ライター
川村 みさと 理学療法士×ライター、旅先はちょっと渋好み

普段は医療福祉系の取材ライター。その他、ローカル雑誌にも携わる。趣味は御朱印集め、史跡巡り、美術館・博物館巡り、落語鑑賞と、ちょっと渋好み。仕事のご褒美は温泉旅が定番。

酒豪ではないものの、お酒を飲むなら日本酒派のライター川村です。今回は、私にとって好きなものがギュッと詰まったご褒美旅。山形県鶴岡市の奥座敷と言われる湯田川温泉で「日本酒造りと地域文化を楽しむモニターツアー」に参加してきました。日本酒、温泉、伝統文化など湯田川温泉を訪ねた時に楽しめるさまざまな魅力をご紹介します。
(湯田川温泉旅館協同組合主催)

山形県といえば、国内屈指の日本酒の生産地。地域の気候や風土を活かして伝統的な製法を受け継いでいることから、全国で初めて県全体が日本酒における「GI」認定を受けました。G Iというのはフランスの「シャンパーニュ地方」のようなもの。この「GI山形」とは地名そのものが知的財産として登録されたことを指し、国内外問わず注目を浴びています。

冬の寒さがもたらす長期低温醸造に適した環境と庄内平野で育った一流の酒米、蔵元の職人が長年培った技術が集結した山形県で今、新たな日本酒ブランドが生まれようとしています。今回はその製造過程をレポートします。

湯田川温泉を訪ねれば、日本酒を楽しみながら地域の食と文化を堪能でき、きっとほろ酔い気分を楽しめるでしょう。日本酒マニアも初心者の方も、地元の方々の温かいおもてなしに触れながら羽を伸ばしてみませんか?

湯田川温泉と米作りの関係、四季折々の賑わい

湯田川温泉 photos by kawamura

旅の舞台、湯田川温泉は、庄内三名湯(湯田川温泉、湯野浜温泉、温海温泉)の一つで人情味溢れる里の湯として知られています。約1300年前、傷を負った一羽の白鷺が降りたち、そこに湧いていた湯で傷を癒やしたとされる憩いの地。温泉街には8軒の旅館が立ち並び、古くから宿場町として栄えてきました。

湯田川温泉正面の湯photos by 湯田川温泉組合ー正面の湯

湯田川温泉は全ての浴槽が源泉掛け流しで、8軒あるどの旅館でもゆったりくつろげる癒しのひとときが待っています。鶴岡市出身の文豪、藤沢周平が執筆した「花のあと」でも作中にも登場しており、地元民に愛される湯治場です。今回のモニターツアーを案内してくださった庄司さんが若旦那を務める「つかさや旅館」では、硫黄の香りと程よい湯加減が日常の忙しさを忘れさせてくれました。

共同浴場「正面の湯」や「田の湯」、足湯「しらさぎの湯」で外湯めぐりを楽しむのもよいでしょう。正面の湯と田の湯は、宿泊先の旅館に申し出ると無料、入浴のみの方は船見商店で入浴券を200円で購入できます。

湯田川温泉足湯photos by 湯田川温泉組合ー足湯(無料)

そんな湯田川温泉の春の風物詩となっているのが地域を上げて行われている温泉水を用いた発芽作業、「芽出し」です。芽出しとは、米作りの第一歩、稲の種籾(たねもみ)を発芽させることを指し、一般的には灯油などで温めた温水に浸します。芽出しの最適温度は31~32℃といわれており、ここ湯田川温泉の温泉水が丁度良い温度で発芽を促すのでしょう。

湯田川温泉 芽出しphotos by 湯田川温泉組合ー芽出し

さらに、夏の土用の丑の日には「温泉の湯が生まれ変わる」という言い伝えのもと、温泉街からすぐの由豆佐売(ゆずさめ)神社でお祭りが催され、「湯田川神楽」という伝統的な舞が人々を楽しませます。湯田川神楽は、宿泊のオプションとして楽しめるので、後ほど詳しくご紹介します。

最近では、四季折々の賑わいを見せる湯田川温泉の魅力にハマり、移住する方や地域おこしに協力する大学や企業が集まっています。伝統的な文化を重んじながら、新しいチャレンジに挑む湯田川温泉に、ワーケーションや移住体験に訪れるのも楽しいでしょう。

■詳細情報
・名称:湯田川温泉協会
・住所:湯田川温泉街
・電話番号:0235-35-4111(受付時間:9:00~18:00 土曜日・日曜日・祝祭日を除く)
・公式サイトURL:https://www.yutagawaonsen.com/

