編集部
西嶋 結 TABIPPO編集部 / ライター・編集者

出版社出身のライター・編集者。本の仕事をしています。2012年に半年間の旅行を経験し、今までに訪れた国は60か国ほど。有給休暇をフル活用して弾丸旅に繰り出すべく、筋トレに励んでいます。

特技を活かせば、「旅しながら働く」も夢じゃない

前田:20代の旅人は「海外旅行先で稼げるか」という発想で、仕事を選んでいる人が増えている実感があります。でもおふたりは、旅することありきで今のお仕事を選んだわけではないですよね。どんなお仕事でもやり方次第でカバーできるということでしょうか。

陵生:実は「旅することを仕事にする」って、難しいんじゃないかなと思ってます。それよりも、自分の特技を旅につなげた方が、可能性がある。大それた特技である必要はなくて、大学で専攻した分野で十分。

前田:最近、「旅を仕事にするにはどうすればいいですか?」と聞かれることが増えました。そんなとき、シンプルに伝えようと、ライターやエンジニアといった「職業」を紹介してきたんです。でも、もう少し別の考え方もありそうですね。

陵生:特技さえあれば、それを生かす方向で考えればいいと思いますよ。僕はカナダに留学していたとき、英語ができなかったけど、撮影の現場にはすっと溶け込むことができた。業界が同じなら、世界のどこにいても現場の仕事は同じですからね。

前田:僕は前職でWebマーケティングの業界にいたのですが、率直に言って時給の低い働き方をしていました。でも最近になって知ったのが、欧米ではWebマーケターは“ 高給取り”だということ。今の陵生さんのお話にあったように、仕事は同じなんだから海外でもやっていけるはずですよね。もっと早く知っていれば、欧米で超かっこよく働いてたかもしれない(笑)。

陵生:その通り。国を飛び越えて仕事することが、どんどん身近になってますしね。

ふたりの運命を変えた「ウユニ塩湖でのタイムラプス」

前田:旅を仕事にすることに憧れる旅人は多いですが、ご苦労も多いのではないでしょうか。

陵生:最近は、苦労することはさほどありません。むしろ、自分たちの発信を仕事にできていることが本当にありがたいと思っています。ここにくるまではつらかったですね。

前田:いつ頃のことですか?

陵生:旅の初期、1日1本映像を発信し始めたときです。もちろん当時から、何かのお仕事になればいいなという期待はありました。でも1年続けても何にもならなくて。そのときは不安で不安で仕方なかったですね。

前田:旅をされて7年。改めてすごいことだと思います。手応えがあったのは何年目からですか?

陵生:最初の1年半の旅を終えて一時帰国したとき、ウユニ塩湖でのタイムラプス(※注:時間が経過する様子を早回しで見せた映像)をテレビで紹介していただけて。そこで少しだけ知っていただけたような気がします。

Vol.1 Salar de Uyuni, BOLIVIA “The lake with a pair of sunset” from One minute Journey on Vimeo.

 

前田:一時帰国のタイミングだったんですね。

陵生:その後さらに1年半の旅の終わりころ、もう少し前に進み始めました。「旅する鈴木」のサイトが、文化庁のメディア芸術祭で推薦作品に選出されたんです。そこから更に広がっていき、DVDやタイムラプスを本にした『a Bird Books 鳥のように世界を旅するパラパラPHOTOブックシリーズ』( いろは出版)、メルセデスのCMもそのタイミングです。そうして日本で旅資金を貯め、再び旅に出ました。だから一番大変だったのは、最初の1年半ですね。

前田:その期間、いろいろな試行錯誤があったんでしょうね。

陵生:最初は、「1日1本、編集ナシでワンシーンだけの映像をアップする」と決めていました。でもそれでは手応えがなかったので、編集する、ナレーションを入れる、タイムラプスの形式にする、アニメーションを入れる、撮影に時間をかける、などを試しました。うまくいかなかったのは、今と違って、当時の若者に動画を見る文化が根付いていなかったことも一因にあるかもしれない。だから若者に情報を届けているTABIPPOは本当にすばらしいと思う。

