第2章:中央区編
「ただいま」といえる場所、ゲストハウスJikka

ゲストハウスJikka
福岡に帰ると、必ず泊まる場所がある。「福岡ゲストハウス Jikka」だ。
閑静な住宅街にある3階建ての一軒家は、一見するとゲストハウスだとわからない。だが、博多と天神のちょうど中間あたりに位置し、利便性も高い。そのため、世界中から旅人が集まってくる。
私が福岡に来たばかりの頃に知り合ったオーナーとは、もう10年の付き合いだ。
玄関を開けると、母親のように「おかえり」と声をかけてくれる。本当に実家に帰ってきたような気持ちになるため、その名の通り”実家”なのだ。
ここには大都会にはない人と人の距離の近さがある。それが、福岡という街の魅力のひとつなのかもしれない。
私にとって、かつて生活していた街だ。この街は、いつの間にか、体内を流れる血液のように、私の一部になっている。

ゲストハウスは出会いの場
・名称:福岡ゲストハウス Jikka
・住所:福岡県福岡市中央区春吉1-14-25
・地図:
・アクセス:地下鉄 渡辺通駅から徒歩約8分
・営業時間/チェックイン:15:00(サイトにより変動あり・要確認)
・チェックアウト:10:00(サイトにより変動あり・要確認)
・定休日:なし(要確認)
・電話番号:080-5267-9354
・料金:変動あり(要確認)
・公式Instagram:福岡ゲストハウス Jikka
天神|遅れてきた青春の中心地

雨の日の天神
次は、もう福岡のもうひとつの顔、天神へ向かう。中洲からも徒歩で移動が可能だ。
天神の街はいつもきらきらしていて、ここに来れば何かが始まる気がしていた。
私は大学まで田舎で過ごしている。学生時代、わざわざ熊本や長崎からバスに乗って天神まで出てきた。今は再開発で姿を消した天神コアやビブレ。記憶のなかではまだ鮮明に残っている。
だからこそ、福岡に住んでいた時間は「遅れてきた青春」そのものだった。今、その天神は福岡ビッグバンの名のもとに生まれ変わりつつある。間違いなく前に進んでいる街だ。どんどん形を変えて進化している。
じゃあ、私は福岡に、いったい何を求めているんだろう。
10年前は、田舎にはない都会の洗練された空気感を。そして今は東京にはない、懐かしさや温かさ。そしてどこか完全には垢抜けきらない雰囲気なのか。あるいは、かつての遅れてきた青春なのか。その答えはまだわからないままだ。
大濠公園|あの春の熱狂

大濠公園の桜並木
3月。大濠公園の桜が、いっせいに咲き始める季節。
都心にありながら、どこからか山の風が吹き抜け、水辺を囲む柳や、まわりの桜の木が揺れる。
夜になると、ライトアップが始まる。城のお堀に落ちる影とその光が重なり、それはそれは幻想的でロマンチックな雰囲気だ。
2016年。花粉症で涙と鼻水が止まらないなか歩いた桜並木。屋台から漂う、たこ焼きやとうもろこしの匂いも思い出す。
私は以前、福岡でサルサダンスを習っていた。先生や同じ生徒たちと一緒に、ひらひらと風に舞う桜の花びらのなかでくるくると踊る。
2026年。今は東京にいて、春になると目黒川の桜を見に行く。それはそれで美しい。けれど、コンクリートに囲まれた都会の桜は、福岡で感じたあの熱狂に比べると、上品すぎて、どこかもの足りなく感じてしまうのだ。
・名称::大濠公園
・住所:福岡県福岡市中央区大濠公園1-7
・地図:
・アクセス:地下鉄空港線「大濠公園駅」から徒歩すぐ
・開園時間:常時開放
・定休日:なし
第3章:帰路編
再び博多駅へ|現実に戻る準備を

にぎわう博多駅前
博多駅に戻る。動く広告、見慣れたブランドの光。そろそろ、夢から覚める時間だ。
飛行機の時間まであと1時間半ほどある。博多駅から福岡空港まで、地下鉄でたった10分。私はお土産に日本酒を選びたくて、博多駅にあるいつもの酒屋へ向かった。
そして、福岡の日本酒を注文し、口に運んだ。泣き上戸でもないのに、気づけば目には涙がたまっていく。スマホの画面に映る文字は、涙で滲んで二重に見えた。
博多弁は、もう考えないと出てこない。たった5年。それだけの時間で、私は東京に染まっていた。
酒屋を出て歩きながら、すれ違う人たちとふと目が合う。本心を隠し切れない人、最初から隠そうとしない人も。そんな人々を横目に、私は少しだけ笑ってしまった。そこに、かつての自分の姿を重ねたからだ。
名残惜しさで視界は見えづらいが、私はまた飛行機に乗る。手にもったスーツケースの重さだけは、やけに現実的だった。
さよなら、福岡。また、いつかね。

福岡の日本酒を堪能
・名称:住吉酒販 博多駅
・住所:福岡県福岡市博多区博多駅中央街1-1(JR博多駅構内)
・地図:
・アクセス:JR博多駅構内(改札周辺)
・営業時間:10:00〜22:00前後(施設により変動あり・要確認)
・定休日:なし(施設休館日に準ずる)
・公式HP:住吉酒販
帰りの飛行機のなかで
私はひとり、飛行機のなか。東京行きは満席で、いつものように窮屈だ。
滑走路を離れた機体がぐっと高度を上げていく。その瞬間、急激な眠気が襲ってきて気絶しそうになりながらも、私は今回の旅を振り返っていた。
窓の外を見ると、さっきまで近くにあった街が、どんどん小さくなっていく。
ついさっきまで、私も街の一部として、たしかに存在していたはずなのに、それらはもう、思い出に変わっていく。
だからこそ私は「また来るけんね」と呟かずにはいられなかった。
夕暮れ時の中洲
何度でも、福岡へ
この街は不思議だ。何度も、何度も引き寄せられてしまう。
何か大きな目的があるわけでもないのに、気づけば、また戻ってきてしまう街がある。私にとって福岡は、そんな場所だ。
ここに来るたびに思い知らされる。私はもう、あの頃の自分には戻れない。そして同時に、この街も、あの頃のままではないのだと。
それでも——そのはずなのに、なぜだろう。惹かれずにはいられない。ここで笑って、泣いて。もう戻れない時間を、たしかに生きていた。
住む場所が変わり、東京に染まっていった私。それでもこの街に足を踏み入れると、置き忘れてきた記憶や感情が、ふっと目を覚ます。
理由なんてものは、なくてもいいのだ。帰りたいと思ってしまう。それだけで十分じゃないか。
別に用事はないのに、なぜか戻ってしまう街があるなら。それはきっと、私にとっての「原点のひとつ」なのだと思う。
All photos by Risa Yamada