ライター
澁谷 岳史 TABIPPO ライター

大学時代のアジア一人旅をきっかけに世界に興味を持ち、地理教師に。各地に足を運んで、オリジナルの教材を集めることを楽しみにしている。趣味は将棋とクワガタ飼育。特技はけん玉。また、日本の歴史や文化を、海外の方に伝える記事を発信中。

かつて「地下には琵琶湖と同じだけの水が眠っている」とも言われた、京都。

清酒、漬物、京野菜、茶道、染め物、焼き物──

古くから京都で紡がれてきた文化を支えてきた「水」は現在、「ジャパニーズクラフトジン」という新たな文化を生み出しています。

今回訪れたのは京都初のクラフトジンの蒸溜所「京都蒸溜所」。そこでは京都の水を使い、和と洋の融合から生まれたジン「季の美 京都ドライジン(以下:季の美)」がつくられています。そして「季の美」をより魅力的に体験できる特別企画がホテル「チャプター京都トリビュートポートフォリオホテル(以下:チャプター京都)」で開催されています。

京都の伝統文化が現代の新たな文化と出会うひとときを体験してきました。

ジャパニーズクラフトジン「季の美」とは

「世界最高のジンを作る」という夢を掲げて、2014年に京都に初めて設立されたクラフトジン専門の蒸溜所「京都蒸溜所」。この蒸溜所でつくられているのがジャパニーズクラフトジン「季の美(KI NO BI)」です。

もともとはウイスキーを広める活動をしていたという「季の美」の3人の創業者たち。新しい道を切り拓き、誰もやったことがないことに挑戦したいという思いから、京都でジンの蒸溜事業に取り組み始めたといいます。

ジンの蒸溜は水が命。創業者たちは、扇状地に囲まれており、清酒文化がある京都には山麓から伏流する良質で豊富な地下水が眠っているはずだと考えました。そしてその水を活用すればジンの蒸溜も成功すると考え、京都でクラフトジンの蒸溜所を設立したのです。

季の美House「季の美」のグローバルアンバサダーを務める佐久間雅志さん
今回、「季の美」でグローバルアンバサダーを務める佐久間雅志さんに京都のお茶の老舗「堀井七茗園」、宇治の焼き物の伝統を守る「窯元朝日焼」を案内していただきました。

「日本の伝統」を掛け合わせて完成するジャパニーズクラフトジン「季の美」

日本ならではの素材を積極的に取り入れてつくられているジャパニーズクラフトジン「季の美」。その工夫こだわりは細部にまでおよびます。

京都の伝統「宇治抹茶」とイギリスの「ジン」文化の融合

人気メニュー「KI NO BI Matcha Tonic」
「季の美House」で提供されている人気メニューの一つが、「KI NO BI Matcha Tonic」。

宇治抹茶とジントニックを合わせた、まさに和洋折衷を表現した一杯です。

このドリンクに使用されている抹茶は、京都を代表する老舗茶園「堀井七茗園(ほりいしちめいえん)」のもの。

堀井七茗園は日本で現存する最も歴史ある茶園のひとつであり、その茶葉は「季の美」ジンのボタニカルにも使用されています。

室町時代、足利義満の命により宇治に7つの茶園が設けられ、「宇治七茗園」と呼ばれるようになりました。 そのうち現存する唯一の茶園が「奥ノ山茶園」であり、この茶園を守り続けているのが、今回訪れた老舗茶園「堀井七茗園」です。

堀井七茗園は、失われた六つの茶園の歴史と想いを受け継ぐ存在として、社名に「七茗園」の名を掲げ、宇治茶の伝統と品質を現代に伝え続けています。

季の美「季のTEA」は堀井七茗園さんの玉露とてん茶を使用したクラフトジン(左ボトル)
そんな「堀井七茗園」の玉露とてん茶を使用したクラフトジン「季のTEA」もぜひ試してみたい一品。

ぴりりと爽やかで辛口な味わいに、和のうま味がほのかに香る、正真正銘のジャパニーズクラフトジンです。


堀井七茗園がおよそ100年前に発明した抹茶製造機。
抹茶を世界に広めるために、技術を広く開放したという。

ジンの香りを最大限に引き出す伝統の朝日焼

オーダーメイドの「朝日焼」酒器。飲み口が広く、香りがいっぱいに広がる。
「季の美House」はジンを味わうための器にもこだわりを持っています。

一部のカクテルの提供に使われているのは、京都・宇治に窯を構える「朝日焼」で特別に焼かれた、茶器由来の陶製の器。

この器は、日本の茶道具にヒントを得て作られたそう。とくに重視されたのは「香りの広がり方」でした。飲み口が大きく広がる形状は、ジンに含まれる繊細なボタニカルの香りをふわりと立ち上がらせ、鼻の奥にまでしっかりと届けてくれます。

安土桃山時代に創業した「朝日焼」
写真は宇治で現存する唯一の登り窯

「季の美」のグローバルアンバサダーを務める佐久間さんによると、日本の茶文化とジンの楽しみ方を融合させる方法を探るなかで、茶器の形状が持つ機能美、そして宇治のお茶を育てる土を使ってつくられている点に着目したといいます。


「朝日焼」は安土桃山時代に創業し、現在も宇治で唯一の登り窯を残す窯元です。

その長い歴史の中で培われた職人の技が、クラフトジンという新たな文化と出会い、唯一無二の酒器を生み出しました。

ホテル・チャプター京都を通して知る「あたらしい京都」

チャプター京都のお客さんのターゲットは“自分の意思を持って好きなことを追求していく人”を意味する「モダンマーベリック」な人々。

京都を訪れた、モダンマーベリックな旅人たちにとって家のようにくつろげる場所でありたい、そしてホテルを拠点に様々な場所へ行き、旅を好きになって欲しいという想いを込めてつくられたホテルです。

日本の「重ね」文化をコンセプトに設計された1階エリア

「重ね」をコンセプトにつくられているチャプター京都のロビーは様々な素材の「重ね」でできている
チャプター京都の1階エリアのデザインコンセプトは「重ね」。

平安時代に確立されたという日本の「重ね」の文化は、十二単に代表されるように衣を何枚も重ねることで、季節感と教養を表現してきました。そして、その日本人の繊細な感性や季節の移ろいを愛でる心が現代まで受け継がれています。

チャプター京都の1階エリアでは和と洋の異文化、木や石、鉄などの異素材が重ねられており、和の文化が感じられる造りとなっています。

茶室からインスピレーションを受けた客室

心身共にくつろげる空間
客室は茶室から着想を得た空間になっています。

茶道には、一人の客人に精一杯のおもてなしを提供する「一客一亭」という精神があります。宿泊してくれた人に、心からくつろいで欲しいという想いを込めて作った空間は、靴を脱いで過ごせる畳敷き仕様。お部屋全体が白とブラウンを基調とした、あたたかみのある装飾に包まれています。

部屋全体の電気を消し、行灯のような照明をともしてみると、ゆったりした空間に包まれ、心も体もリラックスできました。

湧き水を汲み上げた大浴場「CHAPTER NO YU」

自慢の大浴場「CHAPTER NO YU」
photo by チャプター京都トリビュートポートフォリオホテル

チャプター京都の見どころの一つである大浴場「CHAPTER NO YU」では湧き水を汲み上げています。

旅の疲れを大きなお風呂に入って癒すことができるのも嬉しいポイントです。

旅人の思い出が循環するユニークなサービス「一筆箋」

チャプター京都のユニークなサービスの一つが「一筆箋(いっぴつせん)」。

展示されている「一筆箋」
宿泊者が京都で体験したことや感じた思いを一筆箋に綴り、それを1階の「CHAPTER FACTORY」に飾ることができるというサービスです。

旅人たちが綴ったメッセージや体験談がずらりと並ぶその光景は、まるで一冊のガイドブックのよう。実際に訪れた人のリアルな言葉で紡がれる一筆箋を参考にしながら、宿泊客は京都で訪れる場所や過ごし方を計画することができます。

ホテルの名前にもなっている「チャプター」は、物語の「章」を意味しています。

「旅人が、自らの旅の跡を、未来の旅人に残していくことで、物語を紡いでいって欲しい」そんな想いがこの名前には込められています。

一筆箋のコーナーは、まさにその象徴。

それぞれの旅人が心に残った場所や地元のお店、観光地について書き記し、未来の旅人へとバトンのように渡していく。 旅の軌跡が集まり、また新しい旅が生まれていく場所、それがチャプター京都の「CHAPTER FACTORY」なのです。

一筆箋を実際に体験

実際に筆者も一筆箋を体験してみました。

今回の旅の思い出を綴りはじめると、旅先で出会った人たちの顔が次々と浮かんできます。

実際に文字に残していくことで、旅がより特別な思い出として心に刻まれていき、まるで小学校の夏休みの宿題に出た絵日記を書いているような懐かしい気持ちに。

余韻を楽しみながら旅の思い出を振り返る素敵な時間となりました。

一筆箋の体験と、季の美ジン付宿泊プラン特典のスイーツのセット
9種の紅茶から選べるサービスがうれしい
チャプター京都では、6月末まで特別プランとして[京都蒸溜所「季の美 京都ドライジン」ボトルアメニティとウェルカムデザートセット付き宿泊プラン]をご用意しています。ほうじ茶ブリュレなど京都を感じるスイーツと、9種類から選べる香り豊かな紅茶・ハーブティーを楽しみながら、一筆箋を体験してみてはいかがでしょうか。

季の美とチャプター京都のコラボレーション企画

現在、「季の美」とホテル「チャプター京都」のコラボレーション企画が実施されています。

「季の美」の佐久間さん監修のカクテルと、チャプター京都のレストラン「CHAPTER THE GRILL」のヘッドシェフ・桝直人シェフによる、京都の食材をふんだんに使用した創作料理を特別メニューとして提供しています。

カクテルをつくる「季の美」の佐久間さん
チャプター京都トリビュートポートフォリオホテルのヘッドシェフ桝さん

コースのなかでもひときわ存在感を放つのが「特選国産和牛フィレステーキ」。

「特選国産和牛フィレステーキ 京野菜のグリル添え」と「KINOBIスペシャルカクテルfor Wagyu Beef Steak」
京丹波産の特選牛を使用しているフィレステーキは、桝シェフが持てる技をすべて注ぎ込んだ渾身の一品です。

味付けにも一切の妥協しなかったそう。旨味を最大限に引き出すため、塩の選定にも細心の注意が払い、納得がいくものを選び抜いたといいます。

また、添えている野菜にもこだわりが。使用しているのは京都の豊かな水で育てられた京野菜。食材がもつ本来の甘さを最大限に活かすため、軽めに茹で、なるべくシンプルに味付けされています。


桝シェフの創作メニューと一緒に提供される佐久間さんが考案したオリジナルカクテルも忘れてはならない見どころの一つです。

絶妙なバランスを考え配合して作られたオリジナルカクテルは、とてもよく料理に合い、箸が止まらなくなります。

新しい京都の姿を発見し、未来の旅人へつなげる

今回のツアーで印象的だったのは、出会った人々が皆、口をそろえて語っていた京都の水の豊かさでした。

「地下には琵琶湖と同じだけの水が眠っている」——

そんなロマンに思いを馳せながら味わう、京野菜やクラフトジンのカクテルは、どれも特別な一杯。

茶道、焼き物、京野菜といった伝統文化に、ジンという新しい要素が加わることで、これまでとは違う“あたらしい京都”の文化に触れることができた旅でした。

ぜひ、みなさんもこの体験を通じて、あなただけの京都を見つけてください。

そしてその思い出を、一筆箋に綴って未来の旅人へとつないでみてはいかがでしょうか。

Photos by Shibuya Takeshi

ライター
澁谷 岳史 TABIPPO ライター

大学時代のアジア一人旅をきっかけに世界に興味を持ち、地理教師に。各地に足を運んで、オリジナルの教材を集めることを楽しみにしている。趣味は将棋とクワガタ飼育。特技はけん玉。また、日本の歴史や文化を、海外の方に伝える記事を発信中。

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