湯田川温泉オリジナル、新酒の発表

渡曾本店photos by kawamuraー渡曾本店

ここ湯田川温泉の新しいチャレンジとして、2022年に新酒醸造プロジェクトがスタートしました。新酒には、温泉水で芽出しして育った山形を代表するブランド米「つや姫」を使用しており、お米だけでもごちそうといえるでしょう。その贅沢なお米を42%まで精米した純米大吟醸「女神のしずく」と、純生酛(きもと)純米 「乳いちょう」が今年、2023年2月14日に発売されます。
私は今回の旅で新酒造りの様子を見学してきたので、その模様をご紹介します。

見学したのは、江戸時代から400年続く老舗酒蔵の渡曾本店。杜氏の渡曾さんが酒造りの基礎をじっくりと説明してくださり、職人の技術と努力の結晶を間近に感じられた時間でした。

渡曾本店 日本酒造りphotos by kawamuraー蒸米を冷ましている様子

精米後、蒸しあげたばかりの酒米を手作業で素早く広げています。麹菌の付着に適した温度にするため、40度まで下げる必要があるのだそう。職人さんは平気な顔で作業されていますが、「相当熱いですよ」とのこと。我慢できるなんて、さすがプロですね。

渡曾本店 日本酒造りphotos by kawamuraー麹室

続いて、麹室と呼ばれる部屋に蒸米を移動させ、温度を均一に調整しながら麹菌を付着させます。これは、デンプンを糖化させて麹を作る作業です。室のなかは温度・湿度共に高く、作業していると半袖でも汗ばむ熱気。ここで長時間温度管理をしながら、米の発酵の様子を伺うのは根気が必要です。五感が研ぎ澄まされた職人の技が光る工程だと感じました。

渡曾本店 日本酒造りphotos by kawamuraー左から12時間、24時間、48時間と発酵が進んだ麹米

渡曾本店photos by kawamuraー12時間後と48時間後を比較

最終的には52〜56時間程度かけて麹菌を繁殖させます。手前の48時間後のものは表面がフワッとして麹菌が繁殖したのが分かりますよね。

特別に麹米を試食させてもらうと、時間の経過とともにその甘みが増しているのが実感できました。若社氏さんは「ワインなどは勝手に発酵が進むけれど、日本酒はデンプンを糖化させる手作業が必要」と、手がかかるからこその愛着を語っていました。

日本酒の甘さと辛さは、アルコール濃度によって決まります。酵母に麹米の糖分を食べさせ、アルコール発酵の程度を調整します。日本酒造りでは、この工程でできた酒の素、酒母をいかに増やしていくのかが肝心とのことでした。

渡曾本店 日本酒造りphotos by kawamura

大きなもので3,500ℓを貯められるタンクに酒母を流し込み、3日間かけて麹米を継ぎ足しながら、繰り返しかき混ぜるのだそう。タンクの底が深く、ドロッとした重みを感じられ、長時間かき混ぜるのは相当な重労働だろうと、予想されます。

photos by kawamura

3段仕込みでじっくり発酵させた上質な酵母に、今度は乳酸を付着させます。通常の日本酒造りでは乳酸は人工のものを使いますが、今回の新酒では天然の乳酸を使用しており、この製法を生酛(きもと)造りといいます。現存する最も古い製法で、こだわり抜いた一流のお酒が期待できるでしょう。

photos by kawamura-タンクの中で発酵が進んでいる様子

タンクを覗くと、プツプツと泡立ち発酵しているのが分かります。乳酸が加わることでりんごのようなフルーティな香りが加わり、その匂いの変化を楽しめます。最後に発酵が落ち着いたもろみを抽出し、やっとの思いで日本酒が出来上がるのです。

渡曾本店photos by kawamura-瓶詰め

■詳細情報
・名称:株式会社渡會本店
・住所:〒997-1124 山形県鶴岡市大山2丁目2-8
・地図:
・アクセス:JR羽前大山駅から徒歩11分
・営業時間:8:45-16:30(酒造資料館は、12:00~13:00まで昼休憩時間)
・定休日:正月3が日
・電話番号:0235-33-3262
・料金:入場料個人/200円 団体:20名以上/160円
・公式サイトURL:https://dewanoyuki.jp/

職人さんたちが分析と実践を繰り返しながらおいしさを探求し、代々受け継がれたこだわりの技術が光る日本酒造り。新酒、純生酛(きもと)純米「乳いちょう」と、純米大吟醸「女神のしずく」がどのような味になるのか、その発売が楽しみでなりません。

この新酒は、湯田川温泉の全ての旅館と地元民に愛される集いの場「焼きとりひで」にて提供されます。ぜひ、素材の味を活かした郷土料理とともに味わってみてください。そのほかお土産としてもつかさや旅館をはじめ順次販売も開始予定ですので、お土産にもどうぞ!

