モーツァルトやシューベルトをはじめ、数々の音楽家を生み出した芸術の国、オーストリア。
オーストリアに行くからにはオペラやクラシック音楽を楽しみたいけど、実際どのように楽しんだらよいのかわからない…なんて人も多いはず。
そこで今回はウィーン在住のオペラ演出家の高島勲先生に、オーストリアの魅力やオペラの楽しみ方、さらにオーストリアはすでに何回か訪れている人にもおすすめしたい穴場スポットまでお伺いしました!
この記事を読んだら今すぐオーストリアに行きたくなること間違いなしです!
都会の文化と自然環境が共存する街、ウィーン
ウィーン歴史地区の街並み © ÖW/ Popp Hackner
ーー高島先生が活動拠点にウィーンを選ばれた理由からお伺いしたいです。
もともとはドイツオペラを勉強するためにミュンヘンに留学していて、その後ウィーンに活動拠点を移したんです。その当時、演劇学の勉強ができる大学はまだ限られていて、オペラ関係の論文が書ける大学ということでウィーンを選びました。
ウィーンはミュンヘンやベルリンと比較したときに、圧倒的に音楽の伝統があったことがウィーンを選んだ決め手でもありました。
ーー実際にウィーンで生活してみて、どんなところが魅力的に感じますか?
ウィーンでは国立歌劇場をはじめとする全ての劇場で、500円前後の立見席があるんです。なので、思い立ったらその日にオペラ鑑賞に行けるんですよね。
立見席がある劇場は他の国にもありますが、たとえばミュンヘンでは場所が指定の立見席を前もって売り出してしまいますし、値段もウィーンの2倍以上します。映画を観にいくのと同じような感覚で、思い立ったらその日に気軽に観にいけるのは、他の国にはない文化だと思います。
ウィーン国立歌劇場 © ÖW/ Julius Silver
ーー500円ほどでオペラ鑑賞ができるなんて……!日常生活の中で日本と違うと感じる部分はどんなところですか?
ウィーンは都会の文化と自然環境がすごくよくマッチしている街なんです。僕の住んでいるところからも歩いて10分ほどのところに山がありますし、市内の真ん中に住んでいても30分ほどで山や川のある自然豊かなところに行けるんですよね。
トップクラスの文化を享受できる都会的な部分もあれば、自然の中に帰ってリフレッシュできるところもあって、非常にバランスが良い街。ウィーンが世界で住みやすい街の1位(*)になったのも、よく理解できます。
*(CNN) 英誌エコノミストの調査部門、エコノミスト・インテリジェンス・ユニット(EIU)が実施する世界の「住みやすい都市」ランキング2018年・2019年度においてウィーンが第一位に2年連続選出
ーーたしかに、日本では都会的な部分と自然を同じ場所で感じられるところはなかなかないですよね。
あとオーストリアは世紀末くらいまでは古いものを残して、それほど積極的には新しいものを取り入れていない文化があり、新しいものが建ちにくい環境でした。
でも21世紀に入ってからは一気に進んで新しいものと古いものが共存するようになったことで、インスピレーションを受けたり、いい意味での刺激を受けたりする場所も多くなったと思います。
オーストリアでは音楽や自然、スポーツが生活に染み込んでいる
ーーオーストリア政府観光局が企画した、ソプラノ歌手の森野美咲さんが出演する動画も高島先生が演出を担当されていますよね。この動画に込められた思いを聞かせてください。
まだまだクラシック音楽って聞くとハードルが高いように感じてしまうお客さんが多いなか、森野さんを通じて、もっとクラシック音楽に馴染んでもらいたいという思いを込めた動画になっています。
森野さん自身が今人生の中でとても充実している時期だという印象を受けたので、彼女が輝いている状況をみなさんにお伝えすることができれば、クラシック音楽を聴いてみたいという人が増えたり、彼女の活動拠点であるオーストリアを訪れてみたいなと感じる人が増えるかなと思いました。
ーー演出の中でこだわったポイントや見どころはどこになりますか?
