「いつか、たくさんの人を救えるヒーローになりたい。」
子どもの頃の私は、本気でそう思っていました。困っている人に迷わず手を差し伸べられる、そんな大人になりたいと。そのきっかけのひとつとなってくれた本が、『世界がもし100人の村だったら』。世界には十分な食事ができない人がいること。同じ地球に生きていても、生まれた環境によって当たり前は違うこと。
その現実を知り、「私にも何かできることはないだろうか」と考えるようになりました。社会人になってからは、そんな小学生の頃の自分との約束を守るために、できる範囲の寄付も続けてきました。でも、そのたびに今度はこんな疑問がわいてきます。
「本当に、誰かの役に立てているのだろうか……?」
私が地球一周の旅に出た理由のひとつは、その答え探しでもありました。世界を知れば、“何か”が見つかる気がしていたのです。
地球の自然に、魂が震えた。
そうして地球を東回りに一周したとき、地球は本当に丸かったんだ!と感動したのを覚えています。この地球は私たちにとってかけがえのない、たったひとつの家だということも実感。
アイスランドでは、プレートとプレートの狭間に立ち、間欠泉が勢いよく噴き上がる瞬間を目の当たりにしました。何千年、何万年という時間をかけてつくられてきた大地。その鼓動を全身で感じたとき、「地球は生きている」という言葉の意味がわかりました。

ケアンズでは、家族と一緒に満天の星空を見上げました。何光年も前に放たれた光が、今この瞬間、私の目に届いている。その景色を前に、「この惑星に、この時代に、この命を生きている。」それだけで奇跡なんだと、胸がいっぱいになりました。

人との出会いを通して広がる世界。
ふり返ってみると、旅路で出会った人はみんな私の先生でした。昨日までは知らなかった人と語り合い、優しさに触れ、生き様に励まされる。人との出会いと通して、自分の中にあった当たり前や常識に気付かされ、何度も揺さぶられながら視野が広がっていった気がします。
ベネズエラはとても温かい国でした。心動かされたのは、「武器ではなく、楽器を」という理念のもとで行われていた音楽教育。歌や楽器で奏でられる音から愛が伝わってきて、自然と温かい涙が溢れてきます。

グアテマラでは、子どもたちを支える団体「ミンナサン」を訪れました。ここで、寄付された物資がどのように子どもたちに使われているかを知ることができました。「子どもには希望を与えたい。」ここで出会ったこの言葉は、今でも私の背中を押し続けています。

平和なくして、旅はできないから。
本当は美しい景色だけをみていたい。だからこそ、時にはそうでない現実に目を向ける必要があるかもしれない。
日本を離れてみると、いかに安全で豊かな生活に恵まれていたかを痛感させられることがあります。
真夜中に路上で花を売る子どもたち。
ひと駅移動しただけで、驚くほどの貧富の差。
目をそむけたくなるような現実を突きつけられるたびに、「ここにいたのは私だったかもしれない」と何度も思いました。これまで遠い国の話、ニュースの中の出来事だったはずの世界が一気に自分ごとになったのです。
そして国連本部を訪れたとき、改めて思いました。平和がなければ、旅することもできないし、同時に旅するからこそ平和をつくることができるのだと。

私にできる一滴を重ねたい。
こうして旅を重ねるたびに、本当に大切にしたいものに気付かされ、守りたいものも少しずつ増えていきました。
それは、暮らしを支えてくれる自然。人とのつながり。そして、その土台となる心身の健康と平和な世界。そのどれもが密接に関わりあっていることを痛感したのです。
『ハチドリのひとしずく』辻 信一/光文社
これは旅をしている中で、出会った1冊の本にある言葉。南米アンデス地方の先住民族に伝わるお話です。
「私がしている小さなことに、はたして意味はあるのか……」そう疑問を持っていた私にとって、光となってくれた言葉でした。
一人ではできないことも、一人の一歩から始まる。無意味なことなんて何もなかったんだということ。たくさんの人を救えるヒーローにはなれなくても、いま目の前にいるたったひとりの人から大切にしようと心の底から思えたのです。
旅は、私に明確な答えをくれたわけではありません。でも、そのたびに、「私は、どんな人でありたいのだろう。」という問いを思い出させてくれました。あらゆるシーンで、あのときあの選択をしていたら良かったかな、と考え込むことがあるけれど、「その時の精一杯のありたい自分」であれたなら、全部正解だったと言える気がする。
世界に関心を持ち続けること。誰かの痛みに想像力を働かせること。今日の私にできる小さな一滴を重ねること。どんな自分でありたいか、その問いとともに生き続けることが、人生という旅なのかもしれません。
私は、これからも旅を続けます。
世界を旅して、自分を旅しながら。
このたったひとつの地球と、そこで生きる仲間たちを大切にできる人でありたい。
All photos by Karin