湯田川温泉 乳いちょう 女神のしずくphotos by 湯田温泉旅館組合ー左が「乳いちょう」、右が「女神のしずく」

<写真左>純生酛(きもと)純米「乳いちょう」720ml 1430円
<写真右>純米大吟醸「女神のしずく」720ml 2200円

つかさやオンラインストアからも購入できます。

鮮やかな湯田川温泉の郷土料理

湯田川温泉 つかさや旅館photos by kawamura-つかさや旅館の料理

渡曾本店photos by kawamura

湯田川温泉に立ち並ぶ8軒のお宿には、日本酒と一緒に楽しめる素材の味を活かした郷土料理がたくさんあります。この地域で長く受け継がれてきた在来種の野菜はどれも彩り豊かで、全国的に有名な「だだちゃ豆」をはじめ、真っ赤な「藤沢かぶ」など、お酒が進む食材がずらりと並びます。

藤沢かぶphotos by kawamura-藤沢かぶと角煮

地元民に愛される芋煮は、酒粕と味噌仕立ての優しい口ざわり。体を芯から温め、ほっこりさせてくれます。5月には採れたての爽やかな「孟宗筍」を味わえることが有名で、「湯田川孟宗」というブランドにもなっています。毎年、筍を目的に泊まりに訪れる人がたくさんいるとのこと。味噌や酒麹などのまろやかな味付けが、コクを引き立てます。

芋煮photos by kawamura-芋煮

海の幸では、季節ごとに、鮭や寒鱈、岩牡蠣が堪能でき、お鍋にしても美味しそうですね。

出羽の雪photos by kawamura

■詳細情報
・名称:湯田川温泉 つかさや旅館
・住所:〒997-0752 山形県鶴岡市湯田川乙52
・地図:
・アクセス:庄内交通バス:バス停「湯田川温泉」下車徒歩約1分
・受付時間:9:00~20:00(チェックイン:15:00~20:00)
・電話番号:0235-35-2301
・公式サイトURL:https://www.tsukasaya.gr.jp/

日本酒と湯田川神楽、軽快な音楽と踊りに大笑い

湯田川神楽photos by kawamura-湯田川神楽

日本酒の原料である酒米は年中行事と密接に関わりがあり、夏の「土用の丑の日」には、温泉の湯が生まれ変わることを祝した「温泉清浄祭」が由豆佐売神社でお祭りが催されます。

そこで披露される400年続く伝統芸能、「湯田川神楽」はお祭りのメインイベントで、地元民に親しまれています。昔はお座敷遊びとしても楽しまれていた湯田川神楽を披露してもらいました。

日本楽器で奏でるインド式の軽快な音楽とコミカルな舞が特徴の観衆必笑の催し。その面白さを少しだけご紹介します。

湯田川神楽photos by kawamura-獅子舞

獅子が豪快に舞い、悪神であるちょんべ(ひょっとこ)を成敗することで無病息災を願うストーリー。獅子が歯を打ち鳴らして迫ってくるシーンは快活で、その迫力から子どもは泣き出してしまうのだそう。対して、ちょんべの憎めないイタズラは笑いを誘い、一瞬でも目を逸らすのが惜しくなるほど。

湯田川神楽 ちょんべphotos by kawamura-ちょんべ

映画、「たそがれ久兵衛」でも演じられた湯田川神楽は、パフォーマーが変わるごとにその印象が異なり、何度見ても面白いといいます。私も今回の演舞で涙が出るほど大笑いしました。ぜひ、おひねりを渡したり、頭をかじられたりして楽しさに身を任せてほしいです。

湯田川神楽photos by kawamura

湯田川神楽は、温泉内の旅館にて宿泊の際に1公演25,000円で依頼できます。土用の丑の日の本公演については、湯田温泉観光協会にお問い合せください。

湯田川温泉で地域の魅力盛りだくさんのコアな旅

今回の旅では日本酒だけでなく、湯田川温泉の地域の魅力を堪能できるコアな体験をたくさんさせていただきました。印象深い経験を写真とともに一挙ご紹介します。

しめ縄づくりと湯田川温泉の守り神

しめ縄photos by kawamura

湯田川温泉では米の豊作や無病息災を祈って、地域の守り神が祀られる由豆佐売神社にしめ縄を奉納します。今回体験した縄綯いはスタンダードな編み方なのですが、左右の束を反対向きに捻りながら、掛け合わせていくので難しい。

参加者みんなで悪戦苦闘しながらも最終的に一繋ぎのしめ縄を完成させ、由豆佐売神社の御神木、乳いちょうの木に結びつけました。米づくりが根付く地域ならではのコアな体験ができました。

由豆佐売神社の境内からは、湯田川温泉の雪景色を一望できるので、散策スポットとしてもおすすめです。ここでは「たそがれ清兵衛」など時代劇映画の撮影も行われているそう。