オーストリアの魅力は、自然環境の良さとその中でインスピレーションをたくさんもらって日常生活を送っているというところだと思うんです。その自然や音楽が生活の中に染み込んでる様子が動画で伝われば嬉しいです。
また、ウィーンではアーティストを集めて自分の家で演奏をしてもらうサロンコンサートの文化があるので、それも動画内で紹介することで、クラシック音楽をより身近に感じられたらと思って、取り入れています。
ソプラノの森野美咲さんとピアニストの木口雄人さん。© ÖW/ Andre Wanne
ーー動画には、サッカーの北川航也選手も出演されていますね。
一見、サッカーとクラシック音楽は接点がないように聞こえるかもしれませんが、実は北川さんが森野さんのコンサートに行っていたり、クラシック音楽に携わっている僕らの同僚も、熱狂的なサッカーファンが多いんです。
夏の音楽祭の時期はW杯と重なる時期なので、リハーサルが成立しないくらいサッカーに熱中してしまうこともあるくらいで(笑)。何より森野さん自身が大のサッカーファンだということで、うまく繋がったかと思います。
オペラはカジュアルに楽しんでOK。気になったらまずは観てみる
ウィーン国立歌劇場の大階段 © ÖW/ TYO
ーーオーストリアといえばオペラですが、高島先生おすすめの作品ってありますか?
これからオペラを観てみたいという方は、小さいオペラを指すオペレッタ作品が入りやすいかなと思います。軽快で馴染みやすい音楽と、人物の取り違えなどのちょっとバカバカしいくらいの喜劇作品が多いので、言葉が判らなくても結構笑えますよ。最後はハッピーエンドというのが定番で、終始楽しく観劇できるのでオススメです。
具体的な作品名で言うと、ヨハン・シュトラウス2世の「こうもり」をおすすめします。古き良き時代の架空の世界でもあるんですけど、ウィーンの方々の好きな世界観を表している典型的なオペレッタ作品だと思います。
ーーオペラにまだ馴染みがない方や、これから初めて観る方に向けて、音楽の楽しみ方を教えていただきたいです。
よくオペラは、事前にあらすじを読んでおくべきと言われています。たしかにイタリア語やドイツ語のような外国語で上演されている作品だとあらすじを読まないと話がわからないこともありますが、オーストリアではその日に気軽にオペラを観に行ける環境があるので、気になったらとりあえず行ってみて、何が面白いか、自分の肌に合っているのかを確かめてみるのも良いと思うんです。
人間関係でも、フィーリング感覚でこの人と合うなって思うことってあるじゃないですか。音楽も同じだと思うので、まずは気になったらちょっと行ってみるっていう感覚で足を運んでみてほしいですね。最初はオペラ歌手の声のボリュームに圧倒されるだけでも、新しい体験になると思います。
ーーオペラを観に行くなら、きちんと予習をしてドレスアップをしなきゃいけないイメージもありましたが、もっと気軽に行っていいんですね。
あまり気を張らずに、自然の中でワインを楽しんだあと、夜はちょっとコンサートに行ってみようかな、みたいな感覚でいいんですよ。
スーツを着てネクタイ締めてドレスアップして行くことが劇場体験のひとつの面白さでもありますが、それこそ立見席にはジーパンで観に来ている若者も増えていますので。
フォーマルとカジュアルがどちらも成立すると思います。それにウィーン国立歌劇場では日本語の字幕を選べるタブレットが座席に配置されてますし、立見席にも字幕があるので、気軽に楽しめますよ。
毎年夏に開催されるザルツブルク音楽祭 © Tourismus Salzburg GmbH/ Guenter-Breitegger
ーーオーストリアはオペラ文化だけでなく、音楽祭も盛んに行われていますが、おすすめの音楽祭はありますか?
ウィーンで5〜6月に行われているウィーン芸術週間は、ぜひ足を運んでもらいたいですね。オペラやクラシック音楽のコンサート、演劇などさまざまな芸術作品を鑑賞することができます。
あとはスイスとの国境沿いにあるボーデン湖で行われるブレゲンツ音楽祭や、湖上のステージで開かれるメルビッシュ湖上音楽祭など、オーストリアは屋外の音楽祭が多いことも特徴のひとつです。ボーデン湖がある街ブレゲンツに1泊しながら湖上のオペラを観劇するのは、心と体がリラックスするちょっと特別な体験です。
今年は、コロナ禍でも感染症対策をきちんとして上演できることになった屋外の音楽祭も多く、密にならないのでより安全で、オーストリアの特徴でもある自然環境を堪能しながら音楽を楽しむ日常が少しずつ戻ってきています。会場によってはドリンクを持ち込んでも平気というところもありますし、そういうのはあまり日本にない文化ですよね。
ーーオーストリアの自然を味わいながら音楽を聴けるのは、とっても楽しそうです!来年は高島先生も携わられたミュージカル「エリザベート」の世界初演から30周年だそうですが、どんな作品になっているのでしょうか?
