ライター
さとみん 憧れの男性はロバート・ラングドン教授

歴女の旅好き。レオナルド・ダ・ヴィンチの追っかけ。 幼少時ドイツに住んでいた際に、両親の影響で旅×歴史に夢中に。古代オリエント史と美術史が好き。いつか古代オリエントの舞台を一気に回るのが夢。憧れの男性はダン・ブラウンが生み出した、ロバート・ラングドン教授。

最期まで手元においた3枚の絵

photo by satomin

クロ・リュセ城に再現されたアトリエに飾られる3枚のレプリカ。これぞパリのルーブル美術館に展示される、「モナ・リザ」「聖アンナと聖母子」「洗礼者ヨハネ」です。

『モナ・リザ』

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世界で一番有名な絵画と言っても過言ではない作品ですが、実はレオナルドが最期まで筆を加え続けた、未完成の作品です。

上に重ねられた指先の部分に、レオナルド独自の絵画技法「スフマート(薄く溶いた絵の具を塗り重ねる方法)」を施していますが、塗り重ねが足りていないことがわかっています。

モデルとされているのは、フィレンツェの商人・フランチェスコ・デル・ジョコンドの妻、「リザ・デル・ジョコンド」。

しかし、レオナルドの自画像とモナ・リザを重ねると顔の造作がほとんど一致するという説が発表され、モナ・リザはレオナルド・ダ・ヴィンチ自身であるという説が唱えられるようにもなっています。

またモデルについてだけでなく、背景に描かれた場所についても議論されるようになりました。レオナルドが一時期住んでいたイタリアのアレッツォ、アルプスの風景、宗教観の表現、終末の世界の表現……

現在最も有力な説は、彼の宗教観の表現だというものです。向かって右側が現在の風景、左側が水の浸食によって削られた大地。水の循環、浸食、浄化作用が「全ての人間に平等であり、生や死を支配する」という考えを、無神論者であるレオナルドは表現したということ。

モナ・リザのモデルも、背景に描かれたものも全て未解決で、謎に包まれたままです。世界一有名な絵画は、世界一謎に包まれている絵画なのです。

『洗礼者ヨハネ』

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真っ黒な背景の中に浮かび上がる、謎めいた微笑みを浮かべる美しい青年。この人物は、イエス・キリストに洗礼を授けた洗礼者ヨハネ。上に向かって指差しているポーズが印象的で、そこにばかり注目してしまいますが、実は十字架をかけて毛皮を纏っています。

天に向けられた指は「私の後から来るものが救世主である」ということを示しています。つまりイエス・キリストが現れるという意味です。

この絵を見たとき、この人は女性なのか、男性なのか、疑問に思いませんでしたか?よく絵画に見る成人後の洗礼者ヨハネは髭も生えていて男性であることが一目瞭然です。それに比べてこのレオナルドの洗礼者ヨハネは中世的で、もはや色っぽさ、妖艶さをも感じさせます。

レオナルドは自身の手稿(メモ)の中で、両性具有の存在と思われるスケッチを残しています。

ギリシャの哲学者・プラトンは「人間はもともと男女が一体となった存在だったが、ゼウス神によって切り離された」と考えていました。ルネサンスの時代には、このプラトンの考えをもとに、天使的な両性具有体こそが完全な人間であるという考えが広まっていました。

レオナルドの「洗礼者ヨハネ」は、こうした両性具有の理想を具現化したものであると考えられています。

『聖アンナと聖母子』

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子羊と遊ぼうとするイエス、そのイエスを抱き抱えようとする聖母マリアと、マリアの母親であるアンナが調和の取れた三角形の構図で描かれています。この作品もどういった経緯で描かれたのかがわかっていない作品です。

イエス・キリストを描いた作品では、彼が十字架にかかる運命を示すということを予言するモチーフが登場していることがあります。ここに現れる子羊は「生贄」の象徴で、子羊と戯れようとするイエスは、人類の原罪を償うために自らを犠牲にする運命を予告しています。

精神分析学者のフロイトは、この絵の中にレオナルドの「エディプス・コンプレックス(母親を手に入れようと思い、父親に対して強い対抗心を抱く幼児期の男児に起きる心理的抑圧)」が隠されていると分析しました。

レオナルドは生まれてすぐに実母から離されて育ち、本当の母親からの愛情に飢えていました。この絵は母を恋い慕うレオナルドによって理想化された母達の姿なのかもしれません。

帰路につく前に

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クロ・リュセ城だけでもかなり充実していてお腹いっぱいになるはず。パリから日帰りで訪れた人は、帰りの電車の時間を気にしておかないと、夜遅くパリに到着することになってしまいます。

それでも、駅に向かう前に、少しでもいいので立ち寄ってほしいところがあります。

城内の広大な庭

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クロ・リュセ城は庭も必見です。こじんまりとしたお城からは考えられないくらい奥行きのある庭園で、至るところにレオナルドの発明品が再現されています。この庭園ではロワール湿地帯特有の沼地生態系が自然のまま保護されています。

生涯にわたって自然を愛し、自然の現象をスケッチしてきたレオナルドが最期に見た景色の一つでしょう。庭園の中にもレストランがあり、帰りの時間に余裕があればぜひ。

可愛くておいしいコンフェクショナリー(お菓子屋さん)

クロ・リュセ城を後にする前に、アンボワーズ城の目の前にあるお菓子屋さんに立ち寄ることをお忘れなく!

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クッキー、チョコレート、メレンゲやジャムなど、とっても「フランスっぽい!」と感じるかわいいお菓子がところ狭しと並んでいます。見た目だけでなく味もすごくおいしい!

おすすめはフランボワーズのソースが入ったチョコレート。ここに来なければ買えないお菓子なので、お土産にもおすすめです。

万能の天才が最期に見た景色

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「自身の眼で見たもの」を描いてきたレオナルド。彼が見て描いてきた景色の多くは、亡くなってから500年のうちに大きく変わってしまっているでしょう。

でも、このクロ・リュセ城とロワール川を囲む景色は、きっと大きくは変わってないのではないでしょうか。木漏れ日に坂巻く水……ここで今も見ることができる自然を、また改めてレオナルドの作品から探っていくのもおもしろいかもしれません。

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さとみん 憧れの男性はロバート・ラングドン教授

歴女の旅好き。レオナルド・ダ・ヴィンチの追っかけ。 幼少時ドイツに住んでいた際に、両親の影響で旅×歴史に夢中に。古代オリエント史と美術史が好き。いつか古代オリエントの舞台を一気に回るのが夢。憧れの男性はダン・ブラウンが生み出した、ロバート・ラングドン教授。

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