特に、旅の途中で何度か繰り広げられる喧嘩やお互いに対する不満や愚痴も、お互いが書き綴っているので、読み比べて「確かにその言い分はもっともだ」と、思わず同意してみたり……。
著者一人ひとりの好き嫌いや感動のツボが分かってくると面白く、また、二人の仲の良さも伝わってきます。
2人のタンデム自転車旅最大の危機。3度目の中国でついにキレる。
望むと望まざるに拘わらず、2人は3度も中国を走っています。
私自身、中国へは行ったことはないものの、そのトイレ事情や衛生面の悪さは本著以外にも多くの旅本でその壮絶な様子が紹介されています。
溝を掘って一列に跨がって用を足す。目の前には丸出しのお尻……扉も囲いもなくても平気な感覚は到底理解できません。
そんなトイレ事情にとうとう妻・トモ子は激怒。9年間に及ぶタンデム自転車旅最大の危機が訪れます。まぁ、彼女が怒るのも理解できますが。海外でのトイレ事情は、特に女性にとっては重要ですよね。
海外生活が長くなると、日本のウォシュレットがこの上なく恋しくなるのは多くの旅人共通の思い出はないでしょうか。
旅の終わりを意識させるエピソードと2人の思い
「旅を終える」感覚というのは、本著のような10年半にも及ぶ長期間且つ、日本に戻っては改めて目的地へ向かう旅の場合、「何をもって終わりとするか」というのは定義が難しいはず。
実際、本著巻末でも著者・一成は「ゴールの仕方」について5年目くらい、ちょうどドイツに両親が来た頃から考え初めていたと書き綴っています。
実際は、そこからさらに5年間走ることになるのですが……(笑)。
著者・トモ子は「もう一度私の思い通りに世界一周をやり直してみたいよ」と振り返ります。
よく旅にたとえられる人生、夫婦……。タンデム自転車で世界を走ってきた夫婦が、これからどんな旅を経験していくのかがとても楽しみです。続編もしくはこの2人の違った旅も読んでみたいと思いました。
まとめ
当初、「自転車」「タンデム」「88カ国」「10年」「夫婦」……あまりにも自分とかけ離れたキーワードに、ピンとこないまま表紙をめくりました。が、そんな感覚はすぐに消し飛びます。面白いのです!
通常の旅本は、旅に対して視点は一つ(当然ですが)。しかし、タンデム自転車の旅は、同じ旅なのにそこには2人の視点があることが驚きであり、とても新鮮でした。
同じ道を走り、同じ景色を見ても感じ方は微妙に異なったりします。喧嘩もしかり。10年半の旅を綴った本著は、ボリュームもあり読み応え十分ですが、のんびり自転車旅を楽しむような気持ちで読んでみてはいかがですか?
素適な二人の魅力的な旅、「夫婦でのんびり旅するのもいいな」と思わせてくれる一冊です。