ウィーンはオペラのイメージが強く、なかなかミュージカルの印象がない方も多いと思いますが、実はミュージカルも人気なんですよね。「エリザベート」は1992年に生まれたウィーン・ミュージカルで、私も初日に観に行った作品です。
主人公である皇妃エリザベートが、宮廷という古い社会体制の中でひとりの女性としてどのように生きていくかに焦点を当てています。架空世界の死神との恋愛を描いているのでミュージカルのストーリーとしてはちょっと重いんですけど、逆にそこが日本の女性からしても自分自身がどう生きていくか、自分の人生は自分のものだというストーリーが響いた部分でもあったみたいですね。
ーーただ楽しいだけではなく、共感したり考えたりする部分がある作品になっているんですね。
ストーリーだけ聞くと重たいかもしれませんが、そこをメランコリーな音楽でカバーすることでバランスがよくなっているんですよね。音楽はハンガリーの作曲家で、深い心の動きを歌い上げるメロディーが演歌に近い感じになっているので、日本人にも耳馴染みがいいのかなと感じます。
エリザベートの人間としての成長や生きる難しさなどが描かれているドラマチックな作品なので、ぜひみなさんにもご覧いただければと思います。来年夏にはシェーンブルン宮殿の野外舞台でスペシャルコンサートが予定されています。
オーストリアに行ったら、ワインを自然の中で飲むホイリゲを味わって!
湖水地方のアッター湖。グスタフ・マーラーやグスタフ・クリムトらが好んだ避暑地。© ÖW/ Wolfgang Weinhaeupl
ーーオーストリアで勧めたい観光スポットも教えていただきたいです。
有名な観光スポットを周ったあとは、郊外に出て自然に触れるのはとてもいいと思います。交通の便もいいですし、路線図も非常にわかりやすいです。
森野美咲さんの動画にも登場するオーストリアの南部にはきれいな湖も多いので、レジャーを楽しむのもいいですし、冬であればインスブルックに出てスキーなどのウィンタースポーツを楽しむのもおすすめですね。
ーー自然環境が良いオーストリアならではの楽しみ方ですね。オーストリアには何度か行ったことある方に行ってもらいたい、穴場的なスポットってありますか?
オーストリアには、その年に穫れたぶどうで作ったワインを出す居酒屋を指すホイリゲという文化があるのをご存知ですか?中にはぶどう畑の中で小屋を出していて、ベンチスタイルでワインを飲めるところもあります。
山の景色の中でゆったりとワインが飲める独特の文化なので、何度かオーストリアを訪れている方にはぜひ体験してほしいですね。僕も先日行ったのですが、コロナ禍という言葉を忘れてしまうくらい日常的な空気で、夕方までの予定が気づいたら夜まで飲んでしまいました(笑)。
ウィーン市内でもワイン生産が盛ん。© ÖW/ Dietmar Denger
ーーお話聞いていたら、今すぐにでもオーストリアに行きたくなってきました。最後に、読者へひとことメッセージをいただけますか?
オーストリアはどんな分野でもちょっと深掘りをしてみると、日本と違う魅力を発見できると思います。高級な場所もあって貴族のような雰囲気を味わうこともできますが、旅行そのものが割とリーズナブルではあってもリッチな体験ができる国なので、ぜひ何度も訪れていただけたらと思います。
次に行く国はオーストリアで決まり!
都会と自然が共存する街、ウィーン。クラシック音楽やオペラは普段から馴染みがないと難しいもののように感じてしまいがちですが、実はもっとカジュアルに楽しんでいいのだと、お話を聞いて肩の力が抜けました。
さらに野外音楽祭やホイリゲなど、やりたいことがたくさん増えたので、次に行く国はオーストリアに決まりです。
オーストリア政府観光局のサイトでは、他にもオーストリアの見どころがたくさん紹介されているので、ぜひチェックしてみてくださいね。