ライター
コージー 世界遺産ライター

1994年生まれ。スポーツニッポン新聞社を経て、フリーライターに。大学時代のタイ留学で旅にハマり、バックパッカーデビューを果たす。世界遺産検定マイスターで、1000件以上登録されている世界遺産全制覇が夢。

こんにちは、世界遺産ライターのコージーです。「コージーの世界遺産探検記」と題し、日本各地の世界遺産を巡っています。

今回訪れたのは静岡県の韮山反射炉、山口県の萩反射炉と松下村塾、鹿児島県の旧集成館の4資産。

いずれも2015年に世界文化遺産に登録された『明治日本の産業革命遺産 製鉄・製鋼、造船、石炭産業』(福岡、長崎、佐賀、鹿児島、熊本、山口、岩手、静岡)を構成する資産です。

世界遺産の魅力は、建築物そのものの価値だけではないのだと実感した旅でした。

8県11市23資産で構成されるシリアル・ノミネーション・サイト

韮山反射炉
東京から鈍行で電車を乗り継ぎ、約3時間。さらに伊豆長岡駅から歩いて30分。静岡県伊豆の国市にある世界遺産・韮山反射炉が見えてきた。

都内の自宅を出た時は曇り空だったが、伊豆長岡駅に着く頃には、雨が降り始めていた。韮山反射炉に向かう道中、その雨はどんどん強まっていった。

韮山反射炉ガイダンスセンター
まずは韮山反射炉ガイダンスセンターに入る。大粒の雨が、まるで雪みたいだ。

韮山反射炉は、1つだけで世界遺産に登録されているわけではない。端島炭坑(軍艦島)や旧グラバー住宅など、江戸末期から明治時代にかけて日本が西欧の技術を学び、急速な産業化を果たしたことを証明する他の資産とともに『明治日本の産業革命遺産』として世界文化遺産に名を連ねている。

このように複数の資産をまとめて1つの世界遺産として登録することを「シリアル・ノミネーション」と呼ぶ。「シリアル・ノミネーション・サイト(連続性のある遺産)」は個々の構成資産の価値ではなく、全体としての価値が評価されている。

九州5県など全国の8県11市に点在する23件の構成資産をまとめて見ると、日本の産業革命のストーリーを理解できる。そこに、世界遺産としての価値があるのだ。

韮山反射炉ガイダンスセンター
ガイダンスセンターでは、様々な展示や映像で韮山反射炉の建設にいたる時代背景や稼働当時の状況、その後の保存の取り組みなどについて学ぶことができる。

反射炉とは、鉄を溶かして大砲を作る炉のこと。石炭を燃料として発生させた熱や炎を天井で反射し、1点に集中させることで1000度を超える高温を作り出し、鉄を溶かす。このような、熱や炎を反射する仕組みから、反射炉と呼ばれている。

韮山反射炉ガイダンスセンター
反射炉建設のきっかけは、1840年のアヘン戦争。清(中国)がイギリスに敗北したことで、日本では欧米列強に対抗するための軍事力強化が大きな課題となり、西洋の先進的な技術が各藩で積極的に導入されるようになった。

1853年にはペリー艦隊が浦賀に来航。江戸幕府は海防体制を強化するため、韮山反射炉の建設を決めた。1857年、当時の最新技術をつめこんだ反射炉が完成した。

韮山反射炉ガイダンスセンター
その後、韮山反射炉では1857年から1866年にかけて、鉄製砲4挺、青銅製砲42挺がつくられた。さらに、大砲の弾丸の製造も行われていたのだという。

実際に稼働した反射炉として、唯一現存する韮山反射炉

韮山反射炉ガイダンスセンター
ガイダンスセンターで基礎知識を確認したあとは、いよいよ韮山反射炉の見学へ。依然として雨は降っているが、いざ出陣。

韮山反射炉
思わず見上げてしまう。高さはおよそ15.7m。反射炉の構造は炉と煙突に分けられ、石組みの基礎の上に耐火レンガで築かれた2基4炉の炉体部と4本の煙突からなる。

