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1996年東京生まれ。ステキな人やモノを広めるライター。2019年にフリーライターとして独立し、インタビュー記事、地方取材記事、イベントレポート、プレスリリースなどの執筆を手がける。短期間でサクッと行く旅と音楽が好き。普段は多国籍なシェアハウスで暮らしています。

こんにちは、TABIPPO編集部の伊藤美咲です。

この記事は、2022年6月30日に行われたオンラインイベント「ゼロカーボンパーク・乗鞍高原から考える、自然保護とサステイナブルな観光」のレポート記事です。

このイベントでは、長野県松本市の乗鞍(のりくら)高原で「温泉の宿 ゲストハウス雷鳥」などを経営されているRaicho Inc 代表の藤江佑馬さんをゲストにお迎え。TABIPPO代表の清水と、乗鞍高原の魅力や脱酸素と旅行の関係性についてのトークセッションをしていただきました。

トークでは、環境面で注目を集めている地域の1つである乗鞍高原について詳しく知ることができ、ますます足を運んでみたくなること請け合いです。

また、これからの旅先でのアクションについて考えさせられる場面も。ぜひ最後までご一読ください。

TABIPPO代表しみなお

Raicho Inc 代表の藤江佑馬さん

(以下、トークイベントより抜粋)

広大な自然を誰もが楽しめる、乗鞍高原

乗鞍高原photo by shigeki naganuma

Raicho Inc 代表の藤江佑馬さん

藤江

乗鞍高原は、標高1500mの国立公園なのに、200世帯ほどの集落もある場所です。縄文時代から標高1500mの環境の中で、自然とともに暮らしている場所であるのが、乗鞍の大きな特徴かなと思います。

乗鞍の象徴でもある「乗鞍岳」は、標高3026mのうち2700mまで舗装道路が走っています。標高が高い場所へのアクセスが容易なので、広大な自然を誰もが楽しめる場所になっています。

清水

国立公園の中で生活をしている人がいるというのが面白いですよね。僕も何度も訪れている場所ですが、普段は東京にいる人間からすると、歩いているだけで絶景が広がっているなと圧倒されます。

乗鞍岳の登山は大変なイメージがありますが、じつは2700mまでバスで行けるため、素人でも気軽に楽しめるところも魅力です。

そういえば、藤江さんも元々は乗鞍の観光客だったんですか?

藤江

そうですね。学生時代に乗鞍の近くでリゾートバイトをしていたのですが、雄大な自然や景色に憧れ、いつか乗鞍を拠点にしたいと思うようになりました。

清水

今は夢の暮らしが実現しているわけですね。コロナ禍を経て、改めて実感する乗鞍の魅力ってありますか?

藤江

自然の近さですね。近いというより、自然の中で暮らしている感覚です。コロナで人との距離を保たなければならない風潮がありましたが、乗鞍はそもそも人が全然いないですし。

社会的な問題はあまり感じられないので、乗鞍はまさに今、みんなが求めているような場所なのではないかと思います。

清水

密を避けられるだけでなく、散歩して外の空気を吸うだけでリセットされるからワーケーションにも向いているし、何もない場所で自分のことを見つめ直したいときにもぴったりですよね。

乗鞍は今注目されている観光地の一つだと思いますが、若い人は昔からよく来る場所だったのでしょうか?

藤江

元々バブル時代の観光地として繁栄した場所なので、正直若い人の認知はあまりない場所でしたね。

清水

なるほど。今は僕らが乗鞍と取り組みをしているので、周りの若い旅好きな人たちから乗鞍というキーワードが頻繁に出てくるようになりましたね。だいぶ認知度が上がってきている実感があります。

温室効果ガスの削減を目指す、ゼロカーボンパークに認定

photo by shigeki naganuma

藤江

今、日本では2050年までにゼロカーボン(温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする)を実現し、2030年までに温室効果ガスを46%削減することを目指しています。

そのための取り組みが国立公園から始まっていて、乗鞍高原は環境省から日本第1号のゼロカーボンパークとして登録されました。

清水

乗鞍を最先端モデルとして成功させるべく、取り組まれていますよね。具体的な事例も聞かせてもらえますか?

