こだわりが生みだす多様性、人口200人の町でつくるクラフトホステル&サウナ〜北海道標茶町|達川慶輔さん〜
キャリアと人生 ・2023年3月20日(2023年3月20日 更新)
こんにちは、ひぐです。原付での日本縦断は冬の間、いったんおやすみ中。そんなわけで、この冬は北海道の道東エリアで実施された『道東トラベルウィーク2023冬』に運営として参加。
「#余白をえがく道東旅」をコンセプトに、北海道の大自然をベースにしながら、道東の魅力を満喫してきました。
いつもの旅にも増して多くの出会いに恵まれたのですが、今回インタビューしたのは『Kushiro Marshland Hostel THE GEEK(以下、THE GEEK)』を運営する達川さん。THE GEEKは、釧路湿原を眺めることができる場所に位置するゲストハウス&サウナです。
達川さんは神奈川から移住して、人口200人にもみたない塘路(とうろ)町にゲストハウスをつくりました。そんな無謀とも言える挑戦をしている達川さんに、ゲストハウスのこだわりやこれから目指すところを聞いてきました。
達川 慶輔(Keisuke Tatsukawa)
神奈川県横浜市育ち。高校3年間はスイスの全寮制学校で育ち、法政大学進学後、カルフォルニア大へ1年留学。卒業後は大手サイバーセキュリティ企業に就職し、法人営業として4年勤務し、2020年3月退職。2020年7月にTHE GEEKをオープン。21年4月末にサウナもスタート。
こだわりが詰まったクラフトホステル「THE GEEK」
photo by THE GEEK
今日はお時間いただき、ありがとうございます!こだわりの強さに魅了されたこともあり、ぜひお話をお伺いできればと思っています。THE GEEK(ギーク)、どんな場所にしようと始めたんですか?
この場所は「好き」が集まってほしいということでオープンした場所です。ゲストハウスと呼ばれることが多いですが、最近僕は「クラフトホステル」という言葉を使っています。
そうですよね。渋谷区を中心に活動しているクリエイティブスタジオ「& Supply」代表の井澤卓さんというレタリングアーティスト(文字を使ったアート)の方が「クラフトホテル」という言葉を使っていて、それを参考にしました。
イメージとしてはクラフトビールと近くて。もともと大手しかつくれなかった法律が変わり、マイクロブルワリー(小規模醸造所)でも、作り手の顔が見える”こだわり”のビールを作れるようになりました。
自分たちでこだわりを持ってつくるビールが増えて、クラフトビールと呼ばれるようになりました。その語源は実はクラフトマンシップ(職人技)からきてるそうなのですが、ホステルもこだわりをもってつくろうという。
なんとなく分かるような。「普通」じゃ物足りなくなって、こだわりが色濃く出るイメージです。
クラフトホステルはその土地ならではのローカルな魅力やつくり手の思想が滲み出たホステルのことを指していて、THE GEEKも僕や働くメンバーの顔・思想が見える場所にしたいと思っています。
こだわりが詰まった本棚
初めて来たときから、この居心地の良さの裏側には、きっといろんな思いが隠されているんだろうなと思っていました。この本棚とかすごいですよね。
この本棚はTHE GEEKに関するものを飾っています。サウナやコーヒーの本があったり、道東エリアで有名な厚岸ウイスキーの空き瓶やSLにまつわるグッズも置いています。
はい。サウナもプロデュースは「
The Sauna」の支配人である
野田クラクションベベーさんにお願いしましたし、コーヒーも東京からシングルオリジンのスペシャリティコーヒーの豆を取り寄せて、かつて世界一の透明度を誇った摩周湖の伏流水を使って淹れています。
サウナは温度もバッチリですし、椅子の座面の曲線美も感動したんですよね。コーヒーの香りが華やかだったのも納得です。
他にもお酒でいえば、世界的に評価されて今では全然手に入らなくなった厚岸もありますし、ここの建物の設計自体も……たくさんあります(笑)
釧路湿原を眺めながらのととのいは最高
達川さんが淹れるこだわりのコーヒーも絶品
共用スペースは一段下がっていて机を囲みながらゆっくり過ごせる設計
なかでも特にこだわってる部分はどんなところですか?
難しいですが……分かりやすいところだとサウナですかね。北海道で唯一、冬に運行される「
SL冬の湿原号」がこの場所から見えるんです。
塘路の魅力はたくさんあるのですが、この土地ならではの魅力はやはりSLだろうということで、鉄道をコンセプトにしたサウナを野田さんプロデュースのもとつくりました。
扉のとっ手には鉄道のブレーキハンドルを使っていたり、窓もSLや鉄道の車窓を意識してます。サウナのストーブには石炭を燃やす機関室を模した、大型薪ストーブを使用しています。薪を燃やして上がる煙は、まるでSLの黒煙さながらです。このストーブは今や手に入らない国産のもので、探すのも大変でした。
目に見えないところだと、実は岡山でつくったサウナを鉄道で輸送してきました。サウナをつくる過程でも、遠い場所から思いを乗せて運ぶ、というメッセージも込めました。
始まりはポートランド
正直大変なこともあると思うんですが、どうしてそこまでこだわりを持ってつくるようになったんですか?
もともとの性格もあるとは思うんですけど、それはホステルをつくろうと思ったキッカケに遡ります。大学時代にアメリカ西海岸に留学へ行ってたんですが、そのとき興味があったオレゴン州のポートランドという町に行きました。
ポートランドはビアバーナ(ビール天国)と呼ばれるくらいクラフトビールが有名だったり、サードウェーブコーヒーの流れを牽引する「スタンプタウン・コーヒー・ロースターズ」が誕生した土地。
ナイキの本社とかがある場所なんですが、街全体がこだわりに溢れたところでした。エースホテルという、”THE”ブティックホテルがあるのですが、そこに行った時の体験がとても印象的だったんです。
ひとりで過ごしていると、ビールづくりをしている人たちから声をかけられました。そしてヨーロッパの方や、現地のおじいちゃんおばあちゃん、LGBTQの方など、国籍や年齢、性別や職業など関係なく、気づくと皆で楽しくフラットに話していたんです。そのことにすごく感動して。
その場にいた知らない人同士が仲良くなって、交流会が自然と生まれるような空間を日本でもつくりたいと思いました。
THE GEEKが生まれるまで
留学を終えてからはどのようなことをしてたんですか?
それから日本のカフェやゲストハウスなどを色々と見て回りました。そのときに「日本にも理想に近い空間がある」と思ったのが、蔵前にある「
Nui. HOSTEL & BAR LOUNGE」でした。当時、アルバイトは募集してなかったのですが、交渉して面接を受けに行きましたね。
そうでもなくて。起業を前提に、できるだけ短期間でノウハウを吸収したい、良いものは真似して盗みたい、といった気持ちが全面に出過ぎていたのか、人生で初めてバイトの面接に落ちました(笑)
その後、東京で就職してからも、稼いだお金は色んなレストランやカフェなどに使ってました。
そこからどのような経緯でTHE GEEKをつくるに至ったのでしょうか。
就職してから5年が過ぎようとするとき、このままじゃダメだなと。仕事自体のやりがいはあったのですが、仕事内容はあまり楽しくなくて。人生の多くの時間を仕事に費やすのなら、自分の好きなことや自分の考えていることをもっと反映できるようにしたいということで、THE GEEKをつくるに至りました。