピス共和国はリトアニア共和国の首都であるヴィリニュスの、旧市街に存在している非公認国家。
つまりは、国際的には「100%リトアニア共和国」なのです。
リトアニア語で「川の向こう側」という意味のウジュピス(Užupis)は、名前の通り旧市街からヴィルネ川を越えた場所にあります。
面積は60ヘクタールほどで、東京ディズニーランドより少し広いくらい。人口は約7,000人で、そのち約1,000人は芸術家なのだとか。
ウジュピス共和国の歴史と建国の経緯
ウジュピス共和国のある地域は、16世紀にヴィルネ川に2つの橋が架けられるまで、川によって旧市街から切り離された場所でした。
何百年もの間、ロシア人とユダヤ人の住人が住んでいたそうですが、戦争中に住民のほとんどが姿を消し、売春婦や盗賊が住む空き家が残ったのだとか。
19世紀後半になると、この地域の住民は増えて3,000人近くになりましたが、そのほとんどは都市の製造業の労働者で、社会階級は低かったそう。
ウジュピス共和国には教会もあります
とくにソビエト時代でもあった1940年から1990年の間、ウジュピスは主に地元の工場労働者が住んでいたため、都市構造と建築の美的価値は高くなく、この地域の魅力といえば、高い丘がある自然景観の特徴 、建物の密度の低さ、緑が多いことくらいでした。
一方で、一部の人にはそういった要素が「ロマンチック」だと捉えられ、加えて不動産価格が安いということで、俳優、画家、建築家、学生などと言った新世代が、1994年から1997年にかけてウジュピスにアパートを借り始めたのです。
ダイナミックでクリエイティブに飢えた彼らが、この地域を魅力的なものに変えていったのですね。
「ウジュピス共和国」としての始まりは1997年4月1日。地元の芸術家グループがウジュピス共和国の建国を宣言しました。
そう、この国の建国記念日はエイプリルフールの日。
どの国からも承認されていないこの国が、大真面目に建国されたのか、ジョークで建国されたのかは分かりませんが、4月1日に建国を宣言したことは偶然ではなく、ユーモアを強調しているように思えてなりません。
ちゃんと国家らしい一面もあるウジュピス共和国
至る所に描かれているウジュピス共和国旗のマーク
おふざけだけでの建国かと思いきや、独自の大統領、政府、憲法、旗、国歌、非公式の通貨があり、真面目な建国だったのかと思わせる一面も。
最近までは10人ほどの軍隊もあったそうですが、ウジュピス共和国の平和を愛する姿勢から、軍隊は廃止されたそう。
ちなみに、ウジュピス共和国政府の全メンバーはボランティアなのだとか。
思わずクスッとしてしまうウジュピシュ共和国憲法
ウジュピス共和国にユーモアを感じる最たる理由は、この国の憲法にあります。
憲法まで制定して、けっこう真面目に建国したのかと思うところですが、問題はその中身。ウジュピス共和国憲法を見てみましょう。
そしてヴィルネーレ川には皆のそばを流れる権利がある。
2.誰にもお湯と冬には暖房と瓦の屋根を有する権利がある。
3.誰にも死を選ぶ権利があるが、決して義務ではない。
4.誰にも間違いを犯す権利がある。
5.誰にも自分らしくいる権利がある。
6.誰にも人を愛する権利がある。
7.誰にも愛されない権利があるが、これは必須ではない。
8.誰にも平凡に生き、知られない権利がある。
9.誰にも怠けて何もしなくていい権利がある。
10.誰にも猫を愛し、世話をする権利がある。
11.誰にも、犬か人間かのどちらかが死ぬまで、犬の世話をする権利がある。
12.犬には犬である権利がある。
13.猫には飼い主を愛する義務はないが、
必要とされたら飼い主を助けなければいけない。
14.誰にも時には義務に無自覚でいい権利がある。
15.誰にも何かを疑う権利があるが、これも義務ではない。
16.誰にも幸せになる権利がある。
17.誰にも幸せにならない権利がある。
18.誰にも口にしない権利がある。
19.誰にも信念を持つ権利がある。
20.誰にも暴力をふるう権利はない。
21.誰にも人間の小ささと大きさを分かる権利がある。
22.誰にも永遠を侵害する権利はない。
23.誰にも分かる権利がある。
24.誰にも何も理解しない権利がある。
25.誰にもどの民族でいる権利がある。
26.誰にも誕生日を祝う権利または、祝わない権利がある。
27.誰にも自分の名前を覚える義務がある。
28.誰でも持っているものを分け合うことができる。
29.持っていないものは分け合わなくていい。
30.誰にも親兄弟を持つ権利がある。
31.誰にも自由でいる権利がある。
32.誰にも自身の自由に責任を持つべきである。
33.誰にも泣く権利がある。
34.誰にも誤解される権利がある。
35.誰にも他人に罪を着せる権利はない。
36.誰にも個人として生きる権利がある。
37.誰にも権利を持たない権利がある。
38.誰にも恐れないでいる権利がある。
39.勝つな。
40.やり返すな。
41.でも降参するな。
全41条、気になる条文は多いですが、そのなかでも気になるのが
「13. 猫には飼い主を愛する義務はないが、必要とされたら飼い主を助けなければいけない」
人間を対象にしていない憲法がある時点で、ユーモアしか感じられません。犬には犬である権利があるとは、一体どういうことなのでしょうか……。
個人的には
「17. 誰もが不幸になる権利があります。」
という部分が印象に残りました。
これこそウジュピス共和国の本質を表しているように思います。
幸せであることが正義、不幸になるのは悪いこと、という一般的な世論すら否定するかのような、幸せすら押し付けない考え方こそがウジュピス共和国なのでしょう。
ちなみに、ウジュピス共和国憲法のミュンヘン版(ドイツ版)には、「いかなる人工知能も、人類の善意を信じる権利を有する。」という人工知能に関する追加条項が含まれています。これにより、ウジュピス憲法は人工知能に言及した世界初の憲法となったのです。
ウジュピシュ共和国の観光地
小さな非公認国家ですが、もちろん観光名所もあります。そのうちの一部をご紹介します。
ウジュピス橋
ウジュピス共和国の入り口とも言える橋が、共和国の西にある「ウジュピス橋」です。
この橋からは、見つけると幸せになると言われている人魚の像がありますので、訪れる際はぜひ探してみてください。
・名称:ウジュピス橋(Užupio tiltas)
・住所:Užupio g., Vilnius, 01125 Vilniaus m. sav.
・地図: