ライター

北海道出身、関西在住。読書と珈琲と文筆と旅を愛する30歳。インドとネパールが大好き。現在、仕事を辞めて妻と二人で海外放浪中。 2023年、珈琲と文学をテーマにした珈琲ブランドを立ち上げる。いまは販売に向けて鋭意準備中…。夢は旅する珈琲屋兼作家!

僕が人生で大事にしていることは、行動です。

そう聞くと、何事も迷わずにバリバリ突き進んでいくようなイメージを持つかもしれない。だけど僕は、著名なスポーツ選手や起業家などがよく言うような、

「思い立ったらすぐ行動」
「悩む時間がもったいない」

という言葉は、実は苦手だ。僕の行動は、もう少し時間がかかる。

僕が「やってみたい」と思いついてから行動に移すまで。そこには「悩む」という過程が決まって挟まる。

ひたすら頭を抱えて、うーんと唸りながら、悩む。悩んで悩んで悩み抜いて、やっとこさ行動に移す。そんな感じ。

だけどこれは、僕の成長した姿だ。
昔の僕はいつも躊躇してばかりで、やりたいことをやれなかった。ただ悩むだけで、何もできない人間だった。

それがある時から、「どれだけ悩んだっていい。最終的にやりたいことをやっていれば」という考え方で人生を歩むようになった。それが自分らしさだとさえ思っている。

瀬戸内海の風景僕を変えてくれた旅で見た景色
⁡そう思うようになったのはいつだったか。振り返ってみると、それは旅だった。

今回はそんな僕を変えてくれた旅のお話をしようと思う。

『いのちの姿』を読んで

⁡元号が令和に変わったばかりの2019年4月。

僕は1年間のフリーター生活に終止符を打ち、ついに社会に出ようとしていた。就活を経て、4月から正社員デビューが決まったのだ。

入社日は4月5日。新生活への期待と不安を抱えるその一方で、僕の胸にはモヤっとした思いもあった。

社会に出る前に、何かやり残したことはないだろうか……。

昨年はインドとネパールを旅したけど、帰国後は特に旅に行くこともなく、アルバイトと就活の日々。また旅に出たいなと思いつつ、結局どこにも行かないまま今に至る。

やはりもう一回くらいどこか旅に出たらよかったかな。

でももう遅いか。

まあ、働き始めても、なんやかんやで休み取って旅くらいできるだろう。

少しだけ心残りではあるけど、「いつか」「そのうち」旅に出よう。そう思っていた。

⁡そんな、入社3日前の夜。

僕は宮本輝の『いのちの姿』というエッセイ集を読んでいた。

宮本さんは僕の一番好きな作家で、彼の作品はいつも人生の節目に読みたくなるのだった。

宮本輝 いのちの姿宮本輝『いのちの姿』
就職という節目を前に読んだこのエッセイ。

そこには、宮本さんが経験した阪神淡路大震災のこと、

サラリーマン時代に突然パニック障害になって会社に行けなくなったこと、

芥川賞を受賞した直後に肺結核に罹り、闘病生活を送っていたこと。

そんなエピソードが綴られていた。

それらの話は僕の胸を強く打った。

生と死の境界線に幾度も立ってきた宮本さんは、それでも自分の使命だと筆を執り続けてきた。身体や心の傷を乗り越え、取材のために日本各地や海外を訪れて、素晴らしい作品を多く世に送り出してきた。

やりたいことを貫き通すその生き様に僕は、

「人はいつ死ぬかわからない」
「だからやりたいことはやるべきだ」

という熱いメッセージを感じた。

僕は本を置き、明日旅へ出よう、と思った。
今しかない。今こそ行く時だ。

でもどこに行こう……。さすがに日数的に難しいよな……。行きたいところもパッと思いつかないし……。

うーん、どうしよう。

僕は頭を抱えて、唸りながら、悩んだ。

そして気がつくと、そのまま寝てしまった。まだ何も決められていなかったのに。

何も決めない旅に出た

⁡翌日目が覚めると、12時前だった。

何も決められないまま寝て、起きたらお昼。さすがにもう旅に出るのは無理だろう。

一度はそう思ったが、枕元にあった宮本さんのエッセイと、窓の外のよく晴れた空を見て、心を決めた。

よし、今から旅に出よう。

そして僕は、最低限必要なものと本を5冊リュックに詰めて、家を出た。

最寄りの塚口駅(兵庫県尼崎市)から阪急電車に乗り込み、とりあえず西へ向かう。

何も決められないなら、何も決めない旅に出よう。そう思って、近くても遠くてもどこでもいいから、知らない街まで行ってみることにしたのだ。

詰め込んだ本は、電車の中でゆっくり読むためのもの。

本を読みながら電車に揺られ、ちょうど本を閉じたところの駅で降りるのもいい……なんて、さすがにちょっとカッコつけすぎかな。

⁡突発的に始まったあてのない読書旅。どこまで行けるかとワクワクしながら、僕は本を開いた。

電車と本思いつきで詰め込んだ本たち
しかし、僅か数十分で僕は足止めを喰らってしまう。人身事故の影響で電車が止まってしまったのだ。

仕方がないので、停車した駅でひとまず下車。街を歩いたり、カフェに入って時間を過ごす。

やっぱり思いつきの旅はうまくいかないよなぁ……。ここでストップしたのも、引き返したほうがいいという暗示なのかもしれない。そう弱気になり、また悩み始める。

だけど、宮本さんのエッセイを思い出し、旅への気持ちを再確認する。

ここで行かなきゃ、次はいつ行けるかわからない。

電車がまだ復旧していなければ、線を変えて進めばいい。

よし、まだまだ行くぞ。

駅に戻ると阪急線は復活していて、僕は無事に旅を再開させた。

再び電車に揺られ、気がつくと阪急の終着・新開地駅まで来ていた。

まだ行ける。もっと行ける。

謎の自信に満ち溢れながら、次は山陽電鉄に乗り換えて、どんどん進んでいく。姫路を過ぎた頃にはもう日も暮れかけていたが、僕はまだまだ旅を続けるつもりだった。

姫路城一瞬だけ姫路で降りて、姫路城を見た
夜の山陽電車に揺られ、兵庫県を抜け、さらには岡山県も過ぎて、気が付けば僕は広島県まで来ていた。

さすがに夜も更け、今日はこの辺にしようと降りたのは、福山駅。駅から適当に歩いて見つけたゲストハウスに泊まることに。

受付でスタッフの方に「尾道に行ってきたんですか?」と尋ねられた。

福山からもう少し行くと尾道があり、そこからの帰りだと思われたらしい。

そうか、尾道か……。

いろんな小説や映画の舞台にもなっているレトロな街並み。坂の上から望める瀬戸内海の美しい景色。いつかは行ってみたいと思っていた場所のひとつだった。

僕はスタッフに「いえ、明日行くんです」と答えた。

その場の思いつきだったが、ついに旅の目的地が見つかった。

ゲストハウス隠れ家のようなゲストハウスの寝室

ライター

北海道出身、関西在住。読書と珈琲と文筆と旅を愛する30歳。インドとネパールが大好き。現在、仕事を辞めて妻と二人で海外放浪中。 2023年、珈琲と文学をテーマにした珈琲ブランドを立ち上げる。いまは販売に向けて鋭意準備中…。夢は旅する珈琲屋兼作家!

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