「最後の晩餐」とは?何がすごいの?
そもそも何の場面?
数多くの画家がこのテーマを元に壁画として、キャンバス画として描いてきましたが、最も有名なのがこのサンタ・マリア・デッラ・グラツィエ教会の、レオナルド・ダ・ヴィンチが描いた「最後の晩餐」でしょう。
1495年から3年の年月をかけて、当時彼のパトロンだったミラノのルドヴィーコ・スフォルツァの依頼で描きあげました。
3年もかけて⁉︎ と思いますが、ダ・ヴィンチは遅筆だったため3年でも割と早い方です。そしてほとんどの作品が未完と言われているレオナルドの作品の中でも、数少ない「完成した」ものです。(「モナ・リザ」も死ぬまで描き足していました)
「最後の晩餐」はキリスト教の聖書に登場する、キリストの最後の晩餐の情景を描いています。特にレオナルドの作品では、ヨハネの福音書13章21節より、「12人の弟子の中の一人が私を裏切る」と予言をした瞬間のものです(だから皆びっくりした感じなんです)。
絵の中の登場人物は左から下記の通り。
photo by kohda satomi
バルトロマイ、小ヤコブ、アンデレ、イスカリオテのユダ、ペトロ、ヨハネ、イエス、トマス、大ヤコブ、フィリポ、マタイ、ユダ(タダイ)、シモン
この「イスカリオテのユダ」がイエスを裏切るユダです。手にはイエスを「売った」際に手に入れた銀貨の袋が握られています。
絵画の技法的観点
「最後の晩餐」は当時としては画期的、かつ珍しい方法で描かれました。
まず1つ目が、「一点透視図法」が用いられていること。もともとこの壁画が描かれたのは修道院の食堂の中でした。そして絵は床から高さ約2mの位置に描かれています。
photo by kohda satomi
この画法を用い、部屋の奥行きを表現しながら描くことによって、部屋のある位置から見ると、絵画の天井の線と、実際の壁と天井の境が繋がり部屋が壁の奥まで広がっているように見えたのです。
ちょうど修復中にイエスのこめかみあたりに穴が空けられていたのが見つかり、この画法を使ったということがわかりました。
つまり当時修道院で食事をしていた人たちは、まるで同じ部屋でキリストと十二使徒と食事をして、その「瞬間」に立ち会っている気分になっていたということなんですね。
そして2つ目が、「テンペラ画」で描かれていることです。
通常西洋絵画では壁画や天井画は、フレスコ画の技法を用いて描かれます。壁、または天井に漆喰を塗り、乾ききる前に顔料を載せていく方法です。この方法だと壁そのものに色が付けられるため、絵はほぼ永続的に保存されます。
有名なバチカン市国のシスティーナ礼拝堂にある、ミケランジェロの壁画「天地創造」「最後の審判」はフレスコ画で描かれています。
photo by pixta
しかしこの技法の難点は重ね塗りや描き直しができないこと、漆喰が乾くまでに描ききらないといけないこと、そして使用できる色彩に限りがありました。
レオナルドは時間の制約を嫌い、かつ写実的に描くには重ね塗りが不可欠だったため敢えて壁画には向かない「テンペラ画」で描きました。テンペラ画は卵、ニカワ、植物性油で顔料を溶くため確かに重ね塗りは可能ですが、湿度に弱いという欠点がありました。
ここで、思い出してください、この絵が描かれた場所を。修道院の中の「食堂」です。食事の湯気や人間の呼気と湿気だらけです…!
そのため、レオナルドが生きている1510年の時点でも目に見えて顔料の剥離が進んでいたそうです。
16世紀から20世紀にかけて何度も修復が繰り返されて(誤った修復もされました)、一時期は「もうダメか」と思われるまで傷みが進んでいましたが、1977年から約20年かけて「洗浄作業」が行われ、後世の加筆が取り除かれてレオナルドのオリジナルの線と色彩が取り戻されました。
戦火を逃れた奇跡の壁画
第二次世界大戦真っ只中の1943年、イタリアのムッソリーニによるファシスト政権に対抗したアメリカがミラノを空爆しました。この空爆でミラノにある建造物の43%が全壊しました。
この空爆で、食堂自体も右側の屋根が半壊しましたが、壁画のある壁は絵を案じた修道士達の指示のもと土嚢が積まれ、さらに組まれた足場で保護されていたため奇跡的に残りました。
それでもその後3年間屋根のない状態でした、風雨にさらされないよう土嚢は積まれたままでしたが、その間にも傷みは進みましたがどうにか壁は崩壊せずに残りました。
従いこの「最後の晩餐」はもはや存在していることが奇跡とも言えるのです。
さあ「奇跡の絵」を見に行こう!
名前だけは多くの人がおそらく知っているあろう「最後の晩餐」。でも、今私たちが見ることができるこの絵は、500年以上数々の困難を堪えながら、そして多くの人たちの助けによって、本当に奇跡的に存在している絵なのです。
これから見に行かれる人は、おそらく何重にもなった扉、厳重に決められたルールに驚かれるに違いありません。私もあまりにも厳格に管理されていて、折角見ることができた「最後の晩餐」の前を、後ろ髪をグイグイ引かれながら後にしました。
でもすべてはこの「人類の至宝」を守るためのルール。
高い倍率を勝ち上がって、この作品との対面の貴重な時間を手に入れることができたからには、最高の時間を過ごしましょう!