【イベントレポート】観光DXで宿泊の概念を変えた「WhyKumano」オーナーが描く観光のこれから|Think Tourism #01
エリアから探す ・2022年6月21日(2022年8月24日 更新)
こんにちは、TABIPPO編集部の伊藤美咲です。
この記事は、2022年6月3日に行われたオンラインイベント『温泉と生まぐろと世界遺産の町。「観光DX」で宿泊の概念を変えたWhyKumanoオーナーが描く観光のこれから』のレポート記事です。
このイベントでは、ゲストに和歌山県南部・熊野エリアの観光拠点となる那智勝浦(なちかつうら)で、ホステル・カフェバー「WhyKumano(ワイクマノ)」を経営されている後呂孝哉さんをお迎え。TABIPPO代表の清水と観光の未来についてトークセッションをしていただきました。
温泉と生まぐろと世界遺産の街とは一体どんなところなのか? 不便だからこそ行きたくなる熊野エリアの魅力や、観光業界におけるオンラインの活用法をたっぷりと聞くことができました。
ぜひ最後までご一読ください。読み終わることには、今すぐ熊野に行きたくなること間違いなしです。


(以下、トークイベントより抜粋)
日本全国・世界に伝えたい、那智勝浦のポテンシャル
那智勝浦は、人口14,000人ほどの小さな街です。世界遺産に認定されている「熊野古道」と「那智の滝」が有名な場所で、2018年の温泉ランキング西日本で1位を獲得したり、延縄(はえなわ)漁法による生マグロの水揚げ量が日本一になったりしています。
僕も那智勝浦に行ったことあるけど、日本一なだけあって、マグロの販売が盛んですよね。
那智勝浦はマグロのセルフ販売があって、景色のいいところでマグロを食べる「マグロピクニック」が流行っています。みなさんもぜひ訪れた際には、ぜひ「マグピク」を体験してくださいね。
そんな那智勝浦があるエリア、熊野でしかできない経験 “This is Kumano!” を届けたいという想いで、「WhyKumano」というゲストハウスを作りました。

引用:「WhyKumano」公式サイト
熊野の日常を皆さんに届けるべく、まち全体をホテルに見立てる “まちやど” というスタイルで運営しています。今まで街になかったものを作ろうという思いから、街中の空き家を活用して、ワインビストロ「
Wine Kumano」や、 一棟貸切宿「WhyKumanoUNWINED」もオープンしました。
僕も那智勝浦に行ったときに伺いましたが、本当に熊野のポテンシャルがすごいと思っていて。今日はその辺りもお話できたらと思っています。
熊野エリアの魅力は、先人の道や歴史を自分も歩けること

「人が良い」というのは当たり前の前提として、熊野の地域の魅力でいうと歴史なのかなと。神武天皇による日本統制の話にも出てくる場所ですし、これまで積み重なってきた長い歴史を肌で感じることができます。
一般的な観光地は、何かを「見る」ところですが、熊野古道は「歩く」ところなんですよ。先人たちがずっと歩いてきた道を、自分たちも歩けることが価値だと思っています。
僕も熊野古道の一部を歩きましたが、歴史がある奥深さを感じましたね。これは実際に行ってみないと伝わらないかも。本当に神聖な場所で。
「熊野」という文字がそもそも神聖なんですよね。熊には奥まった、ひっそりとしたという意味があって、野はフィールドを表します。
スペインに巡礼地があることは有名だけど、日本にこういった神聖な場所があることはあまり知られてないですよね。正直、和歌山って何があったっけ?って思っている人も多いと思いますし。
めちゃくちゃ多いですね。和歌山のイメージといえばみかん・梅・智弁和歌山の3つしか言われないです(笑)。和歌山って、立地上ついでに寄っていくことができないので、和歌山を目的にしないと辿り着かないんですよね。
でも、本当に和歌山にはポテンシャルがあると思っていて。それこそ南紀白浜が日本のハワイと言われてたり、アドベンチャーワールドも来場者が増えていたり、東京からもすぐ行けますし。そこで止まることなく、熊野の方まで足を伸ばしてほしいですよね。
まさにその通りなんですよね。和歌山の人でさえ、熊野の方には来たことがない人というもいますし。もっとみなさんに熊野を知ってもらいたいですね。
全60回が満床で話題になった「オンライン宿泊」とは