前田:ありがとうございます!とても嬉しいです。

「旅=危険」は思い込み

前田:映像を通して、若者にどんなメッセージを伝えたいですか。

陵生:「旅は大変、旅は危険」という思い込みを外したいと思っています。

前田:僕も同じ思いです。「飛行機が墜落するかも」と心配する方もいますが、確率的に言うと渋谷を歩いているほうがよっぽど危険ですからね(笑)。

陵生:交通事故とかね。それと、「技術を持っていないと、旅しながら働くのは難しいでしょ?」と聞かれることも多いです。でも、誰しも技術を持っているはずなんです。たとえば営業マンは、人との関わり方、売り方のプロ。言葉や文化の違いはもちろんあるけれど、でも日本で培ったものは必ず海外でも通用すると僕は思います。しかもその技術が100%のものである必要はないと思います。僕たちよりも映像やヨガが上手な人はもっといっぱいいますから。

前田:それに、旅って想像以上に安くできますからね。

陵生:旅のスタイルはさまざまですからね。僕たちは基本、貧乏旅行だけど、撮影のためには結構お金を使うこともあります。それでも7年で3000万円ほど。1人あたり1年に200万円とちょっと。

前田:3000万円と聞くとびっくりしますが、1年に200万円と聞くと意外と安いのではないでしょうか。

「世界一周するけど、どうする?」

前田:ところで、おふたりが旅に出たきっかけを教えてください。

陵生:旅に出たのは、新婚旅行のつもりでした。さかのぼると、僕が20代前半のときに初めて東南アジア4か国を旅して、「全然足りない」と思ったんです。その後、「旅って常にお客さんという立場だけど、今度は現地に住んで仕事もしたい」という思いからカナダに留学しました。そして自然と「次は世界一周だな」と考えていたので、新婚旅行で世界一周することにしました。

前田:聡子さんは、新婚旅行がほとんど初めての海外旅行だったとか。不安もあったのでは?

聡子:もちろん不安もありました。彼が留学しているときから遠距離恋愛をしていて、やっと帰国したと思ったら「世界一周するけど、どうする?」と言われてびっくり(笑)。正直なところ、「もしかしたら『やっぱり旅は諦める』って言いだすかも?」と期待もしたのですが、彼の気持ちは変わらなかったようです。結局私が折れることになりました。やっと留学から帰ってきてくれたので、もう離れたくなかったんです。

前田:当時はすでに社会人ですし、驚いたでしょうね。

聡子:そうです。仕事を辞めることにもすごく不安が大きかったですね。でも実際旅に出たら、仕事はどこででもできるものだし、一つしかないと思っていた道は無数にありました。人生の遠回りと思っていた旅のおかげで今までとは違う、新しい仕事もできるようになり、今では、本当に行って良かったと思っていますね。

BS朝日「旅する鈴木」に込める想い

前田:BS朝日で番組「旅する鈴木」が始まりましたね。

陵生:正直、はじめは冠番組を持つことのすごさが実感できていなくて。周囲が喜んでくれて、じわじわと感動がでてきました。旅する鈴木が一つの形としてまとめられたのかな、とで思っています。でもまだまだやりたいことや、作りたい作品が夫婦共々あるので、更に発展していきたいなと考えています。貯金はないけど、財産とか経験値とか、「旅人夫婦」として見られる小さな価値とかも、大切にしたいですね。

前田:おふたりの発信を見ていた方からオファーがあったんですよね。

陵生:ありがたいことですね。今まで旅や映像撮ることに、たくさんのお金と時間を使ってきましたが、その結果、「旅する鈴木」は他には真似できない作品になることができたのだと思います。大学に行くのと同じですよね。お金を使って勉強するように、経験のために自己投資することは本当に大事だと感じます。

前田:番組を通して伝えたいメッセージはありますか。

陵生:ブログで発信してる映像のテーマと同じなのですが、見てくれた人が少しでも世界との壁を感じないようになってくれればいいなと思っています。身軽に旅に出る僕たちを見て、「こんなモジャモジャの普通の夫婦が行ってるんだから自分にもできるはず」と思ってほしい。「日本が一番」「日本だけで十分」みたいな雰囲気が、まだ日本社会には少なからずあるように思うのですが、今は気軽に国境を越えて、他の国と関わって行くのが普通の時代。いい風に日本が変わっていったらいいなと思ったりします。

前田:最後に、10年後の夢をお聞かせください。

陵生:今以上に、もっと多くのことを伝えられていればうれしいです。発信をする内容と意味を、もっと突き詰めていきたい。それと、無人島を買いたい! 割り勘する人、募集中です。

前田:ありがとうございました!

text:西嶋結
photo:前田塁

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西嶋 結 TABIPPO編集部 / ライター・編集者

出版社出身のライター・編集者。本の仕事をしています。2012年に半年間の旅行を経験し、今までに訪れた国は60か国ほど。有給休暇をフル活用して弾丸旅に繰り出すべく、筋トレに励んでいます。

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