あなたが一番好きな小説ってなんでしょうか?
ある年の話題作かもしれないし、昭和を代表する純文学かもしれない。テーマが重たーい人間ドラマかもしれないし、ハラハラするサスペンスかもしれない。
photo by pixta
今回ご紹介するのは、読んだら実際に行きたくなる小説の舞台。現在、感染症対策で遠出を避けている方も多いと思われますが、この間に小説を読んで行きたい場所のストックを増やしておく、という形のステイホームはいかがでしょう。
旅の楽しみ方は人それぞれですが、本好きならではの旅をしてみませんか。
見出し
本好きにしかできない旅がある
動画やSNSの流行によって、本離れが叫ばれている昨今。ですが、やはり小説でしか得られない楽しみがあるのは、本好きの方なら強く同意してくれることでしょう。
photo by pixta
物語の内容にもよりますが、その小説の舞台を知っているとより楽しめたりもして、あまり地名がはっきりしていないときは「あそこかな?」なんて想像までしちゃいますよね。
そんな本好きにこそ楽しめる旅が、読んだ後にその舞台を訪れる、そしてその場で読む、という形の旅です。
photo by pixta
2016年には「聖地巡礼」という言葉が新語・流行語大賞で入賞しました。しかし、現地の空気感の中で作品を鑑賞するという楽しみ方は映画などではなかなか難しいでしょう。
一方、小説なら本を一冊バッグに入れていき、おめあての場所でパッと開いて読み始めることができるのです。好きな小説のの舞台で、その世界に没入してみませんか。
ここからは実際に、小説の舞台をご紹介していきます。特に読後感が良いものや、情景がありありと思い浮かび、ついつい舞台に行ってみたくなるものを厳選してご紹介しますね。
関西人に屈指の人気を誇る『阪急電車』
まず最初にご紹介するのは、『阪急電車』(有川浩)です。タイトルにもある通り、関西圏でトップクラスの人気を誇る電車、阪急電車にまつわるお話。
宝塚という地名を知らない方は少ないと思いますが、その宝塚駅と西宮北口駅をつなぐ約15分のローカル線「今津線」が舞台となっています。
photo by pixta
「たった15分だけの区間?」と、利用したことがない方には驚かれるかもしれません。ですがこの今津線沿いの町は雰囲気が良い場所も多く、小説を読んでから訪れると、「今日もこの短い路線の中でドラマが起こってるのかな」なんて思わせてくれるのです。
閑静な住宅街とカフェなどがある落ち着いた雰囲気の小林(おばやし)、大きな競馬場で有名な仁川(にがわ)など、下車してぶらっと小説に出てきた場所を目指すのも、自分が気になったお店に入るのも楽しいのではないでしょうか。
『神様のカルテ』の舞台は豊かな自然に囲まれた松本
『神様のカルテ』(夏川草介)は、現役医師が描く医療小説。若い医師が働く病院が主な舞台ではありますが、その病院があるのが長野県の松本市です。
photo by pixta
小説内でよく出てくるのは松本城公園。松本のシンボル的なスポットでもある松本城は観光名所としても大人気ですが、地元の人にとっては身近な場所のようです。
小説からは、単純に天守閣の美しさではなく、夜の松本城の雰囲気やどこから見る松本城が最も美しいかといった、一度訪れただけではわからない市民目線からの魅力を知ることができます。
photo by Daiki Okamoto
他に出てくるスポットとしては、赤い鳥居が並ぶ深志(ふかし)神社や、松本市から車で少し山の方へ向かった美ヶ原高原など、自然豊かな場所も。
町中で歴史に触れるスポットがあるだけでなく、豊かな自然に囲まれている松本という土地の魅力がよくわかり、実際に行ってみたくなること間違いなしですよ。
北海道の自然がありありとイメージされる『羊と鋼の森』
次は『羊と鋼の森』(宮下奈都)です。ピアノの調律師として一人前になることを目標に奮闘する青年が主人公で、調律の世界に少しずつ触れていくストーリー。
これは具体的に舞台が明記されている小説ではありません。ただ、タイトルにも入っている「森」というワードが、物語の中でかなり重要なものとなっています。
主人公が生まれ育ったのは北海道のどこか。この作品はそんな情景描写がとても素敵で、音楽と自然の世界のつながりを感じさせられる表現が多く出てきます。
photo by pixta
道央のある村が舞台のモデルになったという情報もありますが、一度自分の旅の経験からその場所を考えてみてはいかがでしょうか。
北海道には森と呼べる場所は数え切れないほどある、というのは誰しもがわかることですが、その中でも「ここじゃないかな?」なんてあれこれ考えるのも、小説を楽しむ一つの方法です。
photo by pixta
筆者としては、主人公が生まれ育った森は、ただただ鬱蒼としたところではなく、遠くに清らかな水の流れる音が聞こえる、といったイメージ。「オンネトーのあたり?いや、それとも斜里川が流れてる清里とか?」というふうに考えながら読み進めました。
おそらく読者によって違う場所をイメージするのではないかと思います。ここに間違いない!という方、ぜひいつか教えていただきたいです。
九州のあの町が出てくる『君の膵臓をたべたい』
衝撃的なタイトルと、爽やかでありながら切ない物語で一気に人気となった『君の膵臓をたべたい』(住野よる)。
舞台が明記されていないのは『羊と鋼の森』と同じですが、この作品は、知っている人が読めばどこかわかるような表現がされています。その舞台というのが、ある九州の街。主人公たちが住んでいる場所ではないのですが、とても重要な場所として描かれています。
photo by pixta
病気を扱った内容であるため、切なさや悲しさもある作品ではありますが、その一方で勇気をもらった方も多いのではないでしょうか。
具体的な施設名などは避けますが、登場する観光スポットやご当地グルメ、ショッピングモールやホテルなど、さまざまなご当地の要素が詰め込まれているので、まだ読んでない方はぜひその舞台にも注目して読んでみてくださいね。
『坊ちゃん』の町、松山で道後温泉に行こう
最後に紹介するのは、『坊ちゃん』(夏目漱石)の舞台として登場する愛媛県松山です。こちらは読んだことがなくとも、松山が舞台ということをご存じの方も多いでしょう。
といっても、坊ちゃんこと主人公は、作品内であまり松山のことを褒めません。むしろ、さまざまなトラブルに巻き込まれるので、松山という土地のことをあまり良く思っていないフシも……(笑)。
photo by pixta
それでも、なぜか「坊ちゃんがそんなふうに言うのは、いったいどういった場所なのかな?」と思わせるのが、この作品のおもしろさの一つでもあります。
photo by Daiki Okamoto
唯一の救いとして、坊ちゃんは松山の名湯「道後温泉」のことは大層気に入っています。松山で最も人気の観光スポットとも言える道後温泉ですが、小説を読む前と読んだ後では、訪問の際の気持ちが変わってくると思いますよ。
小説の世界と現在の松山では、時代背景も何もかも違いますが、共通する部分も見つけられるかも。坊ちゃんが感じたことを追体験しに松山へ行ってみるのも一興です。
読んでから行く?現地で読む?
photo by Daiki Okamoto
ここまで5つの小説の舞台をご紹介してきましたが、行きたくなった場所はありましたか?また、読みたくなった作品はありましたか?
今は旅をお休みしているという方も、描かれた舞台を想像しながら読書したり、今後行きたい場所を小説を読みながら考えたりするのもおもしろいのではないでしょうか。
「この作品がなければここに行くことはなかった!」という一冊に出会えることを願っています。