3つの旅スタイル
ライター

旅人になってからの約10年間で23カ国を巡った薬剤師です。会社員をしながら、1週間で地球一周を達成しました。医療機関・営業・キャリア支援・編集・ライターと多彩な経験を持ち、熊本と東京を行き来する二拠点生活中。日常にあふれている幸せや、人の心と体によりそう物語作りが得意です。

とある洋画で耳にした「Hello トッペルゲンガー」というセリフが、ずっと頭に残っている。

トッペルゲンガーとは、自分とそっくりな“分身”のこと。
文学や映画では、内面に潜む本音や不安を映し出す存在として描かれることもある。

私は幼い頃から、「人前で泣くなんて見苦しい。泣くな」と言われて育ってきた。

だから人前で涙を見せることはほとんどない。どんなにきつい仕事でも泣いたことはなかった。

だけど旅先では、結構泣いていたことに気がついた。きっと、旅の中でふと出会った“もう一人の自分”に、本当の私は揺さぶられていたのだろう。

私は30代の既婚女性だ。

人前で泣くのもそうだけど、年齢が20代後半から30代になると、いろんな“しがらみ”が出てくる。なかなか「ふらっと旅に出る」というわけにはいかない。

それでも、どうしてもやめられないのが旅。今回は、そんな私が愛してやまない3つの旅のスタイル「一人旅、女子旅、家族旅」について、それぞれのエピソードとともに、旅が私に見せてくれたトッペルゲンガーの姿を振り返ってみたい。

一人旅で自由に漂う、バックパッカースタイル

人生のターニングポイントにはいつも一人旅があった。

だから、なんだかんだ一番好きなスタイルかもしれない。

私は2018年に結婚したのだが、その前に人生で一度だけでも「留学」というものをしてみたかった。いわゆる独身さよならパーティーのような感覚だったかもしれない。

そして念願かなってフィジーに留学することになった。

フィジー②
忘れられないフィジーの透き通った海photo by Risa Yamada
その留学が終わった後、「せっかくオセアニアにいるんだから、ついでにニュージーランドとオーストラリアにも寄ってから日本に帰ろう!」と思いついたのだ。

そのときから計画性はないが、なんて欲深い人間なんだろうとつくづく思う。思えばこのときが初めての一人旅みたいなものだった。

シドニーから3時間のフライトで辿り着いたのは、某映画でも有名な世界の中心・ウルル(エアーズロック)だった。

初めて目にする真っ赤な大地、それと対比する青い空。

地球のへそ「エアーズロック」地球のへそ「ウルル(エアーズロック)」photo by Risa Yamada
歩きながら、私はなぜかフィジーでの出来事を思い出していた。20歳くらいの若い子たちに囲まれて年齢や価値観のギャップに戸惑ったこと。英語を学びに行ったはずなのに、全然聞き取れなくて落ち込んだこと。そして、もう会えないあの笑顔。

赤土でスニーカーはすぐに汚れ、トゲのある植物の横を通ると「サソリとかいそうだな」と急に警戒心が芽生える。そうして現実に引き戻されながらも、目の前に広がる自然の偉大さに圧倒された。

せっかく砂漠まで来たから、ラクダにも乗ってみたい。

オースのラクダ (1)
ウルルのラクダたちphoto by Risa Yamada
飛び込みに近い形で予約したラクダツアーは、英語のみの説明ということもあり、日本人は私と男性の二人だけだった。

体は独特な獣の匂いに包まれながら、「ラクダはペットなのか、乗り物なのか、いや……旅の相棒なんだ!」と、自由と孤独を味わいながら、そんなことを考えていた気がする。

ラクダに乗って、遠くにそびえるウルルを見つめたとき、非日常の高揚感と一人でいる不安とが、同時に押し寄せてきた。

目の前が霞むほどの感情と、胸を奪う美しさ。加えて「地球って本当に大きいんだ」と体感した時間でもあった。

今の私が当時の自分を振り返ると、「よくこんな無茶な旅ができたな」と思う。

でも同時に、この経験があったからこそ、今も強くいられるのだ。あの頃の破天荒な私が、私を支えてくれる。昔の私が今の私にエールを送ってくれている気がしてならない。

女子旅で深まる友情と“あの頃”へのタイムトラベル

一人旅もいいが、女友達との旅には、また違った楽しさがある。

2023年から2024年の年末年始、私は高校からの友人とシンガポールでカウントダウンを迎えた。普段東京にいる私は、旧友とは遠く離れて暮らしている。

マリーナベイサンズ
水面に映るマリーナベイサンズphoto by Risa Yamada
久しぶりに会った彼女は少し大人びていて、それでも学生時代の笑顔は変わらない。数年ぶりでも、会えばすぐに高校や大学のノリに戻れる。女子旅の醍醐味は、まさにそこにあるのだと思う。

昼間は化粧品や香水を見てまわり、ショッピングを楽しむ。綺麗な服で街中を歩く友達を見て、

「ワンピースでも持ってくればよかったな」といつもの“一張羅”で写真に写る自分がいた。

シンガポールの街中治安がいいシンガポールの街中photo by Risa Yamada
夜はホテルの部屋で恋バナや人生相談。

「じつはあのときこうだったんだよ」なんて、昔は言えなかった本音がぽろりとこぼれる。お互いの暮らしは大きく変わっていても、語り合えばすぐにあの頃に戻れる気がした。

話す内容も昔とほとんど変わらない。元彼がどうなったとか、誰と誰が結婚したとか。「もう子ども二人?」「え、離婚!?」なんて驚いたり。

高校生のときも、あの人と目が合ったとか、先輩がかっこいいとか。そんな話で盛り上がっていた。30歳を過ぎても、女子が好きな話題は16歳のときとほとんど同じだ。

セーラー服が少し高めのワンピースに変わり、学生カバンがブランド物に変わっても、関係は変わらない。舞台が九州からシンガポールに移っても、私たちの距離感はあの頃のままだ。

くだらない話でも、涙が出るほど笑い合える。気づけば、とても生きている感覚を取り戻していた。日常の中では忘れかけていた感情が、女子旅では自然と蘇ってくる。

シンガポール マリーナベイサンズ昼間とは違う顔を見せる夜のマリーナベイサンズphoto by Risa Yamada
マリーナベイサンズの夜景を前に、彼女の後ろ姿を見つめながら、「もしかしたら、これが彼女との最後の旅かもしれない」と、心のどこかで考える。

女性は結婚や出産でライフステージが大きく変わる。会いたいときになかなか会えないもどかしさ。そうした思いも交差して、少し泣きそうになる。同じ時間を過ごしているこの時間は奇跡であって、だからこそ「一緒に来てよかった」と余計に思う。

女子旅の本当の魅力は、観光地や写真映えよりも、話をしながら友情を確かめ合うこと。あの夜、泣いて、笑って、生きている実感を取り戻した瞬間こそが、何よりの宝物だった。

ライター

旅人になってからの約10年間で23カ国を巡った薬剤師です。会社員をしながら、1週間で地球一周を達成しました。医療機関・営業・キャリア支援・編集・ライターと多彩な経験を持ち、熊本と東京を行き来する二拠点生活中。日常にあふれている幸せや、人の心と体によりそう物語作りが得意です。

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