『旅をする木』
1978年、26歳でアラスカに初めて降り立って以来、生涯をかけてアラスカを愛し、その美しくも厳しい自然と動物たちの生命を記録した写真家・星野道夫。その暮らしのなかで出会った、現地の先住民族や開拓時代にやってきた白人たちの生と死が隣り合わせの生活を、静かでかつ味わい深い言葉で綴ったエッセイ集。『新しい旅』『春の知らせ』『オオカミ』『海流』『白夜』など、33編を収録。
作品のおすすめポイント
写真家、星野道夫さんが優しく、美しい言葉でアラスカの日々を綴る『旅をする木』。残念ながら故人にお会いすることはできなかったけど、星野さんが紡ぐ文章や記録した写真を見ていると、まるで昔から彼を知っているかのように感じることがあります。
僕はまだまだ未熟者ですが、自然の中で活動する同じ作家の先輩として彼はいつも大切なことを教えてくれます。それは僕だけでなく生きとし生けるすべての人へ向けたメッセージなのかもしれません。
いくつかのエッセイをまとめた著書の中で『もうひとつの時間』というお話があります。
不思議なようで当たり前のことですが、同じ地球上では僕たちの生活とは別にそれ以外の生活も存在しています。今まさにアラスカのクジラがジャンプしたかもしれません。もしかしたらどこかの森でクマが目を覚ましたかも。
あわただしい毎日の中で少しでもそんなことを意識するだけで、僕たちに”想像力”という豊かさを与えてくれます。
塞ぎがちになってしまいそうな時代だからこそ、読んでもらいたい一冊です。読み終わる頃にはきっと旅先で見たこともない風景と出会ったときのような豊かな気持ちになれると思いますよ。