引用:「WhyKumano」Facebook
コロナ前は、7割くらいのお客さんが海外の方だったんです。熊野古道は日本ではまだまだ知名度が低いですが、海外だととても有名なんですよね。外国人向け日本情報サイト「ガイジンポット」の「2020年訪れるべき観光地ランキング」で一位になったくらい、じつは世界から注目されていた場所で。
でもコロナで急に人が来なくなってしまって、このままじゃまずいと思って。
そこで始めたのが、「オンライン宿泊」だったんですね。
そうです。オンライン宿泊の前に、まずはゲストハウスについて説明しますね。泊まることが目的であるホテルに対して、ゲストハウスは旅先での出会いや交流を目的にしている方が多くいます。
「WhyKumano」では、地元民と観光客を自然につなぐ場をつくることで、「Why Kumano(なぜ来たの?何があるの?)」を「This is Kumano(これが熊野)」にしたいと思っています。
そんなときに、コロナ禍で予約が全てキャンセル。同業者が次々と休業する中、ほかと違う動きをしたら目立てるのではないか?と考えたときに、たまたまYouTubeで見つけたのが「オンライン銭湯」でした。
60分間、ただ銭湯のお湯が流れ続けるだけの動画なんですけど、公開されてから数日で数万再生されるほどバズっていたんです。オンライン銭湯ができるなら宿泊もできると思って、オンライン宿泊を始めました。
最初は、オンラインで宿泊ってどういうこと?ってなりますよね。
オンライン宿泊では、オンライン上で数人で集まって、動画を撮りながら一緒にチェックインをします。部屋に案内してもらったら、みんなでオンライン乾杯して、交流をするという流れです。つまり、ゲストハウス宿泊の目的である、旅先での出会いをオンライン化したということです。

引用:「WhyKumano」Facebook
これはホテルではなく、ゲストハウスだからこそ実現できた取り組みだと思います。この取り組みは、60メディアほどに取り上げてもらうことができて、開始から60回まで全て満床でした。
オンライン宿泊に参加した方が、実際に泊まりに来ることもありますか?
まだ完全にコロナが終わったわけではないですが、すでに50人以上は各々の来れるタイミングで来てくれていますね。
長い目で見て、いつか泊まりに行きたいと思っている人も多いでしょうね。コロナ禍で観光・旅行業界が変わらざるを得ない状況の中、変化を恐れずにチャレンジできたのはすごいと思います。
「WhyKumano」はチェックインもオンラインでできるようになっていて、DX化が進んでいますよね。
僕らの売りは交流になるので、そこにリソースを割くために、ほかの業務はどんどん簡略化しています。
昔だったらゲストハウスはスタッフとの交流も大事だから、オンライン化できないと思われていたけど、ゲストハウスだからこそできる部分もあると考えているのは面白いですね。DX化の部分を諦めちゃっているゲストハウスもあると思います。
元々、ほかの宿泊者と空間をともにするゲストハウスは、感染予防の視点から見て立場が弱かったんですけど、オンライン宿泊はその交流の部分をうまく活かせたかなと思いますね。
「旅の醍醐味は不便に集約される」これから提供していきたい旅

先日開催したオンラインイベントで、これからの観光や旅行について話したのですが、(イベントレポートは
こちら)、後呂さんは、これからどんな旅を提供していきたいと考えていますか?
そうですね。
熊野は大阪からでも4時間ほどかかるアクセスが悪い場所なので、どうしたらそこまでしても熊野に来たいと思ってもらえるか?をよく考えるんですね。時間をかけてでも行きたいと思ってもらうためには、やっぱり既存のコンテンツだけではダメだなと思っていて。
うんうん。オンライン宿泊も新たなコンテンツのひとつになりましたよね。
オンライン宿泊にさまざまな地域の方が参加してくださったことで、オンラインなら立地に関係なくフラットにコンテンツだけで勝負できると思ったんですね。むしろアクセスが悪い場所ほど、価値があるというか。
さらに面白かったのは、同じ日にオンライン宿泊に参加したふたりが、後日偶然同じ日に泊まりに来てくれたんです。
オンライン宿泊は、オフラインの代替にはならないんですよね。だからオンライン宿泊を経験することによって、熊野に来たいという枠を超えて、「WhyKumano」に泊まりたいと思ってくれたんです。
あと、コロナに関係なく、ペットを飼っていたり、小さなお子さまがいたり、何かしらの都合でなかなか旅行に行けない人もいらっしゃいますが、そういった人々にもオンライン宿泊は参加していただけました。
これまではどうしたら旅行に来てもらえるかしか考えてませんでしたが、これからは旅行するハードルが高い方たちが、どうしたら旅行に行けるかを視点に持つべきだなと感じましたね。
オンライン宿泊がこの先どうなるかはよく話題になりますが、僕は元々ある旅の体験価値がオンラインに置き換わることはないと考えています。熊野古道を写真で見るのと、実際に歩いてみるのは違うじゃないですか。
ただ、今回のようにオンラインが旅の動機づけや、地域との接点を持つ良いきっかけにはなるとは思います。
僕らも、オンラインが代替案になるとは思っていなくて。最終的には、しみなおさんが言ったように、オンラインでの体験が、現地に来てもらうきっかけになればと思っています。まだ熊野が全然知られていないので、まずは知ってもらうきっかけになってほしいですね。
便利で益を得ることは多くあるけど、便利すぎて損をすることもあると最近よく話していて。もちろん不便で損をすることもあるんですけど、旅の醍醐味って不便に集約されると思うんですよね。
旅はお金も時間もかかるから、コスパで考えたらYouTubeやネットフリックスに勝てないし、そもそも戦うべきではないじゃないですか。でもこれまでの観光業界は、とにかく安くしたり、アクセスが良いことをアピールしたりしていたから、旅の魅力が伝わらない要因になってしまっていたのかなと。
不便なところに行くことの良さを、熊野は分かりやすく伝えられる気がします。
便利にすることはできても、不便にすることってできないから、ある意味強みだとも思うんですよね。5時間かけて行く日本の観光地って、なかなかないじゃないですか。
絶対に近くはならないですからね。不便だけど、行ったら感じられるものや出会える人がいることを、うまく伝えようとしていると感じます。
「WhyKumano」オーナーが考える、今後の展望

