美しくも厳しいアラスカの日々を綴った写真家・星野道夫のエッセイ集『旅をする木』
世界のカルチャー ・2020年9月10日(2020年9月10日 更新)
『旅をする木』
文藝春秋
¥704
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《作品について》
1978年、26歳でアラスカに初めて降り立って以来、生涯をかけてアラスカを愛し、その美しくも厳しい自然と動物たちの生命を記録した写真家・星野道夫。その暮らしのなかで出会った、現地の先住民族や開拓時代にやってきた白人たちの生と死が隣り合わせの生活を、静かでかつ味わい深い言葉で綴ったエッセイ集。『新しい旅』『春の知らせ』『オオカミ』『海流』『白夜』など、33編を収録。
作品のおすすめポイント
写真家、星野道夫さんが優しく、美しい言葉でアラスカの日々を綴る『旅をする木』。残念ながら故人にお会いすることはできなかったけど、星野さんが紡ぐ文章や記録した写真を見ていると、まるで昔から彼を知っているかのように感じることがあります。
僕はまだまだ未熟者ですが、自然の中で活動する同じ作家の先輩として彼はいつも大切なことを教えてくれます。それは僕だけでなく生きとし生けるすべての人へ向けたメッセージなのかもしれません。
いくつかのエッセイをまとめた著書の中で『もうひとつの時間』というお話があります。
ーその時である。突然、一頭のクジラが目の前の海面から飛び上がったのだ。巨体は空へ飛び立つように宙へ舞い上がり、一瞬止まったかと思うと、そのままゆっくりと落下しながら海を爆発させていった。(中略)ぼくたちが毎日を生きている同じ瞬間、もうひとつの時間が、確実に、ゆったりと流れている。日々の暮らしの中で、心の片隅にそのことを意識できるかどうかは、それは天と地の差ほど大きい。(参照:『旅をする木』星野道夫著)
不思議なようで当たり前のことですが、同じ地球上では僕たちの生活とは別にそれ以外の生活も存在しています。今まさにアラスカのクジラがジャンプしたかもしれません。もしかしたらどこかの森でクマが目を覚ましたかも。
あわただしい毎日の中で少しでもそんなことを意識するだけで、僕たちに”想像力”という豊かさを与えてくれます。
塞ぎがちになってしまいそうな時代だからこそ、読んでもらいたい一冊です。読み終わる頃にはきっと旅先で見たこともない風景と出会ったときのような豊かな気持ちになれると思いますよ。
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ライター
大学卒業後、世界一周の旅に出発し、1年半かけて45カ国を周る。帰国後、株式会社アマナに入社。2016年よりフリーランスとなり、想像もできない風景を多くの人に届けるために世界中の極地、僻地を旅しながら撮影を行なっている。 近年はヒマラヤの8000m峰から水中、南極まで活動範囲を広めており、2021年にはエベレスト(8848m)を登頂した。 受賞歴 2017年 Canon "SHINES" 2017 品川一治選 書籍 2018年 写真集「Ama Dablam」 2022年 写真集「空と大地の間、夢と現の境界線 -Everest- 」 2022年 新書「エベレストの空」 写真展 2019年 キヤノンギャラリー銀座、名古屋、大阪 「Ama Dablam」 2020年 キヤノンギャラリー品川、大阪 「Manaslu」 2022年 代官山蔦屋書店「空と大地の間、夢と現の境界線 -EVEREST-」