由豆佐売神社 湯田川温泉photos by kawamura-由豆佐売神社の乳いちょうの木

太鼓の音頭が特徴の賑やかなご祈祷

龍王尊善寳寺photos by kawamura-龍王尊善寳寺

湯田川温泉から日本海側に車を20分ほど走らせると、歴史好きには見逃せない観光スポットが見えてきます。龍王尊善寳寺は、お寺でありながら海の神様である龍神を祀る寺として有名で、全国から豊漁のご祈祷依頼がくるほど。山門をくぐり長い石段を登った先に見える荘厳な構えに、身が引き締まるような感覚を覚えました。

龍王尊善寳寺photos by kawamura

善寳寺では、その賑やかなご祈祷が知られており、般若心経のもとである大般若波羅蜜多経の経典を仰ぎながら詠みあげます。全600巻あるお経を風にのせるとその教えを人へ届けられるのだそう。良質な新酒の出来を祈ってご祈祷が行われました。

龍王尊善寳寺photos by kawamura

龍王尊善寳寺photos by kawamura

お経の音頭は木魚ではなく、太鼓。合いの手を入れるかのように、お坊さんたちが「ハーッ」「オーッ」と声を出す姿が興味深く、見入ってしまいました。私が知っているご祈祷とは全く異なっており、その新鮮な経験をさせていただいた記念に御朱印も書いてもらいました。

龍王尊善寳寺 御朱印photos by kawamura

■詳細情報
・名称:龍王尊祈祷道場 宗教法人 善寳寺
・住所:〒997-1117 山形県鶴岡市下川字関根100
・地図:
・アクセス:JR鶴岡駅から車で17分
・御朱印・御守りの頒布時間:8:00~15:45(年中無休)
・電話番号:0235-33-3303
・所要時間:ご祈祷は20分~30分程度
・公式サイトURL:http://ryuoson.jp/

湯田川温泉のお土産は産地直送のJA鶴岡がおすすめ

JA鶴岡ファーマーズマーケットもんとあーるphotos by kawamura

地元の食材をお土産に、とお考えの方は、ぜひJA鶴岡ファーマーズマーケットもんとあーるにもお立ち寄りください。野菜や果物が巨大で、しかも安い!高級なだだちゃ豆が自販機で買えてしまうのには驚きました。私はお土産につかさや旅館の若旦那おすすめの辛子茄子を購入。そのピリッとした辛さで食べると目が一瞬で冴えます。

JA鶴岡ファーマーズマーケットもんとあーるphotos by kawamura

だだちゃ豆photos by kawamura

湯田川温泉 辛子茄子photos by kawamura

■詳細情報
・名称:JA鶴岡ファーマーズマーケットもんとあーる
・住所:〒997-0841 山形県鶴岡市白山西野191-2
・地図:
・アクセス:JR鶴岡駅から車で12分
・営業時間:9:00~18:00
・定休日:毎月第2水曜日は定休日
・電話番号:0235-25-6665
・公式サイトURL:https://montearl.com/

地元民の語らいの場で旅人と一期一会を喜び合う

湯田川温泉 焼きとりひでphotos by kawamura-焼きとりひで

湯田川温泉では、地元民と旅人たちの交流がとても心地よく、お酒を酌み交わしながら夜が深まるまで語らうのもよいでしょう。湯田川温泉唯一の焼き鳥屋、「焼とりひで」。焼き鳥といいながら、焼き豚がメインメニューで、昭和の趣をそのまま残したノスタルジーな雰囲気が好ましいお店です。童心に返り、ざっくばらんに交流するのが楽しい時間。

焼きとりひで 湯田川温泉photos by kawamura

旅の終わりには、秘密基地のような集会所でお酒を囲みました。ユニークな地元の方々の武勇伝に笑いが止まらず、初めて会ったとは思えない居心地の良さがありました。

湯田川温泉photos by kawamura

photos by kawamura

日本酒造りを中心に湯田川温泉を味わい尽くす

今回の湯田川温泉と日本酒造りの見学ツアーは、地域を思う人々の熱量に触れられる味わい深い旅でした。伝統をつなぎ、旅人を温かく迎えてくれるこの地で、コアな体験をしてみたい方は、湯田川温泉観光協会にお問合せください。湯田川温泉が自信を持って提供する新酒と一期一会の出会いを求め、訪ねてみませんか?

ライター
川村 みさと 理学療法士×ライター、旅先はちょっと渋好み

普段は医療福祉系の取材ライター。その他、ローカル雑誌にも携わる。趣味は御朱印集め、史跡巡り、美術館・博物館巡り、落語鑑賞と、ちょっと渋好み。仕事のご褒美は温泉旅が定番。

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