まち全体をホテルに見立てるという構想の中で、3軒目の宿を準備中です。ワーケーション向きの部屋や、窓からマグロの競りが見られる部屋ができる予定です。
オーシャンビューじゃなくて、マグロビューってわけですね。
宿は上層階の方が値段が上がることが多いですが、マグロの競りは最下階となる2階の部屋からしか見えないんです。なので、2階が一番の売りになるという世界初の面白さがあります。
あとはアクティビティや二次交通手段として、レンタサイクルも準備中です。
旅行者にこんな体験をしてほしいというビジョンはありますか?
宿泊してくださった方から、飲み屋で出会った人と仲良くなった話をよく聞くんですね。僕自身も旅をしていたときのことを振り返ると、思い出すのって観光地よりも人との出会いなんです。
なので、地域の日常と交わえる接点をどんどん作っていきたいと思いますし、旅行者の人たちももっと飛び込んでほしいなと思います。熊野の人たちも、「よく来たね」と誇りを持って言えるような街にしていきたいですね。
熊野は余白のある空間がいいですよね。みなさんにもぜひ体感してほしいです。

質疑応答[1]:一人旅の目的や行き先の決め方は?
旅の目的は、人ですね。今僕がやりたいのは、ゲストハウスの忘れ物を海外にいるゲストに届けられるかという旅。最高のホスピタリティですよね。
人に会いに行くというのは、最初の旅としては一歩踏み出しやすいと思いますね。
それこそゲストハウスは、旅に出る勇気を後押しするためにあるもので。ドミトリーだったら安いし、オーナーやスタッフも地域のことを知っているので、もはや何も調べずに来てもらう方がいいなと思ってます。
まさに。僕らの調べる能力なんてたかが知れてるので、結局みんな同じところに辿り着いちゃうんですよね。だから現地で偶発的に出会うことって大事だと思います。
質疑応答[2]:那智勝浦の「シビックプライド」についてどう思う?
那智勝浦の「シビックプライド(自分たちの地域にどれだけ誇りを持てるか)」はどう感じていますか?
まだまだ「何もない街」と言う人の方が多いですね。那智勝浦ならではの魅力も日常になってしまっているので、何もないと感じている人が多いのかなと思います。
ふだん都会にいる身からすれば、東京ってめちゃくちゃ消費されている感じがするんですよね。でも那智勝浦に行くと、東京にないものがたくさんある。ほかの地域から来た人たちが、その土地の魅力を伝えることはすごく意識しています。
だからシビックプライドを高めるためにも、旅行者が必要なんですよね。
観光地が観光客をおもてなしするのではなく、お互いが与え合う関係が築けたらいいのかなと思いますね。
参加者へのメッセージ
那智勝浦の方は、地元の人としてどう良い街にしていくかをぜひ一緒に考えましょう。そのほかの地域の人はぜひ那智勝浦に来ていただいて、旅行者としてどうして行くべきかを話せたらいいなと思います。
今日で1が作れたと思うので、100にするために今日の話の続きができれば嬉しいです。
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