夜明けの街角で
これは旅先ではなく、当時住んでいた街でのこと。
初めて就職した会社が合わず、僕はたった数ヶ月で辞めてしまった。
無職となり、次の仕事も決まらないまま、何をするでもない日々を過ごしていた。いつしか生活は昼夜逆転していて、夜中に街をうろうろと歩き回ることもあった。思えば、心が少し病んでいたのかもしれない。
あるとき、いつのまにか夜が明けて、鮮やかな朝焼けが空に広がっていた。早朝の街には誰ひとりいない。いつもの見慣れたはずの景色が、なんだかちがって見えた。
こんな時間までなにやってんだろう、と暗い気持ちになりながらも、朝焼けを背に立つ鉄塔になぜか惹かれて、僕は思わずスマホを向けていた。
この一枚を見ると、あのときの無気力さや焦燥感を思い出す。だけど、それでもなんとか前に進んできたこともまた、思い出す。
無価値に感じていた日々だったが、それもまた僕にとって必要な時間だったのかもしれない、とふと思う。
朝焼けを背に
旅先で出会った鉄塔たち
他にもまだまだたくさん鉄塔の写真はあるが、そのなかからいくつか、お気に入りのものを紹介していこうと思う。
まずは、京都の宇治市。さすがはお茶の名産地。鉄塔までが見事な抹茶色に染まっていた。
抹茶色の鉄塔
次は、ネパールのポカラでの一枚。ヒマラヤ山脈の一部を成すアンナプルナ連峰に昇る朝日を見に行ったときのもの。
展望台の片隅でひっそりと佇んでいた、不思議なデザインの鉄塔。雄大な山々の景色に感動したあとに見かけたこの奇妙な鉄塔が、どういうわけか心に残っている。
不思議な形
これは旅ではなく、大阪に住む友人の家の付近で見つけたもの。形の異なるふたつの鉄塔が並んでいるのがなんだかよくて、思わず撮影。
鉄塔にもいろいろと種類があって、それぞれのちがいを調べるのも面白い。
ふたつの鉄塔
特別な景色ではないからこそ
こうして振り返ってみると、僕が鉄塔にカメラを向けた記憶は、どれも疲れや迷いを抱えていたときのものばかりだ。
けれど、別に鉄塔に救われたとか、なにかが変わった、というわけではない。ただ、そのときそこにあった鉄塔を「なんかいいな」と思って見ていただけだった。
でも、そのただ見ていただけの時間が、あとになってくっきりと残っている。
鉄塔のある風景はけして特別なものではない。けれど、旅や日常の断片として、そのとき自分がなにを思い、なにを感じていたかを、そのまま保存してくれている。
これからも僕は、旅先や街中で鉄塔を見かけるたびにシャッターを切るだろう。次はどんな場所でどんな断片を残せるのか、考えるだけで楽しみだ。
夏の福井にて。車窓から見た夕暮れの田園に立つ鉄塔。
All photos by Satofumi Kimura