編集部
Asuna エディター

元小学校教諭。大学在学中に「海外ひとり旅」にハマる。現在はTABIPPOの編集部に所属。ほかにも取材・美容・食・コラムライターとして活動しつつ、個人でFamily photographerとして、お宮参り・七五三・前撮りなどを撮影している。週末は夫と旅三昧の日々で、長野〜福島県は庭。東北が大好きで、地方に行きつけの店を作るのが趣味。

人が育ち、生きるとき、共にいてくれたら良い

photo by Asuna Igari

笠間焼/中野明彦

中野さんの作品に出会ったのは、いつものように笠間に陶器を見に行ったときのこと。「笠間焼space nico」というギャラリーに並べられていた彼の作品に一目惚れをしたのでした。

素朴でどこか温かさを感じる色合いや、マットな素材感。目で見ても、手で触れてみても魅力を感じる作品でした。

残念ながらその日は購入することができず、後日オンラインで探そうにも売り切ればかり。そんなわたしの憧れの陶芸家さんに、今回はお話をたくさんうかがうことができました。

陶芸家は、作り始めたら止まれない

photo by Tatsuya Igari
自宅の一室を、離れの工房と直接行き来できるように土足部屋に改造した中野さんは、そう話してくださいました。一度成形した土は、素焼きをする前に水分が抜けきるくらい乾燥させます。

梅雨の時期でなければ大体1日もあれば作品は乾いてしまうのだそう。素焼きをする前に十分に乾かさないと、焼いた時にパキッと割れてしまったり、ひびが入りやすくなってしまうことも。

その日の気温や湿度、気候や季節を考えながら作り続けると、作品を本焼きするまでは手も心も休めることはできないのだそうです。

photo by Tatsuya Igari
中野さんが陶芸家を目指し始めたのは28歳の時でした。今のわたしと同じ年齢。わたしもこの年齢から転職を決意し転職1年目を過ごしているので、三十路を前にすると何か心境の変化だったり、人生の岐路に立たされることが多いのでしょうか。

以前は陶芸とは全く関係のない仕事についていたけれど、「生きて行く上で、何かやってみたい」と思い立ち、元々興味のあった「伝統工芸」の道に進むことを決意したのだそうです。

中野さんの隣で写真に写っているのは、奥様の中野智子さん。彼女もまた、和柄の雑貨やアクセサリーの製作を手がける作家さんです。中野さんが陶芸の道に進んでしばらくしてから、二人は出会い、結婚。今では夫婦互いの「ものづくり」の時間を尊重し合いながら、製作をされているのだそうです。

陶器の色づけは染料ではなかった

photo by Tatsuya Igari
中野さんの作品の中には、黒や白、ブラウンなどの他に、青と緑の間のような色のものがあります。陶器を作る際に、色をつけるものは「釉薬(ゆうやく)」といいます。

原料の粘土などを成型後表面にかける薬品のこと。焼くことでガラス状になり器の表面をコーティングする「うわぐすり」とも呼ばれる液状のものです。

色をつける際は、この釉薬にある物質を適量混ぜ合わせることで、釉に溶け込み色釉となり、陶器に色がつくのです。聞いたところによると、釉薬に鉄を混ぜると赤や茶色っぽく色がつき、マンガンという金属物質を混ぜると、こちらも茶色っぽくなるのだそう。

photo by Tatsuya Igari
そして、10円玉で馴染み深い銅を混ぜると、なんと緑がかるのだとか。これは、窯内に酸素を十分に取り込んで、徐々に温度を上げ、青白い炎で焼くという「酸化焼成」という方法で焼いたときに起こる釉薬の変化で、古くなった10円玉が酸化して緑色になってしまう現象と同じなのだそう。

また、この物質も混ぜて使うことで、絵具を混ぜ合わせるように色を変化させることができるのですって!とても興味深い話でした。

土の塊だったものを、こねて空気を抜くことで扱いやすくする工程を「菊ねり」というらしいですが、「なんで菊?!」と不思議に思ったのでたずねたところ、実際に見せてくださいました。

photo by Tatsuya Igari
手のひらの付け根あたりで、ぐっと押しながらこねてクルッと回転させてまたこねて…を繰り返すと、このように菊の花みたいになるのです。この作業を上下繰り返すと、満遍なく全体の空気が抜けて、扱いやすくなるんだそう。

こだわり、そして陶芸に込めた想い

photo by Tatsuya Igari
陶器を作る上でこだわっていることは「使いやすさ」だと語る中野さん。何よりも、大事に生み出した陶器たちが「使ってもらう」ことが一番嬉しいのだそう。せっかく買ってもらっても、大事に棚の奥にしまわれているのは寂しい。そこで、

・主張しすぎない雰囲気
・料理の邪魔をしないデザイン

を大切にしているのだそう。だからこそ、中野さんの作品は、素朴でシンプルで、料理の素材そのものを引き立てることができるんだなぁと改めて思いました。

photo by Tatsuya Igari

人が使うということ。人が育ち、生きるとき、共にいてくれたら良い

陶芸に対する想いを語ってくださった中野さん。彼自身の温かい人柄、陶芸という伝統工芸、そしてモノづくりに対する想い、その全てを詰め込んだものが、中野さんのひとつひとつの作品そのものなのだと感じました。

「買って欲しい」「広めたい」という想いよりも先に語られた、「共に生きる」という言葉。心を打たれたのはいうまでもありません。こんな温かい想いを持つ陶芸家が心を込めてつくる、たったひとつの陶器。これからも、わたしはずっとお世話になりたい、そう思いました。

中野明彦さんのSNSはこちら
公式Instagram
公式Facebook

お気に入りの陶器をお迎えしよう

photo by Tatsuya Igari
さて、ここまで読んだあなた、自分のお気に入りの陶器が欲しくなってきましたか?全国各地で、陶器市は毎年開催されていて、それぞれの地域ならではの作品もたくさん見て購入することもできます。

もちろん、陶器市には全国から陶芸家が作品を出品しているので、他県の焼き物にも出会うことができるのです。最近では、オンラインでも陶器を購入できるサイトが増えてきています。最後に3つおすすめのサイトをご紹介します!

おうちで楽しむ陶器市うちる
和食器中心に、さまざまな作家さんの陶器を購入することができます。

大人の焼き物
こちらも和食器中心のオンラインショップ。作家名や窯元から商品を探すことができます。

作家の器casafe
笠間焼の作家さんの作品をオンラインで購入することができます。中野明彦さんの作品も掲載されています。

陶器にこだわる暮らしがくれる豊かな時間

photo by Asuna Igari
日本の伝統を受け継ぎ陶芸家が心を込めて作った、世界にひとつしかない陶器。あなたのお気に入りを見つけておうちごはんをもっと幸せな空間に。

お気に入りの洋服をまとうように、料理にもお気に入りの陶器をまとわせてあげる、そんな暮らしはいかがでしょうか?

編集部
Asuna エディター

元小学校教諭。大学在学中に「海外ひとり旅」にハマる。現在はTABIPPOの編集部に所属。ほかにも取材・美容・食・コラムライターとして活動しつつ、個人でFamily photographerとして、お宮参り・七五三・前撮りなどを撮影している。週末は夫と旅三昧の日々で、長野〜福島県は庭。東北が大好きで、地方に行きつけの店を作るのが趣味。

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