せっかく訪問した素敵な場所や素敵なまち。旅の記録を残したい、紹介したいという方も多いだろう。
情報技術が発達した現在、InstagramやX、Facebook、そしてnoteなど、インターネット上では誰でも手軽に発信することができる。
しかしデジタル化が進む現在でも、アナログな「紙」だからこそ伝わるものがあるのではないだろうか。自分がお店に立ち、対面で直接伝えることで感じる「何か」があるはず。
言語化が十分にできていないなか、その「何か」という直感に導かれ、仲間とともに「ZINE」という紙の冊子で表現することを決めた。
ZINEとは?
友人と歩いた街、洋光台。何気ない旅の日常を、ZINEに紡いでいく
「ZINE」とは「リトルプレス」ともよばれ。少部数で発行される自主出版物のことを指す(諸説あり)。英語の「マガジン(magazine)」に由来しており、出版社などによる編集を加えることなく、作り手が伝えたいものを自由に表現し、制作から販売まで行うのが特徴だ。
個人や団体の「好き」が爆発した、自由で超個人的な冊子。完璧でない部分も「味」ととらえ、作り手のこだわりや愛が詰まった作品を楽しめる。ちなみに制作にあたり、決められたルールは存在しない。テーマもサイズもページ数も紙の種類も印刷方法も、すべて作り手に委ねられているのも面白い。
筆者のZINEとの出会いは、偶然行われていたZINEの販売会に立ち寄ったことだった。所狭しと並べられ、作り手と直接対話を重ね、思いやこだわりを知り、素敵だと思ったものを購入する。書店で購入するのとはまた少し違う、贅沢で特別な体験。次第に自分自身もZINEの魅力に惹かれていった。
そして自分自身も作ってみたくなってきたころ、とある友人から誘いを受けることになる。
「ZINEを作って、一緒にZINEの販売会に出ない?」
こうして、自分自身初めてのZINEづくりが始まった。
制作開始
ZINEの販売会当日に行われていた朝市。対面でつくり手と話すのが心地いい
さて、ZINEを作ることが決まったものの、どんな旅をテーマにしようか。ふと、自分がZINEの販売会でつい買ってしまったZINEを思い出した、街を歩く中で見つけた面白いものを収集したZINE。個人的にも街を散歩することは大好きで、時間があるときには特にあてもなく、知らない町に足を踏み出している。(そんなおさんぽ旅の記録は、こちらの記事にも記載しています)
ZINEは好きが爆発したもの。だったら自分の好きなおさんぽ旅の記録を残してみたい。
こうして、テーマは、「まちのおさんぽ旅」に決まった。
テーマが決まれば、後は書き進めるだけだ。
「有名な場所ではなく、普段降りないようなまちで書こう」
「一緒におさんぽしているような臨場感あるものにしよう」
溢れ出るアイデアに時間をかけて悩みながら、ひとつひとつコンセプトを固めた。執筆時間は平日の仕事終わりや休日の隙間時間などの「ちょっとした時間」。時にはともに出展する仲間4人とオンラインで話し、時に励まし、相談し、ある程度完成してきたらお互いにフィードバックをしながら、それぞれの完成へと近づけていった。
実際、書いているなかでもアイデアはどんどん膨らむ。「この表現を直したい」「この写真はこちらのほうがいいのでは?」考えれば考えるほど、悩みは尽きない。結局、印刷会社に入港し、実際の「商品」が届いたのは販売当日の3日前。制作開始から4か月、なんとか間に合った。余裕を持った入稿がお勧めだ。
いよいよ出展当日
当日の雰囲気。仲間との多種多様なZINEが並ぶ
ZINE販売会当日。近所ではまち全体で本に関するイベントが行われ、大変な賑わいを見せていた。緊張しつつ、あーだこーだと言いながら仲間とブースを設営する。
12時、いよいよオープン。時間当初から多くの方が来場いただいた。
「こんにちは!」「立ち読みだけでもご覧になっていってください~!」
「どんな本なんですか?」「あ、ここ行ったことあります!」
積極的に話しかけ、お客様との対話のきっかけをつくる。
偶然立ち寄った方、ZINEが好きだという方、おさんぽが好きだという方、ZINEの中で取り上げた街を訪れたことがある方など、様々な方と対話した。一方通行ではない、対面販売だからこその醍醐味。実は、この時間で既に十分満足していた。
はじめて買って頂いたときの喜びは何にも代えがたかった。大変だったこと、楽しかったこと、色々な感情が一気に湧き上がってくる。数あるZINEのなかから手に取って頂けるのは本当に嬉しいことだった。
その後もお客様と対話したり、隙間時間を見つけて他の出展者さんのZINEを見に行ったり。気づけば、あっという間にイベント終了の時間になっていた。
制作・販売を通した「出会い」や「つながり」
当初考えていた、アナログだからこその「何か」。その答えはまだ出ていないが、そのひとつには出会いやつながりがあるのではないかと思う。ZINEを作らなければ、そして出展しなければ得られなかった偶然の出会い。
立ち寄り、話し、そして買って頂いた方とのつながり。そこで得られた生の声や交流は、日頃SNSで友人たちにシェアする中では得てこなかったものだった。会話で知り得たリアルな情報や購入後に頂いた嬉しい感想は、次回のZINE制作や出展へ向けた大きな原動力になっている。
また、筆者たちの出展の様子を見て、制作チームに加わりたいという嬉しい声も頂いた。おさんぽ旅好きな彼と歩くことで、旅の可能性もさらに広がりそうだ。
旅の記録手段は、デジタルだけではない。
少しの手間暇と時間をかければ、そこには紙媒体ならではの魅力が、そして対面だからこそ得られる出会いやつながりが、きっとあなたを待っているはずだ。
All photos by Nakashin