アメリカ南部に位置する、テネシー州メンフィス。ブルースの発祥の地として知られており、有名なビールストリート(Beale street)では、多くのライブハウスが立ち並んでいます。夜になると、あちこちから生演奏が聞こえてきて、お酒片手にふらりと寄ってしまいたくなる雰囲気。
またキング・オブ・ロックンロールこと、エルビス・プレスリーが録音したサンスタジオやエルビスが20年あまりの時を過ごしたグレースランドのほか、ギブソンのギター工場やメンフィス・ロックンソウル博物館などがあり、音楽好きにはたまらない街となっています。
今回はそんなメンフィスに当時20歳の私が1人で訪れ、南部のホスピタリティの高さを感じたエピソードをご紹介します。
❐エルヴィスを生んだ街「メンフィス」観光の魅力
旅中で一番印象に残っていること
「旅してていっちばん印象に残っていることは何?」と聞かれた時に、メンフィスで出会った黒人の男性を思い出します。メンフィスはアメリカ南部に位置する、ブルース発祥の地と言われる街。
またこの土地には、黒人文化が根付いています。現地に住むアメリカ人には、帰って来たときに「メンフィスは治安が良くない」と言われました。(出発前に言ってほしかったけど)
飛行機にわずか一人
この時わたしはアーカンソー州という超ど田舎に留学していて、そこから飛行機でメンフィスへ向かいました。なんとこの飛行場がめちゃくちゃ小さくて、飛行機自体も操縦士入れて定員8人!
乗客はわたし一人で、生まれて初めてプライベートジェットを体験したのです。
ダウンタウンのすぐ近くのホテルは高かったので、少し離れたところにホテルを取っていました。到着した翌日、ここから自力で行こうか、それともタクシーを呼ぼうか。それとも適当な人に乗せてもらおうか…と考えてホテルの前でウロウロしていたら、怖そうな黒人のおじさんに声をかけられます。
「ここで何してるんだい?」
ダウンタウンにどう行こうか考えていて、誰か適当に捕まえようかと思ってたことを伝えると、
「ここら辺の知らない人の車に簡単に乗るもんじゃない。携帯の番号、教えなさい」
とのこと。 え?携帯の番号?なぜよ?
「俺はこれから用事があるけど、それが終わったら戻ってくるから。その時に連絡する」
「え、あ、あの…名前は?」
「Rico」
言われるがままに番号を教えちゃったけど、大丈夫だろうか…。Ricoと名乗ったおじさんは何も言わずに車を走らせてどこかへ行ってしまいました。
これ、本当に戻ってくるの?自分で他の方法を探すべき?でも、もし本当に戻ってきた時に自分がいなかったら申し訳ないし…。
とりあえず待ってみることに
しばらく迷ってから、一人旅でそんな急ぐこともないんだし、とりあえずホテルで待機してみることにしました。メンフィスの前情報はBeale Streetという有名なストリートがあることしか知らなかったから、ちょうどよく他のことを調べる時間ができて、ちょうどよかったかも。
ホテルで時間を潰して1時間経過…これ、本当に戻ってくるのかな?不安になってRicoにメールをしてみると、「あと15分くらいで着く」とのこと。まじで戻ってくるのか…!
知らない黒人の車へ
ロビーで待っていると、本当にRicoは戻ってきました。「ダウンタウンに行くかい?」と言われたので、そのまま甘えて車に乗ることに。
今思えば、よくメンフィスで知らない黒人のおじさんの車に乗ったなーと思います。この人がどんな人かも分からない、どこに連れて行かれるかも分からない。なのに不思議と不安よりワクワクの方が少し勝っていて、知らないおじさんとドライブすることになりました。
「君はいくつ?」「なんでメンフィスに来たの?」「なんで一人なの?」まあ一人旅の時には、いつも最初に聞かれる質問をされて、答える私。
なるべく楽しそうに喋ってるんだけど、あんまりRicoは笑ってなさそう…?もともと無愛想な人なのかな?
わざわざ知らないアジア人の見た目16歳くらいの小娘を拾ってくれたのだから、よほどの世話好きかと思いきや、一通り基本の質問をすると黙ってしまいました。こういうことする人って、だいたいマシンガントークする人だと思ってたから、なんか拍子抜けした感じ。
目的地についてさよなら…じゃない?
しばらく走っていると、目的地の「Sun Studio」に到着。往年のスターがここで収録した伝説のスタジオ。若き日のエルヴィスもここで過ごしたと、事前に調べた情報で見ていました。
・名称:Sun Studio
・地図:
・住所:706 Union Ave., Downtown Memphis, TN
・営業時間:10:00〜18:00
・料金:14ドル
・公式サイトURL:http://www.sunstudio.com/
「今日はありがとう!じゃあ、また…」
「夜にまた電話しなさい」
…え?夜にまた電話?なんで?
「迎えに来るよ」
ちょ、まじか…。普通に考えれば憧れの王子様みたいな発言なんだけど、今喋ってるのは、ちょっと無愛想だけどなぜかやさしい黒人のおじさん。
「あ、ありがとう…。でも、もしかしたらタクシーで帰るかもしれないけど、なんかあったら連絡するね」
そう言うと、Ricoはさっさと行ってしまいました。とりあえず、無事に目的に着いたことにホッとして、Ricoの不思議な優しさになんだかほっこり。
そして夜に半信半疑で電話をしてみると、本当にダウンタウンまで迎えに来てくれて、滞在しているホテルまで送り届けてくれたのです。それがこの後、2日ほど続きました。