ドイツ東部の街、ドレスデン。チェコやポーランドとの国境に近く、ザクセン州の州都でもある大きな街です。戦後に復興した中心街はとても美しく、街を貫くような形でエルベ川が流れていて、街も自然も楽しめる場所として人気があります。
でも、実はこの街は世界遺産に一度登録されたものの、あることが理由でその登録を抹消されたという、少し変わった歴史を持つ場所でもあります。
今回はそんなドレスデンのことをご紹介します。
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ドレスデンは世界遺産登録を抹消された街
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ドレスデンは、その街並みの美しさや、近郊のエルベ川沿いの自然の豊かさなどから、2004年に世界遺産に登録されていました。登録名は「ドレスデン・エルベ渓谷」で、中心街周辺だけではなく、エルベ川沿いのかなり広い範囲の渓谷が世界遺産に登録された地域でした。
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ただ、この登録はある理由から2009年に抹消されました。
世界遺産に登録されたものの、後に抹消された例は、オマーンの「アラビアオリックスの保護区」に続き、ドレスデンが2件目でした。かなり稀なケースですが、どうしてそういった状況になってしまったのか、チェックしていきましょう。
ドレスデンってどんな街?
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まずドレスデンの街の見どころからチェックしていきましょう。ドイツでは、中心地にシンボルとなる教会が立っている街が多いですが、ドレスデンもその例に漏れず。観光スポットの中心となっているのは、バロック様式の「フラウエン教会(聖母教会とも)」という大きな教会です。
遠目からだと、白さが目立つとてもきれいな教会なのですが、近くでよく見てみると部分的に黒くなっているパーツが使われていることがわかります。
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実は、この教会は第二次世界大戦の終盤で起こった「ドレスデン爆撃」の際に崩壊した歴史を持つ建物。当時の街の被害は甚大で、教会だけではなく全体の85パーセントが破壊されました。
そのときの瓦礫を大切に保管し、最終的に再建が完遂されたのは2005年のことでした。使われた元々の石は3,800個にも上ったそう。
市民やドレスデンを思う人々の思いが実を結び、再建が完了した教会は、和解を象徴する建築物となりました。
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もちろんフラウエン教会以外にも、ゼンパー・オーパー(オペラハウス)やツヴィンガー宮殿など、観光名所は多くあります。
また、ドレスデンは陶磁器で有名なマイセン地方に近く、100メートルもの長さのマイセンによる壁画「君主たちの行列」も、この街ならではの見どころとなっています。
奇岩が立ち並ぶ、エルベ渓谷の魅力
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世界遺産に登録されたのは、街並みだけではありません。エルベ川はチェコとポーランドの国境付近にある山を水源として北海に流れていく川ですが、その中でも上流域にあたるエルベ渓谷と呼ばれる部分が、世界遺産に登録されていました。
ドレスデンの中心街からだと、電車で40分ほどの「クアオルト・ラーテン駅」へ向かい、そこから山登りをすることで楽しめる景勝地となっています。
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駅から対岸に渡る際にはすでに、その奇岩群が高い場所に見えています。この辺りの自然は「ザクセンのスイス」と呼ばれる観光スポット。
山登りといってもそれほど大変な道のりではなく、途中からは階段も整備されているため、本格的な登山道具が必要なわけではありません。
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頂上からはこんな景色を眺めることができるため、ドイツ人はもちろん、世界中から多くの観光客が訪れる人気の場所。
眼下を流れるエルベ川と周辺の丘陵地帯の景色は、絶景そのもの。高いところが苦手な方ならちょっとドキドキするような展望台がいくつも設置されているので、いろいろな角度から楽しむことができますよ。
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さらに、エルベ川から200メートルの高さのところにあるのが、こちらの「バスタイ橋」という石橋。
奇岩と奇岩をつなぐような形で架けられた橋は、それ自体が見応え抜群ですが、もちろんここから見る景色も美しく、ザクセンのスイスの中でも人気のスポットとなっています。ドレスデンを訪れる際には、こちらもセットで行くことをおすすめします。
世界遺産登録抹消になった理由は橋がかけられたから
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ここまでご紹介してきた通り、ドレスデンの街やエルベ渓谷の魅力を知れば、世界遺産に登録されたと聞いても不思議ではないでしょう。
ただ、冒頭で述べた通り、この世界遺産登録は2007年に抹消となっています。その理由は、エルベ川にヴァルトシュレスヒェン橋という近代的な橋がかかったため。
世界遺産委員会は、橋を作れば登録抹消の可能性があることをザクセン州政府に伝えていましたが、最終的に政府は建設を断行しました。
その結果、登録の抹消が現実のものとなりました。そのエピソードだけを聞くと「もったいない」「なぜそんな橋を?」といった思いを抱くかもしれません。
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そこには事情があります。ドレスデンでは中心街周辺での渋滞がひどく、社会問題となっていました。そのため、住民の利便性を第一優先とした結果、橋を建設することになったというわけです。
実際に、最終的に建設を決定したのは住民投票でした。半数以上の市民が建設に賛成の意を表明したのです。
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世界遺産か利便性か。どちらをとるのが正しいかは、一概には決められないでしょう。
俳優で世界遺産検定1級を取得している鈴木亮平さんも、著書『行った気になる世界遺産』の中で、このドレスデンの珍しい事例を取り上げています。
この本はフィクションの妄想旅行記として書かれたものではありますが、ドレスデンの街を知り、世界遺産のことを考える上で、とてもおもしろい考察としても楽しめます。ドレスデンに興味を抱いた方は、ぜひチェックしてみてくださいね。
世界遺産でなくなっても、その美しさは変わらない
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ドレスデンは世界で二例目の登録抹消となった元世界遺産の場所。とはいえ、もちろん世界遺産に登録されているから美しいというわけではありません。
世界遺産でなくなっても、エルベ渓谷の豊かな自然と美しい街並みは健在で、さまざまな国からの観光客を迎えています。
ある意味、とても珍しい経緯を持った街ではありますが、歴史に興味がある方も世界遺産が好きな方も、一度ご自身の足でドレスデンという街を歩いてみてはいかがでしょうか。
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