ライター

北海道出身、関西在住。読書と珈琲と文筆と旅を愛する31歳。インドとネパールが大好き。2025年、珈琲屋をオープンし、自家焙煎豆を人々に届けている。夢は旅する珈琲屋兼作家。

先生の言葉

「大きな世界を見るといい」と、先生は僕に言った。

それは大学三回生の3月、ゼミの先生の研究室を訪ねたときのことだった。

当時、所属していた演劇サークルの活動にのめり込んでいた僕は、ろくに授業にも出席せず学業を疎かにしてしまっていた。

そのために単位が足りず、留年が決まったのだった。

しかし先生は、留年の報告に来た僕を「あ、そうなの?」と笑い、なんでもないことのように受け止めてくれた。

そのあとも先生は「まあ頑張りなさい」と言い、終始にこやかに、時折冗談を交えながら、いろんな話をしてくれた。

そして、不意に言った。

「君はそうだね、大きな世界を見るといいよ」

あまりにもさらっと、何気なく言ったので、危うく聞き流すところだった。けれど、これはきっと大切なメッセージにちがいない。そんな気がして、僕はその言葉を胸のうちで何度も反芻した。

「大きな世界って、なんですか?」

思わずそう聞くと、先生は少し笑って「それは自分で考えるんだよ」とだけ言った。

研究室をあとにした僕は、その言葉の意味を考えてみた。

大きな世界……それは一体なんだろう。先生は僕に、何を伝えたかったんだろう。

その答えが見つからないまま、僕は残りの大学生活を過ごし、卒業を迎えた。

しかし就活はうまくいかず、結局どこにも就職が決まらないまま僕は大学を出てしまった。

これからどうすればいいのか。こんな僕に、「大きな世界」なんて見つけられるのだろうか。

迷いと悩みのなかでもがきながら、先生の言葉の意味を探す僕の旅が始まった。

飛行機迷いを抱えながら飛び乗った飛行機

初めての一人旅

就職せずに卒業した僕は、父の勧めもあって旅に出ることにした。

行き先はインドとネパール。初めての海外一人旅だ。

見たことのない景色、香り、食べもの、人々。すべてが驚きと興奮に満ちた、刺激的な経験だった。

だが同時に、うまくいかないことも多かった。精神的にも未熟な上に内向的な性格で、コミュニケーションがうまく取れず、トラブル続き。次第に疲れが溜まり、だんだんと自分が嫌になっていった。自己内省の連続だった。

帰国後、僕は先生の言葉を思い出した。

大きな世界を見るとは、こうして日本を離れ、異国を旅することを意味していたのだろうか。

だとしたら、単身インドに繰り出し、旅の中でいろんな出来事や人に出会い、失敗を繰り返し、自身を見つめ直した僕は、その言葉の答えに近づけているのかもしれない。

……けれど、そういうことではない気がした。

ただ旅に出る、という単純なことではない。きっと、もっと別の意味があるはずだ。

僕の旅は、まだまだ続くのだった。

India初めての一人旅、インドは驚きの連続

ライター

北海道出身、関西在住。読書と珈琲と文筆と旅を愛する31歳。インドとネパールが大好き。2025年、珈琲屋をオープンし、自家焙煎豆を人々に届けている。夢は旅する珈琲屋兼作家。

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