反射炉本体の建設技術は、幕末に長崎を通じて輸入されたオランダの大砲鋳造法を翻訳して取り入れたものだという。

韮山反射炉
左側の大きい穴から、原材料となる鋳物鉄(いものてつ)を投入。右側の小さい穴から燃料となる石炭を投入する。炉体の内部の天井はドーム状で、熱や炎が反射する仕組みとなっている。

1つの炉で溶かすことができる鋳物鉄の量は2〜3トン。実際に稼働していた反射炉としては、国内で唯一現存する貴重な史跡だ。

韮山反射炉
敷地内には、復元された大砲も。こんなにどデカい大砲を生み出せる反射炉を3年余りでつくったと思うと、すごい。

諸外国の脅威にさらされた危機感が、近代化への大きなエネルギーを湧かせたのだろう。危機は、成長、発展と隣り合わせだ。現代を生きる僕らに重要なヒントをくれたような気がする。

■詳細情報
・名称:韮山反射炉
・住所:静岡県伊豆の国市中260-1
・地図:
・アクセス:観光周遊型バス・歴バスのる〜ら「韮山反射炉」下車すぐ /伊豆箱根鉄道伊豆長岡駅から徒歩30分
・営業時間:9時〜17時(10〜2月は16時30分まで)
・定休日:毎月第3水曜日
・電話番号:055-949-3450
・料金:大人500円、小中学生50円
・公式サイトURL:https://www.city.izunokuni.shizuoka.jp/bunka_bunkazai/manabi/bunkazai/hansyaro/index.html

試作としてつくられた萩反射炉

韮山反射炉の見学を終え、次の目的地へ。

夜行バスで向かったのは、山口県萩市。明治日本の産業革命遺産の構成資産23ヶ所のうち、5つが萩にある。

またもや大雨に見舞われたが、行くしかない。道中、水たまりに突撃してしまい、靴も靴下もびしょ濡れになりながら、なんとかたどり着いた。

萩反射炉
萩反射炉。またもや反射炉だ。

萩反射炉
萩藩では海防強化として大砲を製造できる反射炉を1856年に建設。ただ、技術面や費用面から試作止まりで、実際の稼働まではいたらなかった。

萩反射炉
高さは10.5m。周りには、何もない。韮山反射炉のようにガイダンスセンターもなく、反射炉の遺構がぽつりとあるのみだ。

これがまた味わい深い。

萩反射炉単体で世界遺産になるのはたしかに難しいだろう。でも、目の前のモノに圧倒されたり魅了されたりしなくとも、23資産全体を貫くストーリーを理解している僕たちは強い。

募金箱
おっと、遺構の脇に世界遺産基金募金箱を発見!

世界遺産基金はユネスコの財政規則に基づき設立された信託基金で、専門家による遺産の調査、自然災害や戦争からの復興、途上国の世界遺産登録推薦書作成などに充てられているが、資金不足が大きな課題となっている。

世界遺産ファンのひとりとして、心ばかりだが募金をして、次の目的地へと向かう。

■詳細情報
・名称:萩反射炉
・住所:山口県萩市椿東4897-7
・地図:
・アクセス:萩循環まぁーるバス(東回り)「萩しーまーと」下車徒歩約7分 /JR越ヶ浜駅から徒歩20分、JR東萩駅から徒歩21分
・営業時間:自由見学(9時〜17時はガイドが常駐)
・定休日:なし
・電話番号:0838-25-3380
・料金:無料
・公式サイトURL:https://www.city.hagi.lg.jp/site/sekaiisan/h6077.html
ライター
コージー 世界遺産ライター

1994年生まれ。スポーツニッポン新聞社を経て、フリーライターに。大学時代のタイ留学で旅にハマり、バックパッカーデビューを果たす。世界遺産検定マイスターで、1000件以上登録されている世界遺産全制覇が夢。

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