藤江

まずは、観光客の滞在の長期化ですね。これまでの日本人の旅は、土日中心の短期的な旅でしたが、僕らはワーケーションなどで長期滞在することを推進しています。

乗鞍は乗鞍岳以外にも、滝や池などの美しい自然がたくさんあるので、トレイルでもっと遊んでもらえるようにしたり、e-bikeで高原内を楽しめるサイクルツーリズムを普及したりと、長期で楽しめる見せ方を意識しています。トレイルをプロモーションすることで車を使わず、CO2削減へも繋がっていきます。

清水

なるほど。ほかにも長期滞在した方がいい理由ってありますか?

藤江

GWやお盆の大渋滞を想像してもらうとわかりやすいのですが、みんなが短期滞在するよりも、長期滞在した方が年間の移動距離が少なくなるので、CO2の排出量が削減できるんですよね。

あとはホテル側も、1泊ずつ新しいリネンやアメニティを提供するよりも、長期滞在してもらうことでゴミの削減ができる可能性があります。

清水

長期滞在の方が地域への経済効果が上がる一方で、CO2の排出量は削減できるということですもんね。

どれだけ長く滞在してもらえるかというのは、大事なテーマになりそうです。

環境と経済と文化のバランスが大事

photo by shigeki naganuma

清水

もしかしたら、「脱炭素したいなら、観光客が来ない方がいいのではないか?」と考える人もいるかもしれないと思うのですが、それについてはどうお考えですか?

藤江

国立公園は、人と自然が共存している場所です。ここで重要なのが、人が介入しているという事実。

たとえば、トレイルのルートは、人が介入していい場合は整備されていない藪の中を歩くことになるので、自然を楽しみづらくなります。人が関わっていないと、本当の自然の魅力ってわかりづらいんですね。

清水

なるほど。

藤江

あとは経済が成り立たないと、国立公園の維持もできなくなってしまいます。そういった意味も含めて、旅行者は必要です。

清水

人の介入を前提としているのは、おもしろい発想ですよね。自然や環境を保護するというと、人が入らない方がいいと思われがちじゃないですか。

環境省がお金をかけているからこそ自然が守られるし、環境が守られていても文化が失われていけば意味がないので、環境と経済と文化のバランスが大事ですね。

藤江

そこはまさに、乗鞍でもめちゃくちゃ意識しているところで。オーバーツーリズムになりたくないという意識は強く持っています。

旅行中にできる自然保護のアクション

乗鞍高原photo by shigeki naganuma

清水

乗鞍へ訪れる方たちに、実行してほしいことってありますか?

