西大台の苔の群生地(奈良)
ライター
かわい まゆみ 絶景ハンター&トラベルライター

秘境絶景ひとり旅好きな絶景ハンター。国内47都道府県、世界89カ国、訪れたスポットは1000以上。フットワークの軽さと胃腸の丈夫さが自慢。マニアックな絶景スポットを発掘するのが好き。"ちょっと出かけたくなる"、そんなきっかけを作れるような情報発信を心がけています。

耳馴染みのある「国立公園」「自然保護区」「保全地域」、あるいは世界自然遺産登録区域など、国や行政によって保護された自然環境エリアの呼称。

そのなかに、あまり耳慣れない「利用調整地区」があるのをご存じですか?

今回は、全国でもまだ2例しかないという「利用調整地区」に関する概要とそのひとつである吉野熊野国立公園大台ヶ原の「西大台」についてご紹介します。

全国でたった2例!環境省が定める「利用調整地区」とは

西大台(奈良県)Photo by Mayumi
日本の国土の約7割を占める森林。そのほとんどが天然林(自然林)や人工林であり、手つかずの原生林は、じつはほんの数%しか残されていません。

原生林が残された場所として知られるのは、世界遺産の屋久島や白神山地、知床などが有名ですが、“原生的な雰囲気を保持している”地域として知られるのが、今回ご紹介する吉野熊野国立公園大台ヶ原の「西大台」です。

西大台の苔(奈良県)Photo by Mayumi
将来にわたって貴重な原生的自然を保全し、かつ景観を保ちながら、一方で、人々がよりよく自然とふれあい学べる場となるよう整備されたエリアが環境省認定の「利用調整地区」です。

利用調整地区への入山には厳格な規定やルールが設けられ、一般の登山者は指定認定機関による“認定”を、公的機関や学術調査などは環境大臣または都道府県知事による“許可”が必須。ほかにも、一定の認定基準(1日の入山者数、時間、ガイダンス受講、認定料など)を満たさなければ入山できないルールになっています。

それだけ厳しいルールが課されているからこそ、ここでしか味わえない原生の自然体験が味わえるのです。

吉野熊野国立公園の大台ヶ原とは

東大台の大蛇嵓(奈良)Photo by Mayumi
三重県、奈良県、和歌山県の紀伊半島3県にまたがる吉野熊野国立公園。その奈良県を中心とした核心部に位置し、標高1,300m〜1,600mの山々に囲まれた台地上の山岳地帯が大台ヶ原です。

大台ヶ原山は「日本百名山」のひとつに数えられるほか、「日本百景」「日本の秘境100選」にも選ばれた西日本屈指の景勝地。また国立公園の一角であると同時にユネスコエコパークにも認定された生物多様性の生態系が息づく貴重な自然エリアとして知られています。

大台ヶ原のマップ(奈良)Photo by 環境省「吉野熊野国立公園大台ヶ原大台ヶ原は、三重県最高峰の日出ヶ岳(ひでがだけ)や代表的な展望所・大蛇嵓(だいじゃぐら、前掲の画像)を中心とした標高1,500m以上の亜高山地帯の「東大台」と、標高1,300m~1,500m付に生息するブナを中心とした自然林が広がる「西大台」に分けられています。

そして、手続き不要の東大台に対し、利用調整地区に指定された西大台では、前述の通り、立入の際に1日入山の上限規制や厳格な認定ルールが設けられ、美しい自然を守るための取り組みがなされています。

利用調整地区「西大台」の見どころ

苔むす森に癒される

苔むす森(西大台、奈良)Photo by Mayumi
年間降雨量5,000mmと、あの屋久島にも匹敵する本州最多雨地域で知られる大台ヶ原。

西大台に存在する苔の群生地では、草木や大地はおびただしい苔に包み込まれ、鮮やかな緑の空間が存在しています。清浄な空気で満たされ、思わず立ち止まって深呼吸したくなる空間です。

ブナ林(西大台、奈良)Photo by Mayumi
亜高山性針葉樹のトウヒを中心とした東大台に対し、落葉広葉樹のブナを中心とした自然林が広がる西大台。夏には新緑、秋には紅葉の絶景で最高の森林浴が味わえます。

きのこ(西大台、奈良)Photo by Mayumi
昭和30年代に発生した伊勢湾台風など大型台風が森の生態系を破壊し、ニホンジカによる獣害が増加、さらには大台ヶ原ドライブウェイ開通に伴う利用客増で人的影響の被害も増加、やがて大台ヶ原は森林衰退の危機に直面。そこで、平成16年(2004年)度から生物多様性の保全と自然再生に向けた取り組みが積極的に推進されています。

“原生的な雰囲気が体験できる場”として保護されている西大台。四季折々の表情とともに、森林更新の姿やさまざまな生命が誕生し、成長する様子を間近で観察できるのも魅力のひとつです。

大台ヶ原に関わる歴史の痕跡をたどる

開拓跡の案内板(西大台、奈良)Photo by Mayumi
厳しい自然ゆえに、古くから“妖怪のすむ山”として恐れられ、山岳信仰の修験者や調査目的の幕府の役人以外は、ほとんど人を寄せ付けなかった大台ヶ原。明治になると徐々に歴史が動き始め、その名残をコース上で見ることができます。

たとえば、明治初期にはじめて行われた「開拓跡」。画像にある通り、ある者がさまざまな野菜を育て開拓しようと試みたものの、厳しい自然を前に1年余りでとん挫したという記録が残されています。現在は、やや開けた森の状態が開墾跡の名残を感じさせます。

そのほか、江戸幕末期に活躍した探検家であり、「北海道」の名付け親として知られる松浦武四郎がこの地を探査した証でもある「松浦武四郎分骨碑」や、大台ヶ原のすばらしさを伝えるために建てられたという、明治創建の「神習教大台ヶ原教会」という神道の教会が西大台のコース入口付近に建っています。

そのほかの見どころ

大蛇嵓の展望所(西大台、奈良)Photo by Mayumi
周遊コースから少し離れたところにある展望所からは、あの断崖絶壁の「大蛇嵓(だいじゃぐら)」を下から見上げることができます。

先に大蛇嵓を訪問しておくと、「あんなところにいたんだ……」とゾッとすること間違いなしです。

ミズナラの巨木(西大台、奈良)Photo by Mayumi
前述の展望所への道すがら、突如現れるのが、この根元部分がかぼちゃのような奇形ミズナラの巨木。まるで森の主のような風格と存在感です(周囲にはロープが張りめぐらされ立入禁止)。

ライター
かわい まゆみ 絶景ハンター&トラベルライター

秘境絶景ひとり旅好きな絶景ハンター。国内47都道府県、世界89カ国、訪れたスポットは1000以上。フットワークの軽さと胃腸の丈夫さが自慢。マニアックな絶景スポットを発掘するのが好き。"ちょっと出かけたくなる"、そんなきっかけを作れるような情報発信を心がけています。

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