藤江

乗鞍の水を飲んでください」とよく言っています。乗鞍の水はめちゃくちゃ美味しいんですよ。

僕の運営するゲストハウスやカフェでは、ボトルの貸し出しも無料で行っているので、ゴミを持ち込まない旅の実践にもつなげてほしいなと思います。

藤江

あとは、地産の物を食べてもらいたいですね。地域に還元できるし、地域の魅力を本当に理解できると思います。

清水

藤江さんがカフェやゲストハウスで提供している料理は、地産のものを意識して使っていますもんね。

藤江

そうですね。地産と言っても乗鞍産、松本産、国産など広げればいくらでもあるのですが、なるべく近い地域を選ぶようにできたらと思っています。

清水

僕もこの数年で地産への意識がグッと進んだ人間で。30代になってから、その土地の食材や旬のものを食べるのが一番良いとわかったんです。

食べるだけで地域に貢献できるのは素晴らしいなと思いますね。僕は乗鞍に行ったら毎回「乗鞍ホップ」を飲んでいます(笑)。

藤江

あと旅行者視点でいうと、旅先だと電気めっちゃ使いませんか?ふだん家では節電を意識していても、旅先ではいいだろうと思ってしまいがちですよね。

清水

たしかに。

藤江

乗鞍のような山で暮らす人たちは早寝早起きなので、同じように22時ごろには消灯して、朝5時に起きるような生活をしてみてはいかがでしょうか。

清水

マイボトルや地産地消など、小さなことを意識し続けることで、旅先はもちろん、日常での過ごし方も変わりそうですよね。

藤江

たとえばスーパーで国産のものと海外産のものが並んでいたときに、海外産の物は防カビ剤が使われていたり輸送にたくさんのCO2を排出していたりすることを考えて、ちょっと価格が高くても国産のものを選ぶようにする。

そうすると、日本の農家の方も持続可能に繋がっていくんですよね。毎回国産を選べないとしても、まずは想像できる力を持つことが大事かなと。

清水

人や地域に思いを馳せることで、選択の仕方が変わっていきますよね。これからの時代、旅行者側はレスポンシブルツーリズム(=責任のある旅)が当たり前に求められるようになります。

ゼロカーボンパークにゴミを捨てるような人には、乗鞍に来ないでほしいし、観光地が観光客を選べる時代になるのかなと思います。

乗鞍は、いつでも帰ってこられるもう一つの家のような場所

乗鞍高原photo by shigeki naganuma

清水

乗鞍の方々は、旅行者をどんなスタンスで受け入れていますか?

藤江

乗鞍の宿の人たちは、「もう一つのお家としていつでも帰ってきていいよ」というスタンスで迎えていると思います。実際にリピート率はめちゃくちゃ高いです。

都会で暮らしている方々がいつでも安心して帰ってきて、リフレッシュできたらまた都会で頑張ってもらうような場所になるといいなと思っています。

清水

まさにゲストハウス雷鳥は、スタッフのみなさんから「もう一つの家にしていいですよ」という想いがすごく伝わってくるんですよね。ぜひみなさんも行ってみてほしいです。

清水

これまでは、観光客に対して観光地の人がサービスを提供してお金をもらうだけの関係性だったのが、今は観光客と観光地がお金以外のものを通じてお互いに貢献する関係性もありますよね。

以前僕らがPOOLOのメンバーを連れて乗鞍に行ったときに、外来種を駆除したり白樺を運んだりしたこともありましたが、地域の方に喜んでもらえたし、僕らも愛着が湧いてまた行きたいと思えました。

藤江

外来種の駆除も、初めてだとなかなか作業に入りづらいと思うかもしれませんが、リピートしていると乗鞍の現状がよくわかるようになるので、もう一つの場所を大切にしたいという気持ちで関わってもらえると嬉しいですね。

清水

自分たちだけで完結させずに、取り組みをオープンにするのも大事ですね。

これからの未来で求められるニューノーマルトラベラーとは

清水

藤江さんが考える、これから未来で求められるニューノーマルトラベラーとは何だと思いますか?

藤江

今の時代って情報が溢れていて、「誰かがやっているからやりたい」と思う感覚がありますよね。そうではなく、自分が本当に好きなものを突き詰めてほしいなと思います。

カフェで写真映えするメニューがあったとしても、それを食べることが誰のためになるんだろうと想像力を働かせてほしいですね。

清水

僕は、人生の当事者ってその人でしかないと思っていて。だから藤江さんや乗鞍の人たちと接しているときに心地よいのは、乗鞍で暮らすことや人生を自分で選んでいるからなんだと改めて思いました。

参加者へのメッセージ

藤江

乗鞍高原は1回来たら恋に落ちてしまう場所だと思うので、ぜひ遊びに来てください。

乗鞍高原のFacebookInstagramで、外来種駆除の参加のお願いやトレイルイベントの案内などが載るので、ぜひチェックしてもらえたら